第3話 森の案内人
場所を変えようと言ってから何時間が経っただろうか?
おそらく体感だが8時間くらいは歩いている。
膝は笑い、汗が出ては乾き、もはや体力の限界近くまで疲労していた。
そんな中でもペースを落とさずトコトコと同じ調子で歩き続けるババア。
その後ろをついていく俺。
何度か途中でどこに向かっているのか聞いてみたが返事はなかった。
こうなったら意地だと思いひたすら頑張ってついてきたけどそろそろ限界だ。
てかババアはなんでこんなに平然と長時間の移動が可能なんだ。
水も食料も取らず休憩もなしで歩き続けてる。
体力がおかしすぎる。
俺たちはひたすら西へ向かっていた
広大な草原を抜けて深い森へ入りそれでもまっすぐ西へ向かっていた。
西っていうのも太陽を見て判断しているからこの世界で適用されるかはわからないけど。
ひたすらまっすぐ。
森が険しくなるにつれて足元は悪くなりよけいに体力を消費していた。
てかこの森すごいな。
木の大きさが俺のいた世界とは比べ物にならない。
まるでビルが取り囲む東京の中心街にいるかのように恐ろしい高さでそびえたつ木々達。
50メートル以上は軽くある。
大きいもので100メートルは超えているんじゃないかな。
先ほどから時々見かける蝶などは俺のいた世界のどれよりもきれいな模様をしている。ヒラヒラと俺の周りを何匹かが飛んでいる。人が怖くないのだろうか?
木々の異様な高さからすでに沈みかけていた太陽の光はまったくといっていいほど通らず、森の中は奥に進むごとにうす暗くなり険しくなっていった。
それでも地面に生える草がうっすらと青みを帯びて光っており道を照らしていて視界がなくなるなんてことはなかった。この草も俺のいた世界にはなさそうなものだ。天国とは奥が深い。
それにしてももう限界だ。足がしびれて前に進む事を拒否してる。靴擦れもひどく靴下に血がにじんでいた。
さすがにこれ以上は命にかかわると思うんだけど。一回ここらへんで休みを取って移動は明日明るくなってからにしてもらわないと命がいくらあっても足りないぞ。
俺は前を歩くババアに近寄り声をかけた。
「おいバアさん!! さすがにいい加減休憩を入れてくれよ。この暗さだ。足元も危ないし。これ以上は危険だ。」
「...............」
俺の言葉にババアはフル無視をかます。
「おい!! 聞いてんのかよ。さすがに冗談じゃすまないぞ!! おいバアさん!!」
ババアの肩を掴みグイっと自分の方へ引き寄せ顔を見ると、それは髪や服はババアのそれをしていたのだが顔や体は木の枝やツルが密集して人の形を作っておりとてもではないが人の姿には見えないものであった。
「うぎゃぁぁあああああ!!!!!」
思わず悲鳴を上げ手を放してしまった。
そのツルの密集体は俺の叫び声を聞いても我関せず、トコトコとまた先へ歩いて行ってしまった。
「ハァハァ。なんだよあれ? ババアはどこ行ったんだよ。」
パニックと不安で思考がまとまらない。とりあえずあまり大きな声を出してはいけない気がして小声でしゃべる。あまりに不気味な場所でいきなり独りぼっちにされてしまった。
森に入る前に襲われた影の件もある。スカーとか言ったか?
恐怖心は絶頂を迎え、今にもわめきだしてしまいそうだ。
そしてそんな時のお約束なのだが気づいたときに何かが起こる。今異変に気付いたのだから今何かが起こるのはお約束なのだ。
周りをよく見てみると木々の中の一つが枝や幹を動かしているように見える、疲労と恐怖心とは怖いものだ。ありえないものが、さもあり得るように見えるのだから......ちょっと待てよ......あれ?......これ、動いてないか? えっ!! 待って!! いや動いてるよこれ!!
矢先、そいつが枝を振りかぶってまさに俺の方へ渾身の叩きつけをお見舞いしようとしてきた。
やばっ!!
