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幻想郷 ~泰平録~  作者: ザ・ディル
非日常の日常
17/19

2話 一人は二人、アリスは二人


 眼前のアリスの家を見て、霊夢は思う。

 

 ――これって、アリスの家にお邪魔して、適当に寛げばいいってことよね?

 

 紫から、特に指示は無かったが、この場所に移動したということは、つまり監視対象がいるとしたら――アリス・マーガトロイド。彼女以外にはあり得ない。

 行き先はアリスの家だったので、ならば目的はアリスの監視なのだと、霊夢は考えた。

 

 「幸い、いつ帰ってもいいのよねー」

 

 紫からは、特に何も指示されていない。ただこの場所に来ることだけが、目的ということはない――無意識的に、霊夢はそう思っている。

 だからこそ、アリスの家に入り、アリスを監視することが、紫の目的なのではないかと憶測した。

 最悪、それが間違っていたとしても、紫は霊夢を責めない。否、紫が霊夢を責めないために、この目的をはぐらかしていた可能性がある。

 

 霊夢は歩みを進め、ドアをノックする。

 ドアは開き、

 

 「あら、霊夢じゃない。珍しい」

 

 アリス・マーガトロイドは姿を見せた。

 セミロングの金髪に、ロングスカート。人形のような、綺麗な顔立ち。人里にいたら、告白されまくるほど美人である。

 

 「連絡もなしに悪いわね。急なんだけど、少し…………ガールズトークでもしない?」

 

 霊夢は、どんなことを話すか迷った挙げ句、ガールズトークをしようと言った。

 

 「……っ? えぇ、いいわよ。

 でも、なんていうか、霊夢が私の家に訪問してガールズトークって、珍しいわね」

 

 「ええ、珍しいわよ。でも、今はそれほど珍しいことをやりたいのよ」

 

 「そう……。まぁ、一先ず上がってよ、霊夢。適当にクッキーでも作っておくから、そのときにガールズトークでもしましょう」

 

 「分かったわ」

 

 霊夢はアリスの家に入った。

 

 アリスの家の中は相変わらず、清潔感あるなと、霊夢は思った。

 ゴミは当然一つも落ちていない。洋風なテーブル、洋風な椅子、洋風な鏡……、

 

 「……アリ……ス……?」

 

 鏡の向こうにアリスがいて、反射している方向――つまり鏡とは反対の方向にアリスがいる。

 普通であれば、そうだ。

 しかし、その先に――鏡に反射しているアリスはいない。

 吸血鬼が鏡に映らない――その反対――鏡にしか映らないアリスがいた。

 

 現実の世界とは別のアリス。

 そう、思わせてしまうほど、霊夢の脳内は混乱。惑う。

 

 存在するはずがない。

 アリスは、アリス・マーガトロイドは『魔法の国のアリス』だ。『鏡の国のアリス』ではない。

 鏡の中だけにいるアリス・マーガトロイドは、いるわけがない。

 霊夢は、立ったまま、頭を抱える。目を手で押さえる。

 当惑し、理解が、できない。

 理解が追い付かない。

 理解を遮断しようとする。

 できない。

 薄れる。何かが。

 崩壊する。何かが。

 崩れ落ちてくる。何かが。

 何かが。何かが。何かが。何かが。何かが。何かが。何かが。何かが。何かが。何かが。何かが。何かが。何かが。何かが――

 

 「霊夢? できたわよ、クッキー。食べないの?」

 

 「……えっ?」

 

 霊夢は、座っていた。洋風なテーブルに。

 霊夢はさきほどまで、立っていた感覚はあったのに、いつの間にな座っていた。

 まるで時が飛ばされ、飛ばされた結果だけが残されたように、座っていた。

 

 「霊夢? 大丈夫?」

 

 「……えぇ、大丈夫よ。それより……私、なんかおかしかったわよね?」

 

 「ええ、何故か頭を押さえて、椅子に座っていたわ。

 何かあったの?」

 

 「…………いや、特にはないけど」

 

 霊夢は迷っていた。

 さっきの情報を、素直にアリスに話すか、迷っていた。

 しかし、今は言いたい気分ではなかった。何も言いたくなかった。鏡の中にアリスがいるなどという、馬鹿げたことを言いたくなかった。

 

 「それなら、いいけど。

 ……私の作ったクッキー、食べる?」

 

 「ええ、そうするわ」

 

 皿に、綺麗に彩られるように飾られているクッキーは、あまりにも綺麗だった。

 霊夢はクッキーを口に運ぶ。

 

 「……美味しいわね」

 

 「良かったわ。

 実は今回の、自信作なのよ」

 

 「アリスが自信作っていうと、説得力あるわね」

 

 「私が自信作と言えば、説得力があるの?」

 

 「ええ、そうよ。魔理沙なんて、自信作って言ったのに、焦げたマカロンを持ってきたのよ?

