8話 真相
桜が満開に咲いていて、しかしそこには人魂が多く存在する――つまるところ白玉楼。
「本当に……今回の件に関して申し訳なかったと思っているわ」
「すみません、咲夜さん」
「……大丈夫よ」
幽々子と妖夢は謝っていた。なぜなら、今回の事件は幽々子が引き起こしてしまった事件なのだから。
咲夜は特段気にしてない。
理由ときては別に何も失っていないから。主も失っていない。そして腕も失っていない。
咲夜が腕を治した方法は縫合したからとか、そう言うことではない。
能力で戻したからだ。
咲夜は時間を操れる。腕を失っても、失わずに済んだ時間まで巻き戻せばいい。……もっとも腕を失ったときの痛みは記憶から消えないが。脳髄に焼き付いているが……。
咲夜は問う。
「それで? 今回の事件は白玉楼にあると聞いたのだけれど……、どういうことか説明してくれるかしら?」
今回の事件。人魂から侍に成り変わるなどという馬鹿げた事件――その真相を咲夜はまだ知らない。
幽々子は扇子を開きながら、
「当然よ。私が少しやらかしちゃったからね~。……実はあの侍、白玉楼の初代庭師――つまり魂魄家の半人半霊なのよね」
「――っ!」
「――!? 幽々子様……初代庭師は……」
「ええ……既に生きてないわ。でも、ただ生きていないだけよ」
異常なことだ。既にいなかった者が、咲夜の目の前に現れた。
それは奇怪で異常なこと。
「……なぜ初代庭師が私の目の前に現れたのか、説明してくれるわよね?」
「もちろんよ~。私の回りには人魂が数体いるのは知っているわよね?」
「ええ……」
「その中の一つが初代庭師の魂。そして……ここからは妖夢にも話したことがないのだけど……私は人魂の制御が幻想郷一強いのよ~。だから、冥界の管轄を任されているの」
「……それなのに何故、人魂を制御できなかったのかしら?」
「人魂を制御するために使ったチカラが、無意識のうちに初代庭師のもとに流れていた……と言えば分かるかしら~?」
それは……。動きある者が、生命を無くした何かにチカラを奪われているということであり、だからこそ咲夜は皮肉を口にする。
「…………生きていない者が、生きている者から精気を吸えるとでも言えるのかしら……?」
「――私も生きていないわよ~」
「…………」
西行寺幽々子は死人。会話が正常にできているから、思わず生きていると判断しがちだが、実際には死んでいる。
そんなどうでもいいツッコミに咲夜は黙る。
「あらあら、滑っちゃったかしら~? とにかく、私は不覚にもチカラを奪われたのよ。だからチカラを奪われることを拒絶して初代庭師の人魂と冥界の関係を切り離した。……その結果が今回の事件に繋がるとは思ってなかったけど、ね」
「……では私から最後の質問を。どうやって初代庭師を封じ込めたのかしら?」
「簡単なことよ。約束を――制約と言った方がいいのかしらね? とにかく、ソレに近いことをした。そしてそれを絶ったことで、チカラが初代庭師に流れることを封じるようにした。そんなところよ……。だからもう彼は現出することはないわ」
「……そう……」
そう、としか咲夜は言えない。
確かに初代庭師のチカラは強い。だが、咲夜は初代庭師とタイマンで勝てる可能性を見出だしていた。だから強すぎるわけではない。だからこそ、実のところ死力を尽くすまで戦いをしたかったという想いもあった。
もっとも、今はもう戦いたくない気分ではあったが……。
幽々子は扇子で口元を隠しながら、
「咲夜。今回の件、貴方がいなければ多くの人たちが助からなかったわ。だから……後日紅魔館に行くわ」
「……それはつまり……」
「今回の件を詫びるために行くわ~。妖夢が料理を振る舞う……これでどうかしら~?」
「えっ……幽々子様、私聞いてないんですけど……」
「まぁ今考えたから仕方ないわね~。よろしくね、妖夢?」
「……はい、分かりました」
今回の事件は幕を閉じた。しかしまたどこかでおかしな出来事、事件が幻想郷には顕れるだろう。