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幻想郷 ~泰平録~  作者: ザ・ディル
紅魔館アクシデント
9/19

1話 妖夢たち to 紅魔館


 古時計が時を刻む音を響かせる。

 

 様々な書物が本棚に収納され、しかし(あるじ)の机にはいくらかの書物が散乱している。

 その当の本人はと言えば、ある者と談話していた。

 

 「と、いうわけなんですけど……大丈夫でしょうかパチュリー様?」

 

 そう聞いたのは、銀髪で半分は人、半分は幽霊である魂魄妖夢だ。

 

 妖夢たちは先の(幽霊)事件のお詫びとして料理を振る舞うという約束をし、今現在それを実行へと移していた。

 詫びるカタチなので、妖夢たちは紅魔館に訪れていた。

 

 そして今は妖夢がパチュリーに夕飯を作ってもいいかを聞いていた。

 

 「私は別に構わないけど――」

 「私も構いません!」

 

 ビシィっと敬礼しながら承諾したのは悪魔的笑みより純真で、シニカルに笑うことがなさそうに見える悪魔――小悪魔。

 ヴワル魔法図書館、明確に言えばヴワル魔法図書館かどうか判然としないが、図書館で間違いないこの場所。その主がパチュリー・ノーレッジ。そしてその補佐役のような係をしているのが小悪魔だ。

 

 「分かりました。では、パチュリー様、小悪魔様、夕飯ができ次第お声をかけますので、それまではいつも通りにお過ごしください」

 

 パチュリーと小悪魔は軽く承諾する言葉を口にして、そして妖夢は最敬礼して図書館から出ていく。

 

 

 扉を閉める。

 

 

 溜息。どちらかといえば、安堵の溜息。

 

 「怒っては……なさそうだった……よね?」

 

 妖夢は責任を感じていた。

 先日の件。完全に妖夢(幽々子)たちに責任があった。だからこそ怒られても何も言えなかった。

 

 そして。さらに問題だと当の本人(妖夢)が思っていたのは、あの幽霊事件を咲夜がほとんど解決したことだ。

 妖夢は咲夜を見つける前には全てのことがほとんど終わっていたと言っても過言ではない。

 

 要するに。

 つまり。

 妖夢は役立たずだった。

 足を引っ張ることはないにしろ、何も助けるなることをしなかった。出来なかった。

 

 だから、今回料理を振る舞うということは、先日の件の詫びと妖夢の汚名返上ではないにしろ、無名返上をして美名を得るチャンス。

 それもあって、妖夢は緊張していた。もっとも、そこまで緊張しているかと言えば、それほどでもないが。

 

 「レミリア……様って付けるべきなのかな、この場合って? でももうパチュリーさんには様付けしたからするべき……よ……ね?

 とにかく、レミリア様とフラン様、美鈴様に、今会ってきたパチュリー様と小悪魔様には料理を振る舞う件を話した。

 あと紅魔館にいて、私から料理のことを話していないのは咲夜さんくらいかな?」

 

 紅魔館のメンバーは意外と多いと思いながらも、妖夢は指を折り畳みながらそのメンバーが何人いるか数えていた。

 

 進む方向は厨房。

 材料は既に持ってきていた。

 妖夢にとって気がかりがあるとすれば、咲夜に会えていないことだ。

 

 「でも咲夜さんなら、あらかじめ私たちが来ていることを知ってても可笑しくないよね……」

 

 少し、苦笑しながらそう呟く。

 

 ――思えば咲夜さん、あの幽霊の事件を単独で解決できるほどの力があったんだよね……。

 

 メイドと庭師。

 人間と半人半霊。

 銀髪と銀髪。

 ナイフと刀。

 

 似ている。だけれど似ているだけ。

 

 ……。一体全体どうしてこれほどまでに力量の差が開いてしまったのか? と、妖夢は自身に問う。

 

 答えは当然返らない。

 自覚も何も、何が正しくて何が間違いで、どこに違いがあったのか今現在の妖夢はまったく知らない。知り得ない。

 答えを知るならば、理解するならば、それ相応の事件や、異変に出会わなければならないが、それもまた偶然というものでしか()えない。

 

 「っと」

 

 妖夢が料理のことや紅魔館全般のことについて考えると厨房の部屋にたどり着く。

 コルクボードに"厨房"という文字とともにその回りに花柄の絵など書かれて工夫が凝らされている。

 妖夢はそれをしたのはフランだと思ったが、だからと言ってもこれ以上何も話せない。フラン本人がいれば誉めるし讃えるかもしれないが、今ここには当然いない。

 

 だから、妖夢は目的の厨房の部屋のドアノブに手をかけ――、

 

 「待って!」

 

 かなり、声が高かった。

 妖夢はその声の主を誰かなんとなく思う。

 

 ――これだけ高い声ならレミリアかフラン……えっ?

 

 予想は裏切られる。

 そこにいたのは、幼女ではあった。

 同時にメイド服を着ていた。

 銀髪の三つ編み。

 太腿にシース()が幾らかに連なって一周巻かれて、そこに収まっているのはナイフ。

 何よりも外見が。

 何よりもしぐさが。

 何よりもすべてが。

 

 「さく……や………?」

 

 幼くなった咲夜だった。

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