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118/130

118・最強の四天王に育てられた俺は

3巻が好評発売中です

「私は反対だ!」


 会議開始後。

 いの一番に声を上げたのはカミラ姉だった。


「ブラッドはまだ子どもだぞ? それなのに不純異性交遊はまだ早い」

「儂もカミラの意見に賛成じゃ」


 クレア姉にしては珍しく、カミラ姉の意見に賛同の意を示す。


「ブラッドは立派になった。しかし女に溺れ、道を踏み外してしまう可能性もゼロではない。ブラッドは女についてもう少し勉強するべきじゃ」

「ちなみに……どうなったら許してくれるんだ?」

「そうじゃな……千年は勉強してもらおうか」


 長えっ!

 俺は魔王の血を取り込んでいる。ゆえに人間と寿命が同じなのかは分からないが……なんにせよ、千年なんて我慢出来ない。


「そもそもカミラ姉とクレア姉は、俺が彼女の部屋に忍び込んだ時も、黙認してくれたじゃないか。それなのにどうして今更?」

「それとこれとは話が別だ」

「うむ」


 カミラ姉とクレア姉が腕を組み、不機嫌そうな顔で何度も頷く。

 いつもは喧嘩ばっかだというのに、こういう時にだけ結託しやがって……。


「ブレンダ姉とローレンス姉はどう思う?」

「私は相手次第ですね」

「ボクも〜」


 ブレンダ姉とローレンス姉は、比較的柔和な意見だ。


「その点を踏まえ、ブラッドの恋人──アリエルについてですが、私の方でもあらためて独自に調査させてもらいました」


 バンッ!


 会議室のホワイトボードに、アリエルの似顔絵が貼られる。いつの間に用意したんだか。


「まず出自については文句はありません。ノワールの領主でもあるクアミア家の貴族です。責任感が強く、誰にでも優しい。剣術、知性共に優れており、周囲の冒険者からも尊敬されています」

