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110/130

110・絶望は天からやってくる

「ここはわたくしが食い止めますわ! だからみなさん、早くここを──くっ!」


 気付けば、彼女が抱えていた光の球はなくなっている。

 代わりに彼女が頭を抱えて、その場で苦しみ始めた。


「あなたの好きにはさせません……っ!」


 先ほどまでとは声の性質が違う。

 女神に完全に乗っられてたと思っていたアリエルだが──その中には意識がまだ残っていたのだ。


「くっ……! まだ抵抗するというのですか。私を拒絶するということですか……」


 顔を右手で覆い尽くし、左手でなにかを払うような動作を見せる女神。



 ゴゴゴゴゴゴッ!



 その瞬間、魔王城が地響きを始めた。


「いかん! 崩れるぞ! 全員退避だ!」


 と魔王が焦燥感を声に滲ませて叫ぶ。


「ブラッドちゃんも逃げるぞ! アリエルちゃんが女神を押さえ込んでいる今なら、転移魔法で離脱出来る!」

「し、しかしアリエルが……」

「そなたはアリエルちゃんのことになるとポンコツになるな!? せっかくアリエルちゃんが作ってくれたチャンスなのだ。それを不意にするつもりか!?」


 魔王に怒鳴られても、俺の心の靄は取れなかった。


 分かっている──間違っているのは自分なのだと。

 しかし頭では分かっているものの、アリエルを見捨てたくない自分もいた。


 逃げなければ──でもアリエルが。


 心に大きな矛盾を抱えているせいで、体が鉛のように重い。

 魔王城が崩れていく光景も、俺にはまるで他人事のように見えた。


「ああ、もうっ!」


 そんな俺の首根っこを魔王が掴む。


「強制転移だ! 皆も可能な限り我に近付け!」


 魔王が転移魔法を発動。

 周囲の風景が朧げになっていく。


 だが、アリエルが苦しんている姿が最後まで視界に入る。


 そんな彼女を見て、俺の心は壊れそうなくらいに悲鳴を上げていた。


「アリエル──っ!」



 ◆ ◆



 魔王城から少し離れた小高い丘の上。

 俺達は魔王の転移魔法によってそこに避難し、崩壊していく魔王城を眺めていた。


「見て! 魔王城が変わっていくっ!」


 声を上げたのはローレンス姉。


 元々、魔王城の外観は夜のように黒かった。さらに城の周りに張っている結界の影響で、太陽は常に灰色の雲によって阻まれ、雷が落ちている。

 だが、完全に崩壊したように見えた魔王城から聖なる魔力が爆発したかと思うと、一から組み直されていった。

 あっという間に魔王城は白く生まれ変わり、邪悪さなどほど遠い聖なる空気を漂わせていた。

 空を覆う暗雲は消失し、満月が俺達を照らしている。


「あやつ……我の魔王城を……っ」


 悔しげに魔王は表情を歪ませ、拳をぎゅっと強く握りしめる。


「ア、アリエルは大丈夫かな?」


 エドラが心配そうに呟く。


「安心していいでしょう。女神の言葉を信じるなら、アリエルは大切な器。そう簡単に放棄するとは思えません。もっとも──」

「そうだ! アリエルを助けにいかなくちゃならない! こんなことをしている間にもアリエルは……っ」


 彼女の苦しむ顔を思い出すと、胸が張り裂けるように痛い。


 転移魔法を発動し、再び魔王城に舞い戻ろうとすると──。


「てめえ!」


 そんな俺の胸ぐらをカミラ姉が掴み上げた。


「この期に及んで、まだそんなことを言っているのか!? 諦めろ。あれはもうアリエルじゃない。あいつは死んで、残ったのはよく似た姿をしたクソ女だ」

「だ、だが……」


 彼女の考えを否定しようとすると、クレア姉が隣から咎めるような口調でこう口にする。


「先ほど、無様に敗北したのは忘れたのか? なんら策も練らずに戻ったところで、なんとかなるとでも?」

「──っ!」


 クレア姉の言葉に、俺はなにも言い返せなかった。


 早くアリエルを助けにいかなければ──しかしこの状況で戻ったとしても、なにも出来ない。

 胸を苛むもどかしさで、呼吸が苦しくなる。このままここで倒れてしまいたい。


 しかし俺はそれを必死に堪え、


「……そうだな。俺が悪かった」


 と声を絞り出した。


「……ちっ。家出してちょっとは成長したと思ったが、このままでは無能に後戻りじゃあねえか」


 気に食わない──そう言わんばかりに、乱暴な所作で俺から手を離すカミラ姉。

 彼女にそんな罵詈雑言を投げつけられても、俺の心は空虚なままだった。


「……全部、女神のせいだったんだ。でも本当に女神は世界を滅ぼすつもりなのかな?」


 エドラが誰に言うこともなく、ぼそっと疑問を口から漏らす。


「ヤツは本気だろうな」


 それに対して、魔王が答える。


「いや──ヤツからしたら『滅ぼす』というのも、また違うだろう。謂わば、この世界はヤツにとっての遊び場。遊ぶのに飽きたから今の場所を壊して、また新しい遊び場を創ろうとしている。それを救済と女神は言っているわけだ」

「そ、そんなことのために、人や魔族の生命を弄んできた……?」

「そうだ。女神にとっては、我らは虫ケラ同然。虫がなにをしようと興味がないし、こちらがいくら叫んでもその声は届かない。それが許されるだけの力もある」


 女神がこの世界にばら撒いた紅色の魔石によって、幾多の人生がおかしくなってきた。

 確かに、元はと言えば過ぎたる力を手に入れ、調子に乗ったディルクやアヒムのせいだろう。

 しかし彼女が力を与えなければ、そもそもこんなことにはならなかったのだ。


「だが、私はヤツの思い通りにさせるつもりはない」


 俺が自分の無力感に苛まれている間にも、魔王は冷静にこう続ける。


「とはいえ、このまま戻ってもまた返り討ちにされるだろう。今からの方針を──っ!?」


 そこでみんなは気付く。


「なんだ……? この魔力は?」


 ここにいても分かる。

 世界の各地で魔力が爆発した。

 その魔力は消える様子もなく、さらに大きくなっていく。


「……そうだ、ユリアーナ!」


 俺はユリアーナのことが気にかかり、魔法で彼女と通信を取る。


「ユリアーナ! 俺だ!」

『この声は……ブリスかい?』


 頭の中に彼女の声が響く。


「魔力が爆発したような気配があった。王都ではなにも起こっていないか──?」

『いや、それは──』



 ──ドゴォオオオオオンッ!



 彼女の背後から爆発音が聞こえる。

 よくよく意識を集中させると、逃げるような足音や人々の悲鳴が聞こえてくる。


 ユリアーナ自身も走っているのだろう。

 彼女は息を切らしながら、こう答えた。


『正体不明の巨人が急に出現したんだ!』

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