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104・一時の休息

 転移魔法で向かった先は王都の魔法研究所だ。

 ここは紅色の魔石を保管していたこともあって、《大騒動》での被害も大きかった。

 そういうこともあり、研究員の人達は未だに慌ただしく動き回っている。


「ダミアンさんには感謝しないといけないな。研究所の人達も忙しいだろうに、俺達を匿ってくれて……」

「いい。ブリスはお父さんの命の恩人だから。『これくらいはお安いご用』ってお父さんも言ってた」


 エドラはそう即答してくれた。

 まあそのおかげで、俺達はこうして一息吐くことが出来ている。

 試練から続いて、魔王軍の反乱。そしてユリアーナ、エトガルとの戦いと気を緩める暇がなかった。

 今なら先ほど確認出来なかったことも、話せそうだ。


「あらためて今の状況を振り返っておこう。休息も必要だが、あまり悠長なこともしていられないしな」


 俺がそう言うと、空気が一変。

 みんなの表情が真剣味を帯びた。


「今の俺達はお尋ね者になっていると考えるべきだろう。まだ街中は騎士達が警備を続けている。俺達が王城で宮廷魔道士のエトガルを殺した件が、もう広まっていてもおかしくはない」


 針のむしろにいるような気分だ。

 ゆえに俺達はここ魔法研究所に場所を移した。ここならダミアンさんもいるし、俺達を受け入れてくれると思ったからだ。


「正しくはあの男が勝手に内側から爆ぜただけだがな」

「もちろん、ユリアーナがそう説明してくれているとは思う。しかしそれを全騎士が信じるとは思いにくい。俺とアリエル、エドラだけならともかく姉さん達もいたからな。状況判断的に、魔王軍が攻めてきて、宮廷魔道士を殺害したと考える方が自然だ」


 それほど人間と魔王軍の間の確執は大きい。

 それに……あの時の騎士の様子だったら、《大騒動》の原因も魔王軍のせいにされてもおかしくはなかった。


「ふんっ。儂等に逆らう者など殺してしまえばいいじゃろう。ブリスは本当にお人好しじゃなあ」


 呆れた様子で言ったクレア姉の言葉に、アリエルとエドラはぎょっとした表情になる。


「そんなことを言うな。俺の目の届く範囲では、無害な人達の殺害は禁ずる」

「可能な限り遵守しよう」


 とクレア姉がケラケラと笑う。


 ──アリエルとエドラの目には、クレア姉が残酷に映っているだろう。


 俺もそうだと思う。

 しかしカミラ姉とクレア姉も多かれ少なかれ、大切な魔族を人間に殺された経験がある。

 もちろん、魔族側にも非がある。単純な二元論では語れないが──それでも、こいつ等なりの正義があった。

 だから俺は彼女の言動を、本気で咎めることはしなかった。


「……それなのに、人間に対して慈悲の目を向けられるのは魔王くらいだろうな。あいつほどお人好しはいない」

「ブリス?」

「なんでもない」


 ついぼそっと呟いてしまった声をアリエルに拾われてしまった。俺は首を左右に振ってこう話を逸らす。


「騎士達がすぐにここを嗅ぎつけるかもしれない。そうなったら、魔法研究所も拒みきれないだろう。だからまたすぐに場所を移さないといけないが……」

「だったら行くべき場所は一つしかないだろう」


 カミラ姉が人差し指を立てる。


「……やっぱりそうだよな」


 たとえ騎士達に場所を知られようとも、彼等では簡単に近付けない場所──魔王城だ。


「魔王城で起こった反乱も気になるしな。すぐにみんなで魔王城に向かおう」

「反乱……?」


 アリエルが首をひねる。


「ああ、そういえばまだ説明していなかったな。現在、魔王城では──」


 俺は魔王城で幹部達が裏切り、反乱が起きていることを説明した。


「……というわけだ」

「大丈夫なの? もしかしたら、魔王さんが殺されてるかも……」

「それは有り得ない」


 きっぱりと断言する。

 魔王がいる限り、敗北の可能性はゼロなのだ。


「しかし戦いが長引いている可能性もある。魔王は幹部達を殺そうとしていないだろうしな。だからアリエルとエドラに聞いておきたかった──危険な目に遭うかもしれないが、魔王城に一緒に来

「なにをおっしゃいますか」

「愚問」


 俺の問いに、アリエルとエドラはそう即答した。


「今、この世界で一番安全なのはブリスの近くですわ。それとも、わたくし達が魔王城に行くことを怖がると?」

「全く怖くないかと言われたら、そうじゃない。人間が魔王城内の空気を吸えば肺は爛れて、それだけで命を落とす……って伝えられてきたから。でもブリスがいるなら安心」

「まあ、それはそうだよな……」


 実際、俺が魔王の試練を受ける際だって、二人を連れていければアリエルがユリアーナに攫われることもなかった。

 まあ、あの時はクレア姉の魔力不足で彼女達を連れて行けなかったという理由もあるが。


 それと……。


「エドラ。魔王城はそんなに怖いところじゃない。それは魔王が流したデマだ」

「そうなの?」


 様々な理由で魔王城に行こうとする人間は多い。

 そんなヤツをいちいち相手にするのは面倒臭い。だからわざと魔王は嘘を流布して、人間が城に近寄れないようにしたのだ。


「だからアリエルとエドラが来ても、なんら問題がない。まあ……もしかしたら色々と散らかっていたりと見苦しい部分があるかもしれないがな」


 俺がぎょろっとカミラ姉とクレア姉を見る。するとカミラ姉は鼻歌を口ずさみ、クレア姉は露骨に視線を逸らした。

 そんな様子を見せられて、アリエルとエドラは不思議そうな顔だ。


 魔王城にいる頃は全ての家事を俺が担当していた。ゆえに俺がいなくなったことにより、魔王城の掃除が行き届いていないのは容易に想像出来る。

 試練の際はそこまで細かく見ている暇はなかったが……きっと掃除を怠ったせいで排水管が詰まったり、家具には埃が被っているだろう。

 落ち着いたら、城内の掃除をしよう。そう心に決めた。


「じゃあ、アリエルとエドラも行こう。念押しするが、二人はそれでいいんだな?」

「はい!」「うん!」


 と二人は真剣な表情で頷いた。


 なんか……女の子を実家に招待するような、むず痒さを感じる。

 そんなことを言っている場合でもないというのも分かっているが。

 その後、俺は所長のダミアンさんにお礼を言い残してから、魔王城に転移するのだった。

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