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リブート ~解呪から始まる新生活~  作者: コロイド
第一章
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10話

【三人称視点:坂口剣斗】




 剣斗は二階堂とともにフロアのモンスターを倒して回った。

 二階堂は剣士のようで、モンスターをすれ違いざまに切り伏せていく。


(これ、俺の仕事あるのか……?)


 暇になった剣斗はまだ使ったことのない魔術を使うことにした。


「吹け。風の加護(テールウィンド)


 素早さが上がる魔法を二階堂にかけると二階堂はびっくりした様子で剣斗を見つめてきた。


「お前、多才なやつだな。強力な攻撃魔法や回復魔法が使えるくせにその上、サポートまでできるなんて」


「それほどでもないですよ」


 こうやって話しながらでも二階堂はモンスターを切る手を止めなかった。


『ゴブリン程度とはいえ、よそ見しながら戦うとは只者じゃないわね』


(剣速も目で追うのがやっとだ、すごいな)


 距離をとって戦えば負けることはないだろうが、近接戦を挑まれたらこの強さの相手ではなすすべないだろうと考えた剣斗であったがリリから思いがけないことを言われる。


『武術を覚えられるアプリがあるわよ?』


(は? お前、魔術書だろ??)


『私を舐めてもらっては困るわね、そのへんの魔術書とは違うのよ』


 そんなことはわかっているがそんなのはありかよ。と思ったが諦めの境地に至りつつあった剣斗は購入することを決めた。


『3000ポイントだから今すぐ買えるわよ、買っても900ポイントはあるからMPにするとしても十分だと思うけど』


(なら買うか)


 3万と考えると高く感じるがそれで武術を覚えられるとなると、もはや詐欺師ですらびっくりである。


『リリのライブラリに保存されたいくつもの動きの中から一番ふさわしいものを引き出して使うから、買った途端に近接最強よ』


(そんなアホな……)


 購入した途端、二階堂の動きが読めるようになった。

 剣速に目が追い付いているわけではないが次にどう動くのかが手に取るようにわかるし、どう身体を動かせば対処できるのかわかるようになってしまった。


『ね、言ったでしょ?』


(魔術書とは一体……)


 呆然としていると二階堂に声をかけられた。


「ところでお前さん、戦士グレードはいくつだ? 複数ゴブリンを相手にできているしF以上はあるだろうが」


「まだ戦士じゃないんですよね、登録しにいこうとは思っていたのですが」


「は? お前、一般人かよ!! 戦士かと思って連れてきちまったじゃねぇか! なんで言ってくれなかったんだよ」


(いや、あんたが連れてきたからだ。口にはしないけど)


「まぁ、いい。今日の夜、時間あるか? 俺が連れて行ってやるよ、推薦してやるから」


「いいんですか? お願いします」


「無理やり連れてきちまったしな、これぐらいどうってことねぇって。ただ推薦するにあたって、近接戦も見ておきたい。残りの一体をお前がやってくれ、武器は貸すぞ」


『タイミングよすぎじゃないかしら? 武器の使い方もわかると思うから、試してみなさい』


(ほんとにな)


 二階堂から剣を借りると、知らないはずの剣の使い方が身体に染み付いているかのように感じた。

 借りた剣は長年の相棒のように手になじみ、誰にも負けるようなことはない気がした。


「別に近接戦ができなくてもいいからちょっと戦ってくれ、もし無理そうなら俺がすぐにカバーに入るか──」


 まだ話している最中だったが剣斗はゴブリンを切った。

 さきほどの二階堂の剣筋を真似するように。


 ゴブリンは剣斗の攻撃に反応する素振りも見せずに事切れた


 その斬撃は光のように早く、二階堂のそれと遜色ないものであった。


(あ~できてもうた、やってもうた)


『口調が変になってるわよ。強いモンスター相手にはあまり物理攻撃は使えないんだけどね、雑魚には十分よ』


 二階堂は目を見開いたまま固まっている。


「お前、誰に剣を教わった……?」 


「み、見様見真似です……?」


 思わずそう答えてしまった。


「おいおいまじかよ、見様見真似でそこまでされちゃ俺の立場ってもんがねぇよ……」


 本気で落ち込む二階堂を見てリリは対照的に誇らしげになっていることが伝わってきた剣斗は苦笑いを浮かべるほかなかった。


(ん~、でもこれであらかたモンスターは倒し終わったはず……。そういえばまだ使ってない魔法の中にいいのがあったな)


 いまだ落ち込んでいる二階堂をしり目に剣斗はこっそり魔法を使うことにした。


(『空間把握』)


 空間把握はその名の通り周囲の空間を把握する魔法で、範囲は円状になっていて時間と距離に応じて魔力が消費される。

 これが今のところ剣斗が持ってる魔法の中で一番魔力消費が激しい魔法だ。


 40mほど広げたところで壁の向こうに男女の一組とモンスターを数体感知した。

 どうやらモンスターは待ち伏せしているようで男女はそれに気づいていないようだ。


「二階堂さん! あっちにモンスターの生き残りがいる気がします!! 行ってきますね! あと剣返します!!」

「えっ、ちょっ!?」


 剣斗は気を取り戻した二階堂を置いて走り出した。





【一人称視点:鈴木梨子】


 私は買い物を終え店を出ると、知ってる人を見かけた。

 いや、知り合いの一言で済ませられるような人ではないかもしれない。


「佐藤先輩! 奇遇ですね、こんなところで会うなんて!!」


「おっ。鈴木さん、本当に奇遇だね」


 彼は佐藤健太さん、私 鈴木梨子すずきりこの気になる人だ。

 私はサッカー部のマネージャーで彼はサッカー部のエース、でも私はマネージャーの中でも特別顔が整っているというわけでもなく彼とは釣り合わないことはわかっているのだけど……。