避けようと思ったが恐怖からか体が反応しない。
そのまま情けなく膝から力がぬけてしまい腰から崩れ落ちてしまう。
ドガァァアンンン!!!!!!!!!
爆発したような衝撃音とその時舞い上がった土煙で視界はゼロ、耳もキーーーンてな具合で何がどうなったかわからなかった。だが俺は生きてるようだ。体の痛みも感じない。
先ほど尻もちをついてお尻が痛いくらいだ。
土煙が収まると事態を理解した。
どうやら別の木の根元に人一人分はいれる穴が開いておりそこにうまく落ちたことによって助かったみたいだ。
こんな穴があったなんて、全然気づかなかった。足元注意だな。
とか冷静ぶってるが脚はガタガタと笑っており心はまさに ”く” の字に折れ曲がってしまっている。この穴がなければ死んでいた。考えなくてもわかる話で俺は今、偶然生きている状態なのだ。
運も実力のうちってか? うるせぇ!
震える体を強引に抑え、無理やり深呼吸をして体内に酸素を入れる。
まずは落ち着かないと。なにがなんだかわからないのはこの世界に来てずっとだ。
なんてことはない。不利な時こそ冷静に。ギャンブルの鉄則だろ。
バカな事を考えつつも多少落ち着く時間がもらえたのは助かった。
追撃が来ないことを感じ取り、恐る恐る穴から外をのぞくと先ほど攻撃してきた木がウネウネと枝を伸ばし俺を探しているようだ。
よく見るとさっきまでバアさんと思っていた奴も辺りをウロウロとしている。
森の殺し屋が自分を探している状況に再び膝は大きく笑ってしまい今すぐには動きそうもない。
「影の次は木の化け物かって!! ふざけんなよ!!」
ここは森の中。木であふれかえっている。森だから当たり前だけど。
こんな中、どれが普通の木でどれが木の化け物わからない状況で森を抜ける出口もわからないときてる。さすがにこれは生き残れるわけがない。俺終わった。てか天国で死んだらどうなるんだ?
ここで死んでもいい方向には進まなそうだ。ギャンブルで培った感が俺にそう訴えかける。どんなに負けていても最後の1レースまであきらめない。競馬で学んだ事だ。それで助かった試しはないが......
だめだ。考えろ。どんな時も諦めたら終わりだ。
スロットでも競馬でも、いくら負けていようが取り返せばいいんだから。
負けを認めて考えることをあきらめた時点で負けが決まる。
ボーっと何も考えずに歩いていたからこうなったんだ。この世界では考えることをやめたらすぐ死につながる。今から取り返せばいい。
考えろ。生き残る方法を考えるんだ。
穴で小さく固まりながら必死で生きる方法を考える。
そうしてる間も頭の上を枝が通り過ぎたりしていた。
穴があるのに気付いてないのか?
俺は気づいた事をまとめてみることにした。
まず間違いないのはあいつらは移動ができない。
あの巨体だし枝を使った素早い攻撃からも予想できるように大半の動きは枝が行っているようだ。
それにあのツルの集合体は獲物を巣に誘い込むためのものだった。
結果答えは動けない。または動きが鈍いという事。
奴らは目や鼻といった器官が存在してないって事。
攻撃されたすぐ後ろの穴に転んだだけで奴らは俺を見失ってる。
枝をウネウネと地面に這いずらせて俺を探してるんだがへこんだ穴などは探していないというか穴に気づいていない。これはおそらく枝の感触で獲物を探しているのではなくおそらくだが動いた振動を感知する生物なのだろう。これは完全に勘でしかないが。
ということはだが生き残るためにしないといけない事は一つ。
敵の射程距離の確認。
これに限る。
敵は1体。エサをおびき寄せるような生き物は群れないのは鉄則。
ならば移動ができないのだから敵の攻撃が当たらない所へ逃げてしまえばいいんだ。
どこまでが敵のテリトリーなのか。それを見極めなくては。
俺は隠れながら敵の枝の動きを凝視する。
そして俺はその動きを見て ニヤッ と不敵な笑みを作るのだった。