6.5話
本日2話投稿いたします。
1話目です。
剣斗は見慣れた看板──コンビニエンスストアのものを目にするとエクメアを置いて走り出した。
コンビニに着くと、急いで中に入ろうとするが自動扉のため早くは開かず、開くまでのほんの少しの時間すらもどかしそうにしていた。
独特の入店音を聞きながら、避難が終わり誰もいなくなった店内を見渡し目的の物を探す。
(あった!)
財布を取り出しつつそれに近づくと、財布から取り出したカードを読み込ませる。
暗証番号を入力すると6桁の数字を入力した。
──そう、目的のものとはATMである。
本来ならスマホにポイントをいれる場合、クレジットカードでもいいのだが剣斗はクレジットカードを持っていなかった。そのためこうしてわざわざお金を引き出さなければならなかった。
口座から卸した25万をポイントに変換するよう念じると、お札は淡い光を放ち消えていった。
(あ~、遊ぶためにとっておいた貯金と今月分の生活費がほとんどなくなった……。これで効果がなかったら恨むからな!)
頭の中でスマホの画面を操作し、魔術インストーラーを開いた。
初級・無の魔術書(1000)
初級・火の魔術書(1000)
初級・水の魔術書(1000)
中級・風の魔術書(2500)
中級・光の魔術書(5000)
中級・闇の魔術書(5000)
上級・時空の魔術書(25000)
【現在の所有ポイントは25500です。】
前回開いたときと変わった点が二か所。
初級の風の魔術書を買ったため中級が更新されていることとポイントが25500となっていることだ。
25000しかいれていないのに500あるのは経験により獲得したポイントだと思われる。
(まだスマホを手に入れて少ししかたってないのに5000円分……。キメラと少し戦ったのが大きかったりするのか?)
考察しつつ、上級・時空の魔術書をインストールする。
少し頭が穏やかな熱を持ち、すぐにインストールは終了した。
時空魔術のことを考えると、いろいろな情報が浮かび上がってくる。
知らないのに知っているという奇妙な感覚に襲われたが、これならキメラを倒せると剣斗は確信し、エクメアの下へ走り出した。
(それにしても、強力すぎないか……?)
・ ・ ・
「誰か!! 誰でもいいから助けて!!」
(いや、ほんとぎりぎりだった。このまま助けたら学校で面倒くさいことになりそうだし変身を解いてからにしよう)
変身を解くと体が大きくなり制服のサイズがあわなくなったが、この際気にしていられない。
そしてエクメアを助けられそうな魔法を使う。
(『絶対切断』)
剣斗が無詠唱で行使した魔法の効果は名前のとおり、どんなものでも切断するというものである。
発動までに時間がかかるが発動したら最後、そこにあったものは空間ごと斬られる。
キメラは剣斗に気付いておらず、尻尾の蛇を狙って使われた魔法はその効果を発揮した。
落下し始めたエクメアの体を剣斗は回収に無事成功した。
「悪い。待たせたな」
(あっ、そういえば変身解いてるの忘れてた)
自分の失態に気付いたが、エクメアはぼーっとした様子でこうつぶやいた。
「かっこいい、どうなってるんだろ今」
「……ん? あ、あぁ。喰われそうになってたからキメラの尻尾になっている大蛇を急いで切り落として回収したらこうなりました」
エクメアの前半の言葉の意味は理解できなかったが、突っ込まれずに済んで剣斗はほっとした様子だ。
しかしエクメアはここで冷静さを取り戻した。
自分がどういう状態か認識したのか、顔を赤らめたエクメアは焦り気味に剣斗に問いかけた。
「と、ところで普通に話してますけど、キメラは大丈夫なんですか?」
「大丈夫、すぐ終わる」
剣斗は再び『絶対切断』を発動する。
先ほど謎の攻撃により、体を切断されたキメラは警戒して剣斗の挙動を伺っていたがその行動が仇となった。
キメラの挙動が止まったかと思うと、地面に平行に上下が左右にずれた。
上半身は落下、下半身は支える力を失い倒れ、地を震わせた。
「……は?」
エクメアはあまりの光景に素っ頓狂な声をあげ、驚いた表情のまま固まっている。
「た、助けていただきありがとうございました!」
一拍を挟んで驚いた表情から難しい表情になったエクメアだったが、助かったことがわかったようだ。
「いや、大したことはしてないよ」
「グレードSS以上の戦士様とお見受けします、ぜひお名前を教えてください!!」
(何か考えた様子だったけど、どういう結論が出たんだ……)
「どうされたんですか?」
「ああ、いや、まだ学生の身ですので……」
エクメアは改めて剣斗の身なりを確認し、制服を着ていることにようやく気が付いた。
そこでエクメアは眉を寄せ、再び難しい表情をし始めた。
(何か嫌そうな顔をしている……?)
「あっ、すみません!! 今下ろしますね!!」
勘違いした剣斗はまだ抱きかかえていたことが原因だと思い込んだ。
エクメアを優しく地面に下すと、遠くから声が聞こえてきた。
「おーい!! 助けに来たぞー!!!」
「先輩! 何か様子がおかしくないですか? キメラ、倒されちゃってません……?」
「あそこに学生さんが二人いますね、事情を聴いてみましょう」
どうやら戦士協会が派遣してきた救助隊が到着したようだ。
(捕まると、僕が坂口剣斗だってことがばれるだろうし、そうなるとスマホのことも公になる……。逃げるしかない!)
「あ!! 急用を思い出した!! 急いでカエラナイト!! というわけでエクメアさん。またね!!」
「えっ、ちょっと。待ってくださいよー!」
エクメアにそう呼び止められたが、無視して逃げ出す。
(キメラの素材って売れば高値で売れるだろうし、もらっていくか)
無詠唱で魔法を行使する。
(『異次元収納』)
キメラの死体が地面に沈み込んでいく姿を横目で確認した後全力で駆け出した。
(死体がなくなると救助隊の人たちが報告の時困るだろうけど……まぁいっか!! 売るときは変身のネックレス使えばどうにかなるでしょ!)