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1・「無能はいらない」と言われたから絶縁してやった

「この無能が!」


 ガンッ!


 カミラねえの蹴りが、俺の腹に当たる。


「い、痛いよ……姉さん」

「黙れ! これごとき出来ないとは情けないぞ! それでは魔王様も安心しないだろう!」


 ニチャアと悪意に満ちた笑みを、カミラ姉は浮かべた。


 カミラ姉は魔王軍の四天王、『剣』の最強格である女だ。


 人間の俺は幼い頃、両親を魔物に殺され、孤児になったところを運良く魔王に拾ってもらった。

 一応言っておくが、魔物と魔族は全く違う生き物だ。


 魔物は基本的には知性がなく、魔族だろうが人間だろうが見境なく襲いかかってくる。

 一方魔族というのは知性を持ち、時には人間と手を組むこともある。そういう存在だ。


 それはともかく……魔王は俺のことを大事に育ててくれた。

 自分で言うのもなんだが、それは『溺愛』という域にまで達していた。


 しかし魔王は忙しい。

 ほとんどここ『魔王城』におらず、世界中を飛び回っているのだ。


 なので『剣』、『魔法』、『治癒』、『支援』のそれぞれの最強格である魔王軍の四天王が、かわるがわる俺を育ててくれることになったが……。


「悔しければ、もう一度立ち上がってみせろ。そして私に立ち向かうのだ」

「ち、ちくしょおおおおお!」


 俺は剣を振り上げ、カミラ姉に立ち向かう。


「ふん」


 しかしカミラ姉はひらりと剣をかわし、俺の右腕を()()したのだった。


「っ……!」


 右腕を斬られた痛さで、俺は声を発することが出来なくなっていた。


「やれやれ。常に身体強化魔法を使っておけ、と言っただろう。剣で斬られた()()()で、右腕を切断されるなど話にならんぞ」


 痛さでうずくまっている俺の頭を、カミラ姉は蹴り上げた。


 俺は悔しさと痛さでどうにかなってしまいそうになる最中、右腕を拾い上げ治癒魔法で()()()に引っ付ける。


「はあっ、はあっ……」

「全く。お前は本当に無能だな。腕を引っ付けたくらいで、褒めてもらえると思っていたか?」

「いや……」


 そんなわけがない。

『治癒』の最強格であるブレンダ姉は、たとえ殺したとしても五秒以内なら蘇生させることすら可能だ。


 それに比べて、俺はただ切断された右腕を引っ付けただけ。

 この程度で褒めてもらえるなど……もちろん思っていない。


「悔しければ、修行あるのみだ。次に魔王様が帰ってくるまでには、古代竜エンシェントドラゴンの一匹ごとき倒せるようにならなければ、話にならんぞ?」


 カミラ姉の腹立たしい言葉に、俺は言い返すことが出来なかった。

 ちなみに……カミラ『姉』と言っているが、俺は拾われた子だ。彼女等との血のつながりはない。ただ昔からそう呼んでいるので、続けているだけである。


 四天王のヤツ等は、俺の戦闘力を「少しは使えるかな?」レベルまで押し上げたいらしい。


 その考え自体は正しい。

 これから先、どんな魔物に襲われるか分からない。その時のために自衛の力を身に付けることは、至極当然のことだと思う。


 しかし四天王は例外なく、全員が極度の()()()()()だ。

 俺を鍛え上げるなどとは思っていないに違いない。


 四天王の連中は魔王の目を盗んで、俺を痛めつけた。

 魔王にこのことを言いつけようとしたことは何度かあった。


 しかしそれは男としてさすがに情けないと思ったので止めた。

 しかも俺は四天王から「魔王様に言ったら、どうなるか分かっているよな?」と脅しをかけられていた。これでは簡単に言えるはずもない。


 さらに四天王は毎日俺のことを『無能』だとさげすんできた。



『ほんとっ、お前はつくづく無能だな』

『覚悟するのじゃ。明日の朝までみっちりしごいてやる』

『これだけ手をかけているのに、こんなことも出来ないなんて……』

『ブラッド……さすがにカッコ悪いよ……』



 四天王に言われた言葉が、次から次へと頭に浮かんできた。


「本当に……お前なんて早くいなくなって欲しいよ」


 俺の方こそ早くこんなヤツ等とはおさらばしたい。


 そう俺が思っていることも知ってか知らないのか、カミラ姉は続ける。


「こんな無能の相手をするなんて、疲れるだけだ。全く、魔王様はどうしてこいつを気に入っているのか」


 どうしてここまで言われなければいけないのか。


 ダメだ……こらえないと。


 必至に我慢をするが、もう抑えきれそうにない。


「ん。どうした? その反抗的な目は。悔しければ魔王城を出て行くといい。もっとも、お前のような出来損ないは魔王城の外なんて出たら、すぐに野垂れ死ぬだろうがな」


 すーっと息を吸い、次に彼女はこう言葉を放った。




「無能はいらない」




 それを聞いた時、俺の中でなにかが弾けた。


「分かった。じゃあすぐにでも出て行ってやる」

「は?」


 カミラ姉の目が丸くなる。


「俺なんていない方が、お前等だって良いだろ? だったら、俺の方から出て行ってやる」


 いい加減疲れた。

 俺はこの先、何十年……いや何百年、こいつ等のパワハラ稽古に付き合わなければならないのか。


 決め手はさっきの「無能はいらない」というカミラ姉の言葉だ。

 俺も我慢の限界だ。


「おい、待て! なにを言っている。さっきの言葉を真に受けたというのか

? ふっ、お前のことだ。どうせ魔王城を出て行く勇気すらないんだろう?」


 せせら笑うカミラ姉の声。


 確かに、俺みたいな弱い人間が魔王城の外に行くのは勇気のいることだ。

 しかしこれ以上この拷問のような日々に、耐えられる自信もなかった。


 魔王には小さい頃、俺を拾ってくれて感謝もしている。

 だったらなおさら、俺という負担を抱えない方が四天王も大助かりだろう。

 魔王も今まで口にしないだけで、もしかしたら不満を溜めていたのかもしれない。


 魔王のようになりたかったな……。

 だが、そのことは叶いそうにない。


「ふ、ふんっ! 私が止めるとでも思ったか? どうせすぐに城に戻ってくるんだろう? お前のような臆病が、城の外で生きていけると思うな。戻ってきた時、どうせ私に泣きつくことになるだろう。後悔するがいい!」


 後ろでカミラ姉がなにやらわめいている。


 しかし俺はもう二度とここには戻ってこない。


 そう誓いを立てて、魔王城を後にした。

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「憎まれ悪役令嬢のやり直し 〜今度も愛されなくて構いません〜」
― 新着の感想 ―
[一言] 最強職の姉四人そして家出して姉が追っ掛けて探して来る。 本人は無能と思っているが実は人類最強。 性格は天然入ってる。 同じ様な小説他でみたなぁ。
[一言] これパクりじゃね?というぐらい話が似てるのがあるんだが?
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