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109・降臨

「問おう。そなたは何者だ?」

「私はこの世界の創造主。世界を救済するため、この世に顕現しました」


 彼女がそう言うと、魔王は目を見開く。


「やはり……か」

「どういうことだ? 魔王はなにか察しが付いているようだが……」

「女神だ」


 混乱する俺達に、魔王はそう短く告げる。



 女神──。



 神層にいるとされる存在だ。


 どうしてそんなものがアリエルの中に?


「蒼天の姫とは、女神の器のことじゃったか」


 魔王の言葉を聞いてなにか合点が付いたのだろう。

 クレア姉がアリエル──の姿を借りている女神から視線を逸らさず、そう口にした。


「その通りです。私は今まで器を探していた。そしてようやく──完全な器を見つけることが出来たのです」

「全て繋がった。この神聖な魔力と邪悪な気。間違いない。あの宮廷魔道士エトガルの中に入っていたのもお主じゃな?」


 クレア姉の問いに、女神はゆっくりと頷いた。


「真相に辿り着いた褒美に答えてあげましょう。私は──数々の器に乗り移りながら、ゼブノア教団の教皇として、世界中に紅色の魔石をばら撒いていました」


 淡々と女神は続ける。


「時には不遇な執事に紅色の魔石を。時には非才と嘆く魔族に魔石を。あの女騎士──ユリアーナに魔力を仕掛け、裏から操っていました」


 ユリアーナが言っていた老婆というものも、今思えば、中身は女神だったんだろう。

 どおりで教皇の正体が掴めなかったはずだ。


「不完全な器では、紅色の魔石を使わなければ活動することが出来なかった。しかもそれも短時間だけ。だからこそ、小細工をして完全な器──蒼天の姫を奪還しようとした。そしてそれは成功しました」


