8話
「よし終わったな」
片付けた方が便利になるものをアプリに収納し終わったが、さほど時間はたっていない。
念じるだけだからだ。
服や下着など、それが入った棚ごと収納してしまってもバラバラに取り出すことが可能であったのも早く終わった理由の一つだろう。
「そうね、じゃぁ次は身を守る物を…………と言いたいところなのだけれど」
「けれど??」
「お金あるの??」
「ない……な」
25万もする時空の魔術書を購入したため当分の間は生活費以外に使用することは適わないだろう。
「というわけでお金をつくりにいきましょう」
「どうやって??」
「心当たりはないかしら?」
そして思い出す。
「なるほど、キメラか」
「正解。そう、キメラの体を売ればいいんだけど、魔術で収納してるわよね? 多少の劣化はあると思うわ。アプリなら消費魔力も少ないし劣化もないから今後はアプリを使いましょう」
「おう。ならとりあえず移そうと思うんだがこれってもしかして仕舞ったまま収納できるか?」
異次元収納から収納アプリに直接移せるかという質問だ。
「ええ、できるわ」
「もうなんでもありだな」
「まぁ、その逆は無理なんだけどね」
剣斗は異次元収納の中のキメラを収納アプリに移すよう念じると、移ったという情報が頭の中に浮かび上がった。
それは同期しているリリにも伝わる。
「移したなら売りに行きましょう」
「戦士協会か」
「そうなるわね。キメラの素材を売るとなると確実に面倒くさい処理が必要になるわ。たぶん解呪前の姿で行くより解呪後の姿で行ったほうが厄介事は少ないはず。解呪後の姿で行きましょう」
「それはわかったが…………」
少し困った顔の剣斗の考えていることが流れ込んできたリリは「あぁ」、と声を漏らした。
「体の大きさまで変わってしまっていたわね…………。仕方ないわ、先に服を買いに行きましょう」
「そうだな、お前の服も買わないといけないな。いつまでもそんな格好をさせているわけにもいけないし」
健康的な肌が憎ましい太ももを極力視界にいれないようにしていることにリリは気づいているかあえて指摘することはしなかったが、口角は少しつり上がっていた。
剣斗は出かける準備をしつつ尋ねた。
「お前は家に残ってるか?」
「いえ、私の服は自分で選びたいからあなたと一緒にいるわ。魔導書としてあなたと一体になれるから」
光となって剣斗の身体に溶け込むように消えたが、剣斗には感覚として一体になったのがわかった。
「でも俺は女性服売り場いくの嫌だなー」
「そのときは私に変身したらいいじゃない」
「んー、それもそうか」
楽観的に考えた剣斗は服を買いに近くのショッピングモールへと出かけた。
・ ・ ・
「あ~、疲れた……」
剣斗はワンサイズ大きい服を買おうとしていたため店員に、解呪前のサイズにあった服を勧められ続けたのだ。
げんなりした様子の剣斗にリリが追い打ちをかける。
『私の服を買う方が大変なんじゃないかしら』
(辛い………………)
『辛いことはさっさと終わらせましょう! ほら、変身する場所を探しなさい』
(おうおう、わかったわかった)
剣斗は買った服を収納し、人気のない階段で素早く変身を済ませた。
今日の剣斗の服装はパーカーにジーパンという無難な服装であったため多少ダボついてはいるが違和感はそれほどないはずである。
(これってもしや、服の中まで変わって……?)
『ええ、見たところは再現されるわ。お風呂場で私の…………見たわよね?』
リリと一体化しているため考えていることは全て筒抜けである。
リリの考えていることが伝わってこないが。
『私の体でエッチなことしようとしたら止めるからね?』
そんなことできねぇよ、と内心思いつつ女性服が多く売られている店を物色する。
(どれがいいんだ??)
『右のパーカーとかいいんじゃない?』
それは鳴門巻きの乗ったラーメンが描かれた白ベースのパーカーだった。
(こ、これか??)
