7話 覚悟完了
咲夜の首は、侍の刀によって斬り落とされ――、
「おっ……? なんで生きている……咲夜?」
生きていた。
首を斬られ、頭が落ちる斬り方――横一線に太刀筋を入れられ、しかし咲夜は生きていた。血は多少流れ出てはいるが……。
「生憎、斬られる程度で死なないのよね」
咲夜の二つ目の能力――空間を操る程度の能力。
それから応用して『咲夜の空間』を作り出せる。その空間を利用すれば咲夜は斬り殺されることはない。
咲夜は“自身の身体”にも『咲夜の空間』を接続している。咲夜の臓器、骨、脳etc、表面上には見えないありとあらゆるものが『咲夜の空間』に接ぎ続けているのだ。当然、現実世界は『咲夜の空間』とは異なるため、先ほどは首の表面上の皮膚を僅かしか斬れなかったのだ。
そして咲夜のネタバラシはネタバラシではない。誇張表現だ。
咲夜の弱点は物理攻撃が効いてしまう、永続的な攻撃に弱いなど多岐にわたる。それを悟らせないための処世術が今のブラフだ。
普通であれば、畏怖する……はずなのだが、
「刀に血がついてねぇってことはつまり――お前は身体の中は空洞化してんのか? 初めて出会ったぞそんな奴とは」
――臆してない……のか……!?
肝が座っているのか、単なる馬鹿なのかで言えば前者だ。
咲夜が死なない理由を即断で決めつけ、しかしそれはあながち間違いがない。今までの戦闘経験から身に付けられた直感だ。
その戦闘センスは異常。人間の域でそれほどのものに達することができるのかという問いがあれば、難しい。それほどの経験差が咲夜と相手には存在する。
そして何より厄介なものは、
――相手の能力が厄介ね。
咲夜の能力がいずれ効かなくなる能力。それが咲夜にとってみれば厄介極まりない。
だから短期決戦が望ましいのだ。本来は。
それができないのは相手が手練れだから。
さらに、あの侍には戦闘センス、能力以外にも刀それぞれの能力がある。
そして今、咲夜は奴の刀の能力によって幻覚を見せられている。
だから“あること”をしなければならない。そのためには尋常ならざる覚悟が必要で、しかし咲夜は幻想郷の被害がレミリアの障害になること知っているので覚悟できているかと言えば言うまでもない。
できている。十六夜咲夜はすでに命を捨てきれる覚悟さえ持っている。
幻覚から目覚める方法。それは痛みを伴う行為をすれば幻覚は解ける。
そのために咲夜が取った行動は、
「あ゛ぐっ゛……!」
強烈な痛みが咲夜を襲う。
「おいおい……女なのにどれだけ荒いヤツだよ……」
さすがの侍もビビっていた。
咲夜は――片腕を切断していた。
ナイフを操り、『咲夜の空間』を片腕のみ解除しながら切り落とした。地べたに転がる腕を咲夜は見る。激痛が襲ってくるが関係ない。
咲夜は侍が驚いている間に咲夜は侍にトドメを――、
「待ちなさい! 咲夜!」
その声の主は西行寺幽々子だった。