 神聖な魔力が彼女を中心に奔流する。

 見ているだけで頭を垂れ、無条件に降伏したい欲求に駆られる。だが、寸前のところで踏みとどまり、彼女から視線は切らさない。


「さあ、救済です。あなた達はそこで跪き、私に頭を垂れなさい」

「誰がてめえの言うことを聞くか!」


 先に仕掛けたのはカミラ姉だった。

 彼女は床を蹴り、女神に襲いかかる。猛烈な勢いで剣を振るうが、彼女に当たる寸前──剣が灰と化した。


「……!?」

「哀れな……」


 女神がさっと手をかざすと光の衝撃波が発生し、カミラ姉が後方に吹っ飛ばされる。


「ちいっ!」


 舌打ちし、床に着地するカミラ姉。女神を見上げる視線には明確な敵意があった。


「カ、カミラ姉」

「なんだ? まさかこの期に及んで、アリエルに攻撃しちゃダメだ〜なんて言い出すつもりか?」

「……いや」


 正直、迷いがないかと言われるとそうではない。

 中身は女神とはいえ、あれがアリエルであることには間違いないのだ。

 アリエルごと女神を斬ってしまえばどうなるのか──彼女がいなくなることを想像したら、恐怖で体が動かなくなる。


 しかしそう言っていられないのも事実だ。


 女神がエトガルの中に入っていた時も、彼女は一切の躊躇なく俺達を殺そうとした。

 ゆえにここで俺が地団駄を踏んでいたら、無慈悲に殺されてしまうだろう。そうなってはアリエルを救うことも出来ない。


「俺は……戦う。みんな、殺すつもりでアリエル──女神を無力化してくれ」

「当たり前だ!」


 カミラ姉がそう啖呵を切る。

 俺の言葉でみんなは本格的に戦い始めた。


「おい、クレア! ローレンス! そしてそのちっちゃな魔法使いも私に力を貸せ!」

「お主に命令されるのは気に食わんが──承知した!」

「わ、分かったよー!」

「う、うん!」


 クレア姉がカミラ姉の右手に魔法剣を握らせ、それをローレンス姉とエドラが魔法で強化する。

 特にローレンス姉は《支援》の最強格。

 カミラ姉の右手にある剣は、天井に届かんとするばかりの大剣となる。


「はあああああっ!」


 それをいとも容易く振るうカミラ姉。

 剣を振るった風圧だけで、古代竜くらいなら殺せる一撃。それほどの威力だ。


 だが。


「──アブソリュートガーデン」



 ──女神の体には届かなかった。



「ちっ、結界魔法か」


 カミラ姉が悔しさで顔を歪める。

 女神の周りに聖なる結界が張られていた。古代竜を一発で屠るカミラ姉の攻撃を受けても、その結界にはヒビ一つ入らない。


「ブラッドもそこでぼーっと突っ立ってないで戦え!」

「もちろんだ!」


 その後──俺達はありとあらゆる攻撃を女神に浴びせた。


 しかし彼女に張られている強固な結界を破ることすら出来ない。

 そうしている間にも女神も魔法で応戦し、俺達は傷ついていった。


「パーフェクトキュア」


 癒しの光が俺達を包む。

《治癒》の最強格ブレンダ姉の治癒魔法だ。


 それによって、致命傷ですら一瞬で癒やされるが──その効果も徐々に薄れていく。

 どうやら女神の魔法攻撃には、特殊な魔力が含まれているらしい。そのせいで治癒魔法の効きが悪くなっている。


「舐めるな! ダークバースト!」


 魔王が上級闇魔法を放つ。

 闇の牢獄が女神の周りに形成。結界ごと闇の大爆発で破壊しようとする。


「……っ!」


 俺はそれを見て──何故だか心が痛くなった。


 魔王が加減を少しでも誤ってしまえば、アリエルの体は粉々になってしまう。

 こんな状況だというのに、そんなことが頭をよぎってしまう自分に嫌悪感を覚えた。


 だが──この程度で女神を屠ることは出来なかった。


「無駄です」



 ダークバーストの直撃を受けてなお、女神は無傷だった。



「あなた達の足掻きを観察していましたが、この程度ですか」

「……そなたはなにを考えておる?」


 不可解そうな表情で魔王が問う。


「神層にある紅色の魔石をばら撒いて、世界を滅茶苦茶にして……今は我らを殺そうとする。そなたの目的はなんだ?」

「世界を我が手に──いえ、この世界を白紙にしてしまうことです」

「白紙……?」


 女神の両手に魔力が集中していく。

 当然、俺達もそれをわざわざ見逃すつもりはない。なんとかして女神の動きを止めようと集中攻撃を浴びせるが、どれ一つ彼女に届かなかった。


「この世界はいつの間にか穢れてしまった。私がやったことは紅色の魔石をばら撒いただけ。その後の行動は特に制限しませんでした。例外はただ一つ──私の器となる蒼天の姫を奪還するためのみ」


 女神は悲しげな表情で続ける。


「彼等・彼女等は紅色の魔石を持つだけで、おかしくなっていきました。真面目な執事は信頼する令嬢を裏切りました。忠実な部下は上司を裏切りました。少し力を持つだけで勘違いをする──あまりにも哀れです」

「その通りだな。だが、それをそなたにごちゃごちゃ言われる筋合いはない」


 魔王が上級闇魔法を数十発放ちながら、女神に嫌悪感を向ける。

 こうしている間にも、女神の両手に集約されていく魔力は大きくなっていった。


「だから私はこの世界を白紙にしてしまうことに決めました。そして世界を新しく作り変えるのです」

「そんなくだらないことで世界を壊そうと? そうなれば私達はどうなる?」

「当然、死ぬでしょう。ですが、安心してください。これは破滅ではなく救済です。なにも怖がることはないのですから──」


 いつの間にか女神は両手で大きな光の球を抱えていた。


 直感で理解する。


 あれは──危険だ。


「手始めに、あなた方を救済しましょう」


 聖なる光が大広間に拡散していく。


「皆のもの! 伏せろ! 体が粉々にならなければ、私が蘇生魔法をかけてやれる──」

「それも無駄です。私の聖なる魔力の前では、治癒や蘇生魔法など無意味なのですから」


 光がさらに大きくなり、俺達は──。



「みなさん、逃げてください!」



 女神の──いや、アリエルの声?

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