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108・哀れな

 その後、俺はエドラとも合流し、叫び声がした場所まで急いだ。


「GAAAAAAA!」

「随分と目覚めが悪いんだな、アヒムよ」


 そこは魔王城の大広間だった。

 到着すると、既に魔王とブレンダ姉、そしてローレンス姉の三人が揃っていた。

 アヒムの体が紅色の光に包まれている。

 肌も変色していて、手足も変な方向に曲がっている。禍々しい魔力が体から漏れ、一見しただけではアヒムだと分からないほどの変貌っぷりだった。


 まるで魔物だ。

 そんな彼の姿を──俺はディルクと重ね合わせた。


「GAAAAAAA!」

「おっと」


 そんな異常なアヒムの姿を見ても、魔王には僅かな怯みも見られない。

 アヒムは魔王に拳を振るうが、彼女は涼しい顔をしてそれを避けて、俺達に視線を向けた。


「おお、ブラッドちゃんか。アリエルちゃんも無事なようだな」

「一体これはなんの騒ぎだ? どうしてアヒムがこんなことになっている?」

「知らん。まあ本人から聞くのが一番早いだろう」


 魔王が俺と言葉を交わしている間に、アヒムが光魔法ディストラクションレイを発動する。

 魔力量だけでいうと、王都の時よりも数十倍強化されている。これもアヒムの姿が変貌していることに関係しているのだろうか。

 一条の光が伸び、魔王の命を刈り取ろうとする。


「アヒムにしては、なかなかやるではないか」


 その光を魔王はまるで虫を前にしたかのごとく払い除けた。

 全く効いていないことを受け、アヒムの動きが一瞬止まる。


「拳骨で許してやろう」


 魔王はアヒムの眼前まで一瞬で移動。

 彼の頭に思い切り拳骨を落とした。



 ガンッ!



 鉄と鉄がぶつかるような鈍い音が、大広間に響いた。

 アヒムはたった一発で床に倒れ、動かなくなった。


「心配するな。殺してはおらん。こやつからは色々と聞かねばならぬことも多いしな」


 俺達の方に振り返って、魔王はにかっと少年のような笑みを浮かべた。


「ねえねえ、ブリス」

「なんだ?」

「えーっと……どうしてみんな、平然としてるの?」


 とエドラが首をかしげる。


 それに対して、四天王一同が腕を組んで、俺の代わりにこう答えた。


「こんなもので魔王様がどうにかなるわけがなかろう」

「その通りじゃな」

「魔王様にとっては、こんなもの準備運動にもなりません」

「魔王様は最強だからね〜」


 なにを当たり前なことを──と言わんばかりの表情。


「まあ、そういうことだ。魔王がこんなのでやられるわけがない。そう思っているからだ」

「……り、理解した」


 呆然とするエドラ。

 まあ魔王が戦っているところは目の当たりにしたことがなかっただろうし、エドラが疑問に思うのも仕方がない。


「しかし一体なんだったのだ。いきなり叫び声を上げて──!?」


 空気が少し弛緩した直後。

 真っ先に魔王がアヒムの異常に気付き、瞳孔を開く。


「アヒムが燃えている……?」


 彼が急に発火し、黒炎がその体を包んでいた。


「ウォータープリズン」


 そんなアヒムに対して、クレア姉がさっと手をかざす。


 発火している彼を水の牢獄が囲う。ただの炎ならこれで消えるが、ますます燃え盛るばかり。

 あっという間にアヒムが完全に焼失してしまった。


「ちっ……」


 舌打ちして、魔法を解除するクレア姉。


「せっかくの貴重な情報源を失ってしまった。魔王様、許して欲しいのじゃ」

「よい。なにも出来なかったのは我もだからな」


 真剣な表情を崩さず、魔王はアヒムが消えた空間をじっと見つめていた。


 どうして急に? 分からないことばかりだった。


「取りあえず、解散でいいんじゃないか? 明日に備えるのも立派なことだと思うし──」


 俺が言葉をそう続けようとした時──魔王がぎょっとした表情になる。



「ブラッドちゃん! 後ろだ!」



 ──血の匂い。


 痛みは遅れてやってきた。


「さ、刺された……?」


 俺はゆっくりと後ろを振り向く。









 すると──そこには悲しげな表情をして、俺の胸を剣で貫いた()()()()の姿があった。


「どうして君が……」


 混乱していると、彼女は慈しむような声でこう告げた。


「哀れな……」




「ブラッドちゃん!」


 すぐさま魔王が駆け寄り、俺とアリエルを引き剥がそうとする。

 しかしそれより早く、アリエルは俺の体から剣を抜き、少し離れた空中に転移した。


「ようやく体に馴染みました。あなた達を一箇所に集めることも結果的に出来ましたし、ここでまとめて救済してあげましょう」


 空中から俺達を見下ろすアリエルは、神聖な雰囲気を纏っていた。


「ブラッド! 大丈夫ですか!?」

「いや、問題ない」


 駆け寄ってくるブレンダ姉を手で制する。


 危なかった……間一髪のところで心臓を動かし、なんとか致命傷を避けることが出来た。

 魔王に言われなければ、それも出来なかっただろう。相手が俺達に蘇生魔法を使わせてくれると思えないし、そうなったら本当に死んでいた。


 俺は治癒魔法で傷を癒しながら、アリエルを見上げる。


「アリエル。なにを考えて……」

「そやつは最早アリエルちゃんではない。いや──正しくはアリエルちゃんの中に異物が入り込んでいる」


 魔王が警戒心を含ませて、アリエル──いや、正体不明のなにかに鋭い視線を向ける。


「問おう。そなたは何者だ?」

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