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114/130

114・君はそこにいた

 俺は魔王達と別れた後、転移魔法で城の中に侵入を果たしていた。



「やはり来ましたか」



 そして──先ほどの大広間。

 ここも以前とは様変わりしている。白い繭の中のような不思議な空間で、俺はふわふわと宙に浮いていた。


 そこに──いた。

 アリエルの体を乗っ取った女神だ。


 とはいえ。


「ほお? 衣装替えか?」

「そうです。どうですか、似合っているでしょう?」


 と女神が楽しそうに笑う。


 女神は黒いドレスを身につけていた。少女と大人の境目にある絶妙な色気。普段の健康的なアリエルとは違い、妖艶な雰囲気をその身に纏っていた。


「残念ながら──少し遅かったですね」


 女神は続ける。


「完全にこの体を掌握しました。この娘──アリエルの意識はもう残っていません。彼女は死にました。あなたにはもう戦う理由がありません」

「そんなものを俺が信じるとでも?」

「信じないなら、それでもいいでしょう。しかし今の私は本来の力を全て引き出すことが出来ます。あなたにはもう勝ち目はないのですよ」

「では、試してみるか?」


 俺は剣を抜き、女神の動きを観察する。

 優雅に所作で彼女は右手に剣を錬成する。漆黒のドレスとは違い、白く輝きを放つ剣だ。

 その剣に込められる魔力を見ただけでも、圧倒されてしまう。あれは空を裂き海を割ることも容易に出来る神剣しんけんだ。


「閃・万華鏡せん・まんげきょう


 彼女がゆっくり剣を振るう。


 たった一振りだった。

 しかし、それだけで一万の気斬が四方八方から俺に殺到する。


「アリエルが使っていた千本気斬華せんぼんきざんばなにアレンジを加えたといったことか?」


 ならば──不快だ。それはお前ごときが使っていい技ではない。


 俺も対抗するように剣で一閃。こちも一万の気斬を飛ばす。

 気斬は衝突し合い、俺の体に届く前に全て消滅した。


「この程度か?」

「まさか」


 口元に微笑みを携えたまま、女神は一気に俺と距離を詰める。

 彼女の攻撃を受けつつ、こちらも牽制の一手を繰り出す。踊りのような戦いが展開されていった。


「あなたはなんのつもりですか?」


 僅かな集中力の欠如が死を招くというのに。

 女神は世間話を振るかのような気軽さで、俺に問いかける。


「なんのつもり……とは?」

「私はこの世界の創造主です。その神をあなたは殺そうとしているのですか?」

「そうだ。だから俺がここに来た」

「仮にそれが可能だとしましょう。ならばあなた達、人間──そして魔族は神なき世界でどうやって生きていくつもりですか?」

「俺達を生んでくれたことには感謝をしよう。しかしお前が俺達になにかをしてくれたか? ただ悪戯に、俺達を混乱させていただけではないのか?」


 昔──両親が魔物に殺される時、俺は神に祈った。

 両親を助けてくれと。


 だが、その祈りは通じず両親──そして俺は殺されてしまった。


 それだけならまだいい。神といえども、全ての事象に目を届かせられない。世界というのは呆気なく悲劇を迎える。


 だが、こいつのしたことは見捨てることだけではない。

 自分から積極的に紅色の魔石をばら撒き、多数の人生を狂わせてきた。それは仮に神が相手だとしても、万死に値する罪だ。


「それなのに今更、親気取りか? おこがましすぎて反吐が出るな」

「私はずっとあなた達のことを見守っています……今でもね」


 女神が手をかざす。


「失落せよ、光──コラプションレイ・アルファ」


 無慈悲な光の雨が頭上から降り注ぐ。

 結界魔法を張るが、光線に当たった瞬間に消滅してしまった。

 もし直撃したとしても治癒魔法で治せば問題ないが、こいつの魔法にはそれを阻害する効果がある。一発でも直撃すれば死。細心の注意を払わなければならない。


 ゆえに俺は光の雨の隙間を掻い潜りながら、コンプランションレイを回避していった。

 かすっただけで意識が飛びそうなくらいの痛さが襲いかかってくる。

 それでも俺は表情を変えず、女神に斬りかかった。


「くっ……!」


 女神の表情が歪む。


「い、一体この力……どういうことですか? 先ほどまでのあなたなら、もう死んでいるはず。まさか手加減していたとでも」

「察しがいいな。そういうことだ」


 剣撃けんげきや魔法を浴びせ、女神を追い詰めていく。

 あれだけ豪奢だった彼女のドレスは破け、白い肌が露出する。



 ──もう少しだ。アリエル、我慢してくれよ。



 俺は心の内でそう呟くが、攻撃の手は緩めない。


「リーフグロウ」


 魔法名を唱えた直後──巨大な植物の蔦が現れ、それは女神を拘束する。

 かなりの苦痛を感じているはずだ。


 それなのに──それとも、最初から痛覚など存在しないのか。

 女神は一切表情を歪めず、逆に悲しげな表情で俺にこう告げる。


「哀れな……神なき後の世界であなたのような弱い存在が生きていけるはずがないでしょう。きっと後悔します」

「後悔などしない。それに俺一人で無理なら、他人と手を取りあえばいい。人間だけで無理なら、魔族の力も合わせればいい。そうやって俺達は生きていくんだ」


 俺は剣を振り上げ、女神に向かっていく。

 その瞬間、目の前が真っ白になった──。





「ここは……?」


 光に包まれた空間。

 地面も空もなくて、平衡感覚もあやふやになる場所だった。


「ブラッド」


 後ろから声をかけられる。

 カミラ姉、クレア姉、ブレンダ姉、ローレンス姉──魔王軍四天王だった。



「お前にはがっかりしたよ」

「無能はおとなしく、家で閉じこもっておけ」

「もう少し頑張ってくれると思っていたんですけどね」

「ふえぇ、ブラッドがここまでバカだったなんて……」



 口々に俺を罵る。


「なるほど。これは女神が俺に見せている幻覚ということか」


 俺に正攻法で勝てないと悟った女神が、精神攻撃を仕掛けてきているのだろう。

 常人なら騙されるかもしれないが、この程度で俺がどうにかなってしまうとでも?

 しかし四天王と同じ顔をした幻覚が罵ってくる光景は、単純に腹が立つな。


「ブラッドちゃん。そなたは次代の魔王だ」


 今度はどこからともなく、魔王の幻覚も現れる。


「その自覚はあるのか? ここでアリエルを殺せ」

「うるさい」


 バカにするのにもほどがある。

 俺は剣を振るって、四天王と魔王の幻覚を斬り裂いた。


「ブリス」


 その名で俺を呼ぶということは──。

 振り返ると、黒いドレスを着たアリエルがこちらに歩いてきた。


「疲れたでしょう? もう休みましょう。あなたは十分頑張ってくれました」


 アリエルの右手が俺の頬を撫でる。

 そうされるだけで安心する──このまま全てを放り投げて、目を瞑りたくなる。


 だが。


「アリエル」


 俺はアリエルの両肩を掴んで、彼女の透き通った双眸を真っ直ぐ見つめる。


「もう少しなんだ。もう少しで戦いが終わる。アリエルも苦しいだろう。しかし俺が君を助けるまで、待っていてくれないか?」

「──はい」


 その瞬間──黒いドレスが弾け、光の粒子となる。それはそのままアリエルがいつも着ている服に構築された。


「休んでください──とは言いませんわ。あなたなら出来る。わたくしはあなたに救われたい。そして──わたくしにあの夜の続きを見せてください」

「もちろんだ」


 そう力強く答えると、アリエルの姿は霧散し──。

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