 考えられる?」

 

 「……あー、魔理沙はそう言うこと、よくやるよね」

 

 「私がなんなのぜ?」

 

 「――!?」

 

 と、言いながら、窓から魔理沙が入っていた。

 

 「まったく魔理沙は……。せめて玄関から入ってよね……」

 

 「悪いぜ!」

 

 「アリス……?

 もしかして魔理沙はいつも窓から入って来るのかしら?」

 

 「ええ、そうよ」

 

 「…………」

 

 「えっ? 窓から入るって、普通だよな?」

 

 「泥棒なら、普通でしょうね」

 

 霊夢は揶揄した。

 当然、魔理沙はそんなこと、気にしなかった。

 

 「というかなんでアリスがクッキー作ってるのぜ?

 クッキー作ってんなら私にも食べさせろって話だぜ!?」

 

 「はいはい、今から追加で作るから待っててね」

 

 アリスは台所へと向かう。

 

 「霊夢、今日で会うのは二度目だぜな。

 ……目的ってのは、アリスと会うことだったのぜ?」

 

 「そうよ」

 

 霊夢は、紫のことを話さない。

 話してはいけないと、思ったから。

 

 魔理沙は「なんだよー」と言いながら、 

 「それならそうと言ってほしかったぜ!」

 

 「魔理沙には関係ないと思ったから、言わなくていいと思ったわ」

 

 「それは酷いぜ!?」

 

 「穀潰しには、言われたくないわね」

 

 「それも酷いぜ!?

 私が穀潰しに見えるのぜ?」

 

 「人に料理作ってもらったり、奢ってもらっていたり、本を盗んでいたり、……穀潰しに見えない方がおかしいわよ」

 

 霊夢は魔理沙を弄りながらも、クッキーを口に運ぶ。

 そのときに、アリスも戻ってきた。

 

 「そう言えば、クッキーが焼き上がる前に、紅魔館のお菓子渡すわね」

 

 アリスは袋を持ちながらそう言った。

 魔理沙はその中身を覗くと、

 

 「紅魔館をモチーフにした食べ物なのぜ?」

 

 「そうらしいわ。味見して感想を聞かせてほしいそうよ」

 

 アリスの発言前に、既に魔理沙は紅魔館型のお菓子を食べた。

 

 「美味しいぜ!」

 

 「それは良かったわ」

 

 「「「――!?」」」

 

 魔理沙でも霊夢でもアリスでもない声が、その部屋に聞こえる。

 声のする方向を見ると、

 

 「なんだ咲夜かー、びっくりさせやがって」

 

 「びっくりさせて悪かったわね。霊夢、突然だけど、ちょっと紅魔館に来てくれない?」

 

 「? まぁ、いいわ」

 ――よ。

 

 その言葉を発する前に、咲夜は時間操作によって、まるで消えたかのように去った。

 

 「なんだった、のかしら?」

 

 アリスは呆然としたあと、そう言った。

 

 「さぁ? それより私は早くアリスのクッキーを食べたいぜ!」

 

 「そう? 分かったわ。そろそろ焼けた頃合いだろうしね。取ってくるわ」

 

 アリスはクッキーを取る。

 

 その後。

 そのあと。

 暫くアリスと魔理沙はガールズトークを続け、そして魔理沙も帰った。

 

 アリスの家に残されたのは、アリスのみ。

 アリスのみ。

 二人のアリスのみ。

 鏡の国のアリス・マーガトロイドと、魔法の国のアリス・マーガトロイドのみ。二人がアリスの家にいる。

 鏡の中のアリスは泣いていて、鏡の外のアリスは笑っていた。

 

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