『ええ、そうよ? 文句ある??』
(いえ滅相もございません)
服のサイズだけ確認すると値段も気にせず近くの店員に手渡した。
数着買うことになるので預けることを選んだ。
その他スカートやらスリムパンツやらを数点見繕いその店は後にした。
『もうボトムスはいいわ。トップスがあと2か3着ほど欲しいわね』
(はいはい、仰せのままに)
次の店に入ると、リリが今までで一番いい反応を見せる服があった。
『それ! それがいいわ!!』
(はいよ)
そう言って服に手を伸ばすと横からも手が伸びてきた。
制服を着た女の子でどうやら学校帰りのようだ。
美少女というほどではないが素朴で可愛い女の子だった。
「あっ、ごめんなさい!」
「いえいえ、ぼ……わたしは他のを買うことにしますので」
僕と言いかけたが特に女の子は気にしていないようだった。
『私はそれがよかったのに!!』
「いや、ごめんよ……帰りにケーキでもシュークリームでも好きなもの買ってあげるからさ」
「えっと、あの……。どなたとお話してるんですか……?」
『バカ、声に出てるわよ』
剣斗はここで起死回生の一手に出た。
「いや実はね、今お友達に買い物を頼まれてて電話してたところだったのよ」
見えないようにリリを具現化し女の子に見せびらかした。
いま剣斗にはリリの声は届かないが、きっとその行動と言葉づかいで笑っていることだろう。
「そうだったんですね……。でも私手に取って見ようと思ってただけなので大丈夫ですよ……?」
「本当ですか! ありがとうございます!!」
どうやら女の子は買う気があったわけではなかったようで無事に服を買うことができた。
「ありがとうございました」
「いえいえ」
剣斗としてはぼろを出す前に早く自分の姿に戻りたかったので手短に感謝の言葉を伝え、最大の難関へと向かった。
・ ・ ・
『あははは! そんな照れなくてもいいじゃない!』
感情が筒抜けになっていることへの対策はできないかと、やや目を地面へと向けながら店内を歩く。
思春期の男には多少どころではなく居心地の悪い空間だ。
(下着ぐらいとはいっても気恥ずかしいものは気恥ずかしいんだよ!!)
そう下着売り場である。
『あ、さっきの剣斗が心の中で可愛いと思ってた女の子も来たわよ』
(心を読むんじゃねぇ!!)
『下着を手に取ったわね、あの下着を買うのかしら』
完全に弄ばれていることがわかっていても、多少想像してしまうことはご愛敬だろう。
しかし想像したらしたで片っ端からリリに漏れてしまうので悪循環は続く。
『スケベね』
(うるせぇ、仕方ないでしょうが!! 黙ってろ!!)
女の子は何も買わずに出て行った。
『どういうものを買うのかわからなくて残念だなぁ』
剣斗の声を真似るようにリリがいう。
(そんなことは本当に思ってないからな?)
徐々になれてきた剣斗はリリが指定した下着を目をそらしながらレジへ持っていき会計を済ませた。
ようやく買い物を終えることができた剣斗は足早に人気の少ない場所を探しにいこうとした。
だが──
──ジリリリリ。
けたたましくサイレンは鳴り出し、フロアにはサイレンだけの音が響いた。
『落ち着いて聞いてください。一階の北入り口、南入り口、東入り口よりモンスターが侵入しました。従業員の指示に従い、慌てず避難を開始してください。繰り返します──』
フロアは混沌と化した。
警報の音に驚き泣き叫ぶ子ども、我先にと逃げ出そうとする中年、人に押され転ぶ人と様々であったが共通して言えることは慌てず落ち着いたものはほぼいないということだろう。
(リリ、行くぞ!)
『あなたならそう言うと思ってたわ。ただリーチ的に変身は解いたほうがいいわね』
リリのアドバイスを受け入れ、リリの姿で男子トイレに入りリリの下着を収納し、変身を済ませた剣斗は、素早く買ったばかりの服の袖を通し、モンスターの元へと急いだ。




