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11・初めての稽古

 翌日。


 街外れの空き地に行き、そこで俺はアリエルに剣術を教えることになった。


「よろしくお願いします!」


 アリエルは意気込み、気合いに満ちている様子だ。


「……もう一度言うけど、俺は人様に教えるような剣術なんてない。それでも本当にいいのか?」

「またまた……謙遜を。わたくしはあなた以上の剣士は見たことがありませんわ」


 別に謙遜しているつもりはないが……。

 それに自分では剣士のつもりはない。四天王が俺に施した稽古……というよりイジめは、魔法や支援など多岐にわたっていたためだ。


「まあいっか……」


 アリエルがそう言うなら、もうなにも言うまい。


木剣ぼっけんは用意してくれたか?」

「もちろんですわ」


 アリエルが二人分の木剣を取り出す。

 真剣でやるのは、あまりにも危ないだろう。そういうわけで、今回はこの木剣を用いたいと思う。


「なにから教えよう」

「ブリスの得意なものからで良いですわ。わたくし、どんな内容でも頑張ってみせますので」


 得意なものか……そんなもの、俺にあったっけな。


 腕を組んで、記憶をさかのぼる。


 ああ……そういえば、カミラ姉から教えてもらって、唯一ちょっと得意なものがあった。

 とはいえ基礎的な内容だし、アリエルは知っている可能性が十二分にある。


 だが基礎も大事だ。

『得意なものからで良い』とも言われているし、今回はそれを教えるとしようか。


「アリエルは気斬きざんを知っているか?」

「気斬?」


 アリエルが首をかしげる。


「気斬……もしかしたら呼び方が違うかもしれないな。俺のは他から聞いた呼び名だし」

「その気斬というのはなんなんですか?」

「遠距離からでも敵に攻撃出来る方法だ」

「遠距離から? 魔法かなにかでしょうか」

「見てもらう方が早いな」


 俺はアリエルから木剣を受け取り、廃墟の壁に向かって構えた。


「気斬」


 剣を振りかぶる。

 すると衝撃波が剣から放たれ、壁に斬り傷を付けたのであった。


「えっ……!? 先ほど、なにをやったんですか? 壁に触れていませんのに……ああ、こんなに深く傷が付いている」


 アリエルは壁に付いた斬り傷を見て、驚きを隠せないようであった。


「これが気斬だ。その様子なら知らなかったみたいだな」

「そんな魔法じみた剣術、知りません!」


 断定するアリエル。


「魔法によく似ているかもしれないが、れっきとした剣術だ。剣を振り、衝撃波を飛ばすことによって相手を攻撃する。これを習得すれば、戦うパターンも格段に増える……と思う」

