第17話 トラウマ
その夜の宴は村中の人が集まり酒にご馳走に大判振る舞いだった。
村の皆は幸せそうな顔をしている。
大きな焚火をみんなで囲み、キャンプファイヤーのようにその周りで踊ったりふざけあったり。
平和な環境に感謝だな。
でも少し浮かないのは昼間のアンナの言葉があったからだろうな。
俺は救世主として胸を張っていいんだろうか?
そんな悩みを頭でグルグルと考えていた時、気まずそうにアンナが近づいてきた。
「こんばんわ、救世主様。」
「こんばんわ、アンナ。」
なんかよそよそしい。
いつもどうやって話してたっけ。
無言の空気が流れる。
なかなか気まずいな。
たぶん謝るのも違うんだろうし、かといって昼間の話をなかったことにしていいものか。
そんなふうにオタオタしながら会話を探しているとブラウンがニヤニヤしながらこちらへ近づいてきた。
「よう、聖典使い。相変わらずアンナちゃんとはよろしくやってんのか?」
最悪のタイミングでのそのイジリ、アンナもその言葉に返事はしないまでもものすごい睨みは効かしている。
「聞いたぞ。俺の若いのが失礼な事言っちまったみたいだな。」
突然、真剣な顔でそう話しかけるブラウン。
なんだよ、本題はそっちか。なら初めのイジリはいらねぇだろうが!
「いや、あの、私が悪いんです。自分の都合ばっかり押し付けて。救世主様にも。」
やっぱりアンナは引きづってたようだ。
「まぁあいつらも若いからよ。こんな時代だ。力がないと誰も守れないってのはよくわかってるつもりなんだろうけどよ。その思いが人を傷つけちまってる事に気づけないようじゃあいつらもまだまだガキだよ。」
「オルフェとディーパって家族はいないのか? いつもブラウンと一緒にいるところしか見ないけど。」
「救世主様......」
「いや、いいよアンナちゃん。こういう話知らないとあいつらの言葉の真意も伝わらねぇーだろ。」
ブラウンは「あっちの椅子にでも座ろうか」と俺たちを促し、よっこいしょ と腰を痛そうにしながら腰を下ろす。
「年は取りたくないもんだな。あちこち痛くてしょうがねぇや。」
子供のように笑うブラウン。
年よりはそんな顔で笑わねぇよ。
「さて、あいつらの話だったな。一応言っておくが俺が言ったとか言わないでくれよ。ディーパはともかくオルフェはプライドが高けぇからな。」
ぐわっはっはっは。と今度は豪快に笑いながら手に持っている酒を ゴクッ と一口喉に入れる。
そして今度は静かな表情で語り始める。
「あいつらはよ。家族を殺されてんだよ。」
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ゆるせねぇ!! ゆるせねぇ!!
後ろから猛追する異形の悪。
そのプレッシャーに晒されながら今も戦っていられるのはこの胸に宿る復讐心なのかもしれない。
身の丈ほどもある弓を引き、プレッシャーの原因に向けて勢いよく放つ。
バシュ!!
風を切って進む音速の矢は、確実にそれの額を射抜いたはずだったが、
「クソっ!! なんでだちくしょう!!」
その矢は標的を射抜く前にそれにまとわりつく黒い霧のようなものにかき消されてしまった。
くそっ!! くそっ!! くそっ!!
また大切な人が殺された。
また何もできなかった。
また見殺しにした。
弱い俺、弱い俺、弱い俺
守れるように強くなったのに、そのために強くなったのに。
”オルフェ!! ディーパ!! 逃げろ!!”
またこの言葉が俺を呪いのように縛り付けるんだ。
俺とディーパはこの村で生まれた。
子供の少ない小さな村で俺とディーパ、それにアンナはいつも一緒にいる3兄弟のようなものだった。
俺の父親と母親はブラウンさんと一緒に狩りをして生計を立てていた。
俺も二人にあこがれて、大人になったら狩人になるって言ってきかなかったらしい。
二人は危険だからとならせたくはなかったらしいけど。そういう意味では俺は親不孝者だな。
あの頃は何人か村にも狩人いて、子供は少ないから結構かわいがられてた。
技術なんかもみんなが教えてくれるからメキメキと上達していったよ。
あれは俺とディーパが初めて狩りに連れて行ってもらえる日だった。
技術だけなら俺はそこらの大人より断然うまかったしディーパもそうだった。
自信があったんだ。早く二人に俺を認めてほしかった。
ディーパも同じだったと思う。
あの日はおかしな感覚のある日だった。
朝からずっとソワソワしていた。
俺は狩りに行ける興奮からくるものだと思ってたんだ。
その日は夜に村で宴があるっていうんで村の狩人が総出で狩りに出かけた。
宴の話題も欲しかったみんなは大物を探して北の山へ向かうことにしたんだ。
狩人は同じ山でずっと狩りをしない。獲物がいなくなるからだ。時期を見て場所を変えて狩猟する。
丁度そのタイミングだったともいえるがそろそろ獲物が少なくなってくる頃、大きな獲物を探して新しい狩場を求めるのは自然な成り行きだったのかもしれない。
とはいえベテランの狩人が何人も帯同しての狩り。
何事もなく終わるはずだった。
そう思ってた。油断してたわけじゃない。
大丈夫だと思ってた。
あいつが現れるまでは。
岩がむき出しに出た異様にはげた山肌。
それが広大な部分まで及んでいる。
不自然に少ないに生物の気配。。
「これはいったい......」
何かが起きているのは明らかだった。
俺たちは原因を探るため探索をはじめた。
普段顔に出さないディーパがやけに緊張した顔だったのを覚えてる。
周りもそうなのかピリピリした雰囲気が流れていた。
それでも俺はこれが大した問題じゃないと思ってった。
いつもみんなが行ってる狩りの光景なんだと思うようにしてた。
しかし、それは突然現れた。
強大な咆哮。
今でも鮮明に覚えてる。
村で伝わる神話、それに出てくる終末のラッパ。
あの話を思い出した。




