3話 異質な人魂
時が止まっている間でも縦横無尽に移動を可能とする銀髪メイド長は、刹那の時間さえかけずに妖夢のもとに戻ってきた。
そのとき、
――……?
少し、違和感を覚えた。何か特異な力が働いている……そんな感覚だ。
しかし特に気にせず、時止めを解除する。
眼前には、同じく銀髪だが二つの刀を所持する妖夢が見えた。もっとも、鞘に収めてあるが……。
咲夜が現れたのを見て、
「あ、咲夜さん。幽々子様のもとまでわざわざありがとうございます」
咲夜のもとまで走り、ぺこりと頭を下げて妖夢はそう言った。
「それくらいいいわよ。それより何か……変な違和感を感じたのだけれど……、この違和感は妖夢も感じているのかしら?」
「それなんですが……霊の『気』だと思います。咲夜さんがここを去ってからまだ三分も経ってないはずなのにこんな『気』を放っている……。あまりに逸脱した『気』ですね。それもこの短時間でこれほどまでに膨れ上がる人魂がいるのは驚きですけど……。
まぁ、『気』のおかげで人魂の場所を特定できそうなので楽だけどね」
「それは好都合ね。早速案内してくれる?」
「はい……!」
*****
妖夢と咲夜は人魂の気配を辿って行った。その場所はどんどん人里の中でも賑わいのある方向だ。
だんだんと、異常で異質な気配が濃くなっていく。
しかし……、
「この辺りだと思うんですけど……、人魂はいませんね……」
「気配はあるのに人魂はいない……? どういうことなの妖夢?」
「考えられるパターンはいくつかありますが……、人混みを選んだということは……誰かに憑依している、と考えるのが自然だと思いますね」
憑依している――その意味を、両者ともに理解できている。
“既に被害者が出ている”
その考えを切り落とすことは考えられない。
恐らく、被害に遭っている人、もしくは妖怪などかもしれないが確実に被害に遭っている。
それを理解しているからこそ、事を早く収めなければならない。
「妖夢、私は時を止めて人魂を探すわ。絶対に一歩も動かないで」
その咲夜の声は低く、小さな呟き程度の声量。それは回りにいる人間たちを脅かさないようにし、そして穏便に事を済ませたいが故だ。
「……はい」
それを当然理解し、だから妖夢もわずかに呟きが漏れる程度の、咲夜だけになんとか聞こえる声でそう返事をした。
そして咲夜は時を止める。
時間が停止したその世界はセピア色で染まって、まるで現実とは違うように誤認してしまう。
さらに、
「久しぶりにコレ以外の能力使うけど……大丈夫よね……」
そう自分に言い聞かせ、咲夜の能力――時間を操る程度の能力“以外”を使う。
空間を操る程度の能力。
もっともこの能力は、時間を操る程度の能力――その中に属しているものと捉えられている。
時間を操り人の前に現れるなどは、他者から見れば瞬間移動となんら変わらない。だから空間を操る程度の能力も咲夜には備わっていると言えるのだ。
さらにその能力を応用させる。
次元の分解。
この場合の次元の分解は三次元を微分や積分云々して二次元や高次元を生み出すのではなく、現実の次元とそうではない次元を見いだすと言ったようなものだ。
これによって現実と幻の区別を有耶無耶にし、相手の感覚を支配するなど可能だ。
今回、咲夜が空間を操る程度の能力を使う考えに至ったのが、人魂が誰に憑依したのか? それを判別できるようにするためだ。
現実の次元と、そうではない次元を見いだし、人魂が誰に憑依しているのか判別する。
――さて、どこにいるのかしら……?
辺りを見渡す。
様々な次元を見いだすため、家が透けたり箱の中身までもが見える。よって不可視なものなどない。
不可思議なものが、異常なものがあれば現実では考えられない『揺らぎ』のようなものを感じることができる。だから当然見つかる。
「えっ……?」
それが異常であったが故、咲夜は声を思わず漏らす。
それほど意外なものに憑依していた。
人魂の場所を把握し、しっかり確認し、三度確認して、やはり夢なんかじゃないかとほっぺたをツネリながらその場所にいることを確認した。
そして妖夢の場所まで戻る。
時は動き出す。
「妖夢、ついてきて。人魂の場所まで行って襲撃するわ」
「……咲夜さん、その前に一つだけ。人魂はどこにいて、誰に憑依していたんですか? 心の準備をしたくて…………」
妖夢の言い分がもっともだと思った咲夜は話す。
「人魂は――――
「……えっ?」
予想の範疇を軽く超えたのか、妖夢は呆然とする。が、確かに人魂ならそこにいることも納得はできた。だからビクビクしながらも咲夜のあとについていく。
「早く行くわよ、妖夢」
そして、ある目的の場所まで二人は移動した。