prologue
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僕の名前は 柊 倫也
自称進学校の公立桜奏高校二年生だ
満開の桜のように人生を謳歌してほしいというありがたい願いが詰まっている高校だと入学式でお偉い先生が言っていた気がするが今となっては遠い記憶のかなたである
「ごめん。 寝坊して遅くなった」
「ううん、今着いたとこ。 って返せればよかったんだけどね。 せっかく久しぶりのデートなのに普通遅れてくるかなぁ」
彼女の名前は雨宮 綾奈
家が隣同士ということもあり、家族ぐるみの付き合いでこれまで特に喧嘩もなく、平和に関係を築けている貴重な友人であり、恋人でもある
付き合ったきっかけは何かと言われても、呼び出して告白するでもなく、なし崩し的に今の関係に落ち着いたので友人だった頃の差はあまり感じない
だからお互い明確に好きだと言ったことはないのが少ししこりを残している
「ほんとごめん、このお詫びは必ずするから」
「じゃあ今からのデートコースに期待させてもらおうかな?」
「えぇ、デートコースって言ったって2人で決めたじゃん」
「そこはほら、雰囲気とかエスコートとかあるんじゃない?」
「なるほど了解、精一杯やらせてもらうよ」
そうやって脳内で数回反芻したデートコースを2人で歩く
この時間が、彼女のたわいもない愚痴や、今日何があったかなんてことを聞く時間が、僕は好きだ
そうして、こうした時間がずっと続いて、いたら結婚や子供なんかの当たり前の日々を過ごしていくんだとなんの保証もないのに信じていた、信じることができていたんだ
日が沈んだ少し後の帰り道、それは起こった
「あっ、あれ見て倫也、流れぼ、し?」
彼女が疑問形になってしまったのも無理はないだろう
それは明らかに推進力を持ち、まるで地球を舐め回すかのように軌道を描いていた
「なんか気持ち悪い」
「大丈夫だよ、多分衛星か何かじゃないかな?」
「そう、だね」
そんなことがありえないのは2人ともわかっていた
どうやったら星が曲がるのかわからなかったし、流れ星にしては速度が遅すぎた
だが、お互いの中でわからない、理解したくない出来事を自分の中に落とし込むのに精一杯で、どんな危機が迫っているかなんて考えた気もしなかった
視界の外にそれが行ってしまった後は何事もなかったように帰り道を急いだ
早く家に帰りたかった
先に気づいたのはまた彼女だった
今覚えば、彼女の方が僕よりよっぽど強かったのだろう
それを理解したくないと頭の中で駄々をこねるだけだった僕を気遣う余裕があったのだから
「倫也、帰ったら何食べたい?作ってあげようか?」
「じゃあ、チャーハンかな? 綾奈?」
「倫也」
次に彼女が何を言いたかったのか僕は聞くことができなかった
何故なら眩い光と轟音が辺りを満たしたからだ
そのすぐ後かなりの熱量を感じたのを最後に僕と彼女は気を失った
そんなに時間は経ってなかったように思うがその辺りは明るかった
今冷静に考えれば辺り一帯が燃えていることに気づけたがまあ無理もないだろう
目の前には今まで見たことのない怪物と表現するしかない物が家を軽々と破壊していたのだから
足があるのかもわからない、ただ腕があるのだけはわかったそれは家を、木を、そしてニンゲンを食べていた