「随分詳しく調べたんだな……」

「当然です。大事な問題ですから」


 キリッと真面目な顔をして、ブレンダ姉がそう答える。


「だったら、アリエルが素晴らしい人物だということが分かっただろ? 恋人として認めてくれても──」

「いえ──大きな懸念点があります」

「そ、それはなに!?」


 ドキドキハラハラといった感じで、ローレンス姉が彼女に問いかける。


「それは……おっぱいが大きいことです」

「はあ?」

「ブラッドも男の子。こんな大きなおっぱいで誘惑されれば、一たまりもないでしょう。なので私は断固反対の立場を取ります。おっぱいが大きいゆえに」

「難癖すぎないか?」


 そもそもブレンダ姉の胸もかなり大きい。それなのに、どうしてアリエルの胸だけを目の敵にするんだろうか。


「うーん、だったらボクも反対! そっちの方が面白そうだからね!」

「ローレンス姉は主体性を持ってくれ」


 溜め息を吐く。

 これで反対意見が四人になった。俺と魔王を含め、この会議には六人が出席しているので、この時点で過半数は超えてしまった。


 だが。


「魔王はどうだ?」


 俺は魔王に聞く。


 彼女は会議が始まってから目を瞑り、沈黙を守り続けていた。

 俺が次期魔王に指名されたとはいっても、現魔王が彼女であることには変わりない。

 仮に過半数を取られようとも、魔王が白と言えば白。多数決など無意味なのだ。


「我は……」


 魔王の目がかっと見開き、ゆっくりと喋りだす。

 みんなが固唾を飲んで、彼女の意見を見守った。



「我は嫌だあああああああ! ブラッドちゃんが結婚するなど、認めぬううううう!」



 ──いや、まあ分かってたんだが。

 やっぱり魔王も反対派だった。俺、詰んだ。


「というか、どうして話が結婚まで飛躍しているんだ!? 俺はアリエルと今のところは付き合うだけだぞ!?」


 そう──。

 女神との戦いが終わった直後、俺はアリエルに「愛している」と告白した。

 その言葉をアリエルも受け入れてくれ、俺達は正式にお付き合いすることになったのだ。


 しかし……ここで障害が立ち塞がる。

 魔王含め、四天王のみんなだ。


「付き合うだけだと……?」


 魔王は鋭い視線を俺に向け、こう語気を荒くする。


「ブラッドちゃんは中途半端な気持ちで、アリエルちゃんと付き合うつもりだったのか!? 飽きたらポイするつもりだったと? 結婚するつもりはないのだと!?」

「そ、そんなつもりはない。そりゃあ──」


 俺は魔王の勢いに負けないように、こう言葉を返す。


「ゆくゆくはアリエルと結婚したい。彼女とは真剣にお付き合いするんだ。だが、俺の意思だけを一方的に押し付けるのもどうかと思う。だからまずは恋人として──」

「なに、お利口ぶってやがる。年頃の男の人間は発情期の猿みたいなものじゃないか。お前も今すぐあの小娘──アリエルとエッチなことでもしたいんだろうが」


 とカミラ姉が嘆息する。


「そ、そんな不埒な気分で付き合うわけじゃない! いや、そりゃあ俺も、アリエルとそういう関係に至れたら素敵だと思うが……」


 想像してみる。

 結婚して──エプロン姿のアリエルが俺に駆け寄ってくる姿だ。



『ブリス、お帰りなさい。お風呂にしますか? ご飯にしますか? それとも……わたくし?』



 顔を赤くして、もじもじ体を動かすアリエル。

 スカートの丈も必要以上に短い。内股で両太腿を擦り合わせ、悩ましげに揺らす姿はなかなか刺激的だ。


 俺はいてもたってもいられなくなり、彼女を力強く抱きしめ──。


「ブラッド、なにを考えておる?」

「……っ! なんにもない!」


 クレア姉が目を細めて俺の顔を見てきたので、すぐにさっと視線を逸らす。

 女神と戦っている時以上に、今の俺は緊張していた。こうして動揺するのも仕方がない。



 その後、しばらく議論は続いたが……。



「はあっ、はあっ……まだブラッドはあの女と付き合うっていうのか!?」


 カミラ姉が息を切らしながら、俺を追及する。


「もう会議が始まってから、三時間が経過しましたね……」

「ふえぇ。ここまで会議が長引いたのは、初めてだよぉ」


 ブレンダ姉とローレンス姉もぐったりしていた。


 みんなの疲れも目立ってきた。よし──ここで畳みかけよう。


「何度も言うが、俺はアリエルと真剣に交際する。そして……それをみんなにも認めてもらいたい」


 それがみんなに対する、俺の誠意だと思うから──。


「みんなに許してもらえるまで、俺は何日でも──何年かかっても説得を続ける覚悟だ。俺の覚悟に付いてこれるか?」


 試すような口調でみんなに問いかける。


 すると一転。

 優しげな表情をして、魔王がこう口を開いた。


「──ブラッドちゃんが本気でアリエルちゃんを好きなことは分かった」


 魔王に言葉に、みんなも一様に頷く。


「どうやら我は子離れ出来ていなかったようだ。ブラッドちゃんがこうして大事な決断を下したのだ。我らもそれを認めざるを得ないだろう」

「だったら……」

「うむ、アリエルちゃんとの交際を──」


 魔王は少し言葉を溜めてから、


「認める!」


 と晴れやかな顔をして言ってくれたのだ。


 それはみんなも同じで、



「魔王様がそう言うなら仕方がないな。癪に触るが、私も認めてやる」

「儂もじゃ。アリエルが良いヤツだということは、今回の一連の流れを見て分かったしな」

「そもそも私達の可愛い弟が選んだ女性です。悪い女なわけがありませんから」

「ブラッド! お幸せにね!」



 と俺に祝福の言葉を投げかけてくれた。


「なんか長い会議をした割には、随分とあっさり認めてくれるんだな」

「まあ四天王のみんなも、ブラッドちゃんが一人前の男になったと認めておるのだろう」


 と魔王が弾んだ声で言う。


「じゃあ、話し合いも済んだところで……俺はそろそろノワールに戻るよ。アリエルが待っているだろうから」


 それに俺だって、早くアリエルに会いたい。

 俺は席を立ち、転移魔法を発動する。


「ブラッドちゃん! 落ち着いたら魔王城に戻ってくるんだぞ? そなたには次期魔王としての引き継ぎがまだまだ残っておる!」

「当たり前だ!」


 俺は親指をぐっと突き立てて、ノワールに転移するのだった。



 ◆ ◆



「魔王様。どうしてこのような茶番をやったのですか?」


 ブラッドがいなくなった後。

 ブレンダが魔王にそう問いかけた。


「茶番とは?」

「最初からお認めになるつもりだったのでしょう? そしてそれはこの場にいるみんなも同じです」


 ブレンダの言葉に、他の四天王も首肯する。


 魔王は椅子の背もたれに体重を預け、天井を向いた。

 こうしているだけで、ブラッドを拾った時──そしてここまで育てた記憶が甦ってくる。


「……なあ、嬉しいとは思わぬか? 誰と付き合おうが、ブラッドちゃんの勝手だ。それなのにわざわざ、それを我らに話してくれた」


 ブラッドがアリエルと一緒にいるのを実際に見た時から、魔王は最初から感じていた。


 ブラッドはアリエルを愛している。

 そしてアリエルもそれは同じだ。


 恋人同士になるのは時間の問題で、我らはそれを見守ることしか出来ない……と。


「だから我も真剣にブラッドちゃんの将来を考え、結論を出すべきだと思ったのだ。それが我らなりの誠意の形だろう?」

「……そうですね」


 とブレンダが微笑む。


「ブラッドに恋人か〜! ちょっと前までは、まだちっちゃい子どもだったのに……感慨深いね!」


 ローレンスも後頭部に両手を回して、感慨深い様子でそう口にする。


「ブラッドは幸せものだな。一生を賭してでも、守りたい異性が見つかるなんて」

「儂等では出来なかったことじゃな」


 カミラとクレアがお互いに顔を見合って笑う。

 会議室は幸せな空気で満たされていた。


「そう──あれがブラッドちゃんの良さであり強さだ」


 力というのは振るう者によって、良きにも悪きにも変わる。


 魔王がブラッドに口酸っぱくして教えていたことだ。


 これはブラッドが魔王の血に流され、力を暴走させないためという理由もある。

 だが──なにより、魔王はブラッドに立派な人間に育って欲しかったのだ。


「ブラッドちゃんは強い人間に育ってくれた。それが我は嬉しい」

「魔王様。もしかして泣いて……」


 ブレンダに指摘されそうになったので、魔王はみんなに背を向ける。


(この歳になると涙脆くなるのお)


 しかしそれは悲しさや寂しさからではない。

 目から零れ落ちる涙は嬉しさの結晶だ。

おかげさまで、小説3巻がKラノベブックス様より発売となりました。

皆様のおかげです。本当にありがとうございます。


また、白土悠介先生によるコミカライズ1巻も1月6日に発売予定ですので、そちらもぜひぜひよろしくお願いいたします。

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☆☆新作です。よろしければ、こちらもどうぞです☆☆
「憎まれ悪役令嬢のやり直し 〜今度も愛されなくて構いません〜」
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