「佐藤先輩、今日はお買い物ですか?」


「うん。そろそろシューズがボロボロになってきちゃったし買い替えようと思ってね。まぁ、もう少しで引退なんだけど……」


 そういって笑う先輩にちょっと寂しくなったその時。


 ──ジリリリリ。



 サイレンの音がフロアを支配した。


「なんだなんだ!?」


『落ち着いて聞いてください。一階の北入り口、南入り口、東入り口よりモンスターが侵入しました。従業員の指示に従い、慌てず避難を開始してください。繰り返します──』


「それってすぐ近くじゃないですか! 先輩、急いで避難しましょう!!」


 そこまで離れていないしすぐ向かえば大丈夫だろうと、西入り口を目指し走り始めた。


 すでに西入り口に近い人は避難を済ませ、私たちの近くにいた人は上の階に逃げたようで周りに他に人の姿は見えなかった。

 走りながら先輩の横顔を見ると、非常時ではあるがやはりかっこいい。


 出口が見え始めると、助かったと安堵感が身体に広がっていった。

 ──しかし、そんな私を嘲笑うかのようにそいつら(・・・・)は現れた。


「グゲゲッ」


 どうやら待ち伏せをしていたらしい緑の肌は人間のものではなかった。


「ゴ、ゴブリン!?」


 危険度Gモンスターといえど一般人にはAもGも大差ない。

 適わないという事実に変わりはないのだ。


 どうしたものか、私一人であればどうにかなる(・・・・・・)しかし先輩にその姿を見られるわけにはいかない。

 万事休すかと思われたとき、事態は動いた。


「ご、ごご、ごめん鈴木さん!!」


 彼は来た道を持ち前の脚力を活かして戻っていった。


 唖然とした気持ちでその姿を見送ると、緊急時に人の本性は出るものだなと冷めた気持ちで目の前のゴブリンと向かい合う。


 だがその一瞬の隙がいけなかった。

 ゴブリンは目を離したすきにとびかかってきていた。


 しまった。

 そう思ったのも束の間のこと。


「叩け。風の弾丸(ウィンドバレット)


 知らない短文詠唱が聞こえ、目の前のゴブリンはまるでトラックにでも轢かれたかのような音を立て吹き飛ばされていった。


 振り返ると、手を向けながらこちらに歩いてくるテレビでも見かけないようなイケメンがいた。


「大丈夫ですか?」


「はい、助かりました!」


 爽やかな笑みを浮かべる彼に冷めた心が熱くなるのを感じた。

 私はそんな軽い女ではないと自分に言い聞かせ、感謝の気持ちを伝えた。


「危ないのでお下がりください、残りを片付けますので」


 そういうと瞬く間に全滅させてしまった。

 どうみてもあの初級並みの詠唱の短さからは考えられない中級魔法を彷彿とさせる威力である。


「すごい魔法ですね!!」


「僕もそう思うよ」


「ふふふ、冗談がお上手なんですね」


 私は奥の手を使わずに済んだことに気を取られ、大事なことを忘れていた。


「あっ!?」


「どうしましたか……?」


「途中でスポーツウェアをきた男の人とすれ違いませんでしたか!?」


「あぁ、それなら──」


「おぉ、少年そっちも片付いたか。って、鈴木ちゃんじゃねぇの」


「二階堂さん!?」


 二階堂さんが佐藤先輩を担いでやってきた。

 どうやら無事だったみたいだ。


「こいつ知り合いか? モンスターの前で気絶してたがなんとか間に合ったよ、ところで鈴木ちゃんはどうしてこんなところに?」


「たまたま居合わせちゃってですね……。その人は同じ部活の先輩です、ご迷惑おかけしました」


 先輩の情けない顔を見ながらこんな人を私は好きだったんだなと、複雑な気持ちになった。


「えっと、二階堂さん、お知り合いなんですか?」


「ちょっとな。それで鈴木ちゃん、使った(・・・)のかい?」


 どこか置いてけぼりになってるイケメンさんを見て二階堂さんが尋ねました。


「いえ、使わずに済みました」


 私が平穏な生活を送るには他人に私の力を知られるわけにはいかない、二階堂さんたちに助けられたときにそう言われました。

 出会って間もない、いくらかっこよくて私を助けてくれた人だからといって知られてはいけないのだ。


「それはよかった……。もうこの建物のモンスターは全部倒したと思うが、しかし原因はなんだったんだろうな。この建物以外にはモンスターは発生していないようだし……」


「倒したとは僕も思うんですが隠れていないとは限りませんし早いうちこの子たちを避難させときましょうか」


「それもそうだな。上の階へ避難した一般人の誘導も終ったと若い奴らから連絡があったし、俺たちも行くか」


 私は二人に守られながら西の入り口から外へ出た。





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