「こんな技、わたくしにも習得出来るのでしょうか? こんなものがあれば、空を飛んでいる魔物でも倒せるんじゃ……」

「アリエル、その通りだ。基礎中の基礎だが、習得すれば空を飛ぶ敵にも攻撃出来る……どうだ? 出来そうか?」

「や、やってみます」


 アリエルが同じように剣を構える。


「はあっ!」


 上段から剣を振るう。


 ……しかしそれだけでは衝撃波は飛ばない。

 壁には一切の傷が付いておらず、それを見て彼女は肩を落とした。


「同じようにやってみましたが、出来る気がしません……」

「最初だからな。もっとコツがいるんだ。そうだな……空間を断絶するようなイメージ、と言っていいだろうか」

「く、空間を断絶? よく分かりませんわ……」


 ダメだ。ますますアリエルを混乱させてしまった。

 まいったな。今まで教えられる側だったので、どうやって教えればいいか分からない。


「少し失礼するぞ」


 俺はアリエルの後ろに回り込み、彼女の両手にそっと握った。


「……!」


 びくんっと彼女の肩が震える。


「す、すまん。いきなり触られるのは、やっぱり不快だよな?」

「そ、そんなことありませんわ! このまま手取り足取り教えてくださいませ!」


 すぐにアリエルは気を取り直し、前を向いた。


 耳たぶが徐々に赤くなっていく。

 男性に触られて恥ずかしいのだろうか。


 彼女ほどの美しい女性なら、男性に言い寄られることも多いだろうに……案外そうでもないのだろうか。

 まあ今はそんなことを考えている場合でもないか。


「これはこう動かして……」


 ()()()()()()アリエルに教える。

 言葉で説明するより、実際に体を動かす方が教えやすいと思ったからだ。


「どうだ、アリエル。少しはコツがつかめそうか?」

「は、はい……! それにしてもブリス、わたくしの剣の振るい方とは違いますね。少し言い方は悪いかもしれませんが、荒々しくて……」

「俺はアリエルとは違って、キレイな剣筋じゃないからな。相手を倒すことに重きを置いた振るい方だ」

「わたくしの今までの剣術の常識が、根底から覆されそうです……わたくし、今まで間違ったことをしていたのでしょうか?」

「そんなことはない」


 強く断定する。


「アリエルの剣はアリエルの剣のままでいい。正直、最初アリエルと戦った時は衝撃だった」

「わたくしの剣がですか?」

「そうだ。華麗で舞いを演じるかのようだった。俺もこんな剣の振るい方をしてみたい……としみじみ思ったほどだ。だからアリエル。今までの自分を否定しなくてもいいと思う。ただ少し変えてやるだけで、気斬は誰でも放つことが出来る。だからもっと自分に自信を持って欲しい」

「……はい! ありがとうございます! あなたに褒められると、なんだかとても嬉しいですわ」


 アリエルは花のような笑顔を浮かべた。


 実際今までのやり方を殴り捨て違うものを上塗りしてやるよりも、今まで培ってきた土台を活かした方が効率がいい。


 とはいえ、よくカミラ姉には、



『お前のやり方は全て間違っている! 今までのものは捨てて、もう一度一からやるつもりで取り組むんだな!』



 と言われていた。


 俺はあんな連中のようになりたくない。

 絶対こちらの方が効率が良いと思ったからこそ、アリエルにそう教えた。


「最初の頃より格段に良くなっている。だからアリエル、自分らしく頑張っていこう」

「分かりました!」


 それからしばらく、俺はアリエルに教えを施していった。

 アリエルも筋がよく、教えたことをすぐに吸収するので、途中で楽しくなってきたほどだ。



 やがて日が暮れ、



「今日はここまでにしようか」


 とアリエルに稽古の終わりを告げる。


「もうちょっとやってみたかったですのに……」

「焦るのもよくない。偉そうな言い方になるかもしれないが……努力は素晴らしいが、がむしゃらにやる努力は徒労だ。あくまで方向性を間違わない……それが俺は大事だと思う」

「わたくしもそう思います!」


 アリエルが賛同してくれた。


「それにしてもわたくし、本当に壁にこれだけ傷を付けることが出来るのでしょうか?」


 再度俺が壁に付けた斬り傷を見て、アリエルがふと声に出す。


「アリエルだったら可能だ。俺の見立てでは一週間……いや五日もあれば、気斬を使えることが出来ると思う」

「た、たった五日で!?」


 アリエルが目を丸くする。


 そもそも俺が気斬を使う時には手加減をした。本気を出せば、この()()壁くらいなら、廃墟ごと真っ二つにすることも可能だろう。


 これくらい……誰でも出来ると思ってたんだけどな。


 やはり魔王城の外は、俺の知らないことで溢れている。

 今日の一件でまたそれを強く意識するのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「気剣」という、他にはない独特な技があり、他にもブリスがどんな技を使うのかを知りたくてどんどん読みふけってしまいました。とても、面白いシリーズだと個人的に思います。 [気になる点] 16行…
[気になる点] 「木剣(きけん)は用意してくれたか?」 >ぼっけんだと思います
[一言]  とりあえず。  魔王様って、どんな人なんでしょう?  個人的には、金髪巨乳なショタコンお姉様であって欲しいですね(願望)。  勿論、銀髪巨乳な褐色お姉様でもOKですよ(欲望)。  溺愛する…
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