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幻想郷 ~泰平録~  作者: ザ・ディル
非日常の日常
16/19

1話 稀有


 博麗神社。

 ボロい、脆い、今にも崩れそう。そんな感想を抱くのがこの場所――博麗神社。

 

 たとえそう皮肉られようとも、今日も元気に博麗の巫女――博麗霊夢は巫女の仕事を……しない。

 

 「はぁ……」

 

 霊夢は居間で、ため息をした。

 

 「おいおい、どうして私がいるってのにため息つくんだぜ?

 ため息はパワーを逃がすぜ?」

 

 意味不明な理屈を言っているのは魔法使い――霧雨魔理沙。

 

 「だって異変が来ないからお金が入らないのよ? それって私を殺しに来てるってことよね?」

 

 「そういや、霊夢は異変でお金を貰ってんだっけか?

 それなら自分で異変を――」

 

 「――それはマズイわよ、博麗の巫女として。何より私が異変を解決できないわ!」

 

 声を大にして霊夢は否定した。

 

 「それよりも――魔理沙はどこから収入があるのかしら?

 私以上にお金の出所が不明だと思うけど」

 

 「あぁ、私は盗み――じゃなかった。人から借りたり人に奢ってもらったりしているのぜ。

 結構楽だぜ!」

 

 「……魔理沙って意外と依存性高すぎよね?」

 

 「????????????????????????????」

 

 「首を傾げてはてなマークいっぱい出さないで 」

 

 霊夢は嘆息した。

 それをキョトンとした表情で魔理沙は見ていた。

 

 「私は友達が奢ってくれるから食べるだけだぜ?

 友達はパワーだぜ?」

 

 「友達はパワーって、何言ってるのよ」

 

 そのツッコミを気にも止めない魔理沙は、「そう言えば話は変わるんだが――」と前置きして、

 

 「紅魔館での事件、知ってるか?」

 

 「ええ」

 

 「それで(くだん)の彼女――元吸血鬼、元人間、現在人間の名前を決めたんだぜ」

 

 「へぇ……」

 

 「おいおい、白けるぜ。せっかく私が情報を提供しようとしてるのになぁ」

 

 「だって咲夜から聞いたから」

 

 「へっ?」

 

 「あれから、一ヶ月は経ってるはずよ?

 彼女の名前、レイミに決まったんでしょう?」

 

 「ああ、確かにそうだけどさぁ……。霊夢は知らないと思ったんだよなぁ。霊夢って、世間のことまったく知らなそうだし」

 

 「アンタに言われたくないわね。

 それより、今日はそろそろ帰ってもらえる? ちょっと私用があってね……」

 

 「私用、ねー。珍しいな、それで私を追い出すってのは……。

 いいぜ、今日はここらで退散するぜ」

 

 魔理沙は居間から出ていき、

 「貸しってことで、今度なんか奢れよ」といいながら、箒に乗って帰った。

 

 霊夢はそれに半ば呆れながらも、しっかり見届ける。

 見届け、安堵して、そして――、

 

 「出てきていいわよ、(ゆかり)

 

 「あら? やっぱりいるって分かってたのかしら?」

 

 そういって、紫の境界から紫は現れた。

 

 「今日は何の用かしら?

 まさか、異変?」

 

 「異変……ねぇー。

 異変と言えば異変ではあるけれど、異変ではないわね」

 

 「ややこしいわね。

 異変かどうか判断できないことが起こっている、そういうことかしら?」

 

 「まぁ、平たく言えば、ね」

 

 「それで? 私はそこに行けばいいの?」

 

 「行かなくていいわ。ただ、このことを知っておいてほしいの。その為に、ここへ来たのだから」

 

 「それは最近の……異変とは呼べない、かといって無視はできない事件が増えている――それらと関係しているのかしら?」

 

 「私にだって、それは分からない」

 

 「紫、アンタでさえ分からないの?」

 

 「分からない、というと全く分かっていないと思われるから、いくらか付け足しておくわ。

 ある程度は分かっているわ。ただ、それ以上を知ろうとすると、あまりにも――危ない橋を渡ることになるわ」

 

 紫はため息を溢す。

 

 「本当に、今回の件は面倒臭いことこの上ないわ。

 もしかしたら、私と(らん)(ちぇん)だけでは、どうにもならないかもしれないわ。貴方に協力を仰ぐ可能性も十二分にあると思うわ。それほど未知数の事件が起きすぎているの。あまりにも、不可解な事件が多すぎて、私でもどうにかなってしまうわ。

 

 ある件では、死んだ人間が生き返った。

 ある件では、吸血鬼を狩る吸血鬼である元人間が現れた。

 

 あまりにも、幻想郷の中でも稀有――幻想郷という異質な場所においても稀有な事件よ。解決はしたけれど、しかし真相は分かりにくい。

 ……とまぁ、話すと埒が明かないわね」

 

 「……それで?

 私は何か――手助けした方がいいのかしら?」

 

 「まだ何もしなくていいわ、それは言ったでしょ?

 ただ、霊夢――貴方が暇ならある場所に行ってほしいわ。事件なんて起きないとは思うけど、私はあまりに人手も何も足りなくて、霊夢の手を借りたいくらいなのよ」

 

 「紫、それ私のことを猫程度にしか思ってないってことよね?」

 

 「あら、猫は可愛いじゃない?」

 

 と、言いながら手をグーにして手招きする紫。

 

 「――……紫?」

 

 あまりにも珍しすぎる紫の仕草は霊夢に衝撃を与えた。

 

 「こほん。最近忙しいから、奇異な行動をしてしまったわ」

 

 若干、顔を赤らめる紫。

 

 「それはさておき。霊夢、貴方はこれからある場所に行ってほしいと言ったけれど、行ってくれるかしら?」

 

 「場所はどこよ?」

 

 「行けば分かるわ。別に深く勘繰る必要はないわよ?」

 

 「……じゃあ、行くわ」

 

 「一応、この先に進めば目的の場所に着くわ」

 

 そういって、紫は新たに紫の境界を作り出した。

 

 「紫、貴方の指示に従うかわりに、お賽銭――弾んでよね」

 

 「当然よ」

 

 言質を取って霊夢は笑みを浮かべながら、紫の境界に飛び込んだ。

 紫はそれを見届け、賽銭箱にお金を入れる。普段の彼女なら、到底あり得ない――博麗神社の神様へのお祈り。

 そしてすぐに紫は、別の紫の境界を作り、博麗神社から去った。

 

 

 

 *****

 

 

 

 霊夢は目的の場所にたどり着く。

 そこは――魔法の森。その中でも、もっとも安全そうに思える場所。

 眼前に家があった。

 その家は、魔法の国のアリス――アリス・マーガトロイドの家だった。

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