7話 後日談
後日談。
『あの事件』の三日後、妖夢は再び紅魔館へと赴いた。
紅魔館の中で、妖夢は目的の場所――咲夜がいる部屋に入る。
「失礼します。咲夜さん」
「おっ! 妖夢がきたぜ!」
「きたぜ!」などという咲夜とかけ離れた声の主は魔理沙だった。
部屋にいたのは、魔理沙、咲夜、そして……元人間――元吸血鬼狩り吸血鬼――現人間となった、幼く紅き髪の持ち主となった名もなき人間だった。その人間が咲夜の膝の上に頭を乗せて寝ていた。
「魔理沙さんもいらしてたんですね」
「ああ! 本を盗もうとしたが失敗して咲夜に捕まったからな!」
「はぁ、懲りないですね、魔理沙さんは……」
「そうよね。そろそろ処刑して差し上げても問題ないですよね。
火炙りの刑、ナイフ串刺しの刑……どちらがよろしいですか?」
「おい! 私そこまでのことはしてないのぜ!?」
咲夜の珍しい冗談を見れたところで、会話は移行する。
「咲夜さん。それで、名前はまだ……」
「決まってないわよ」
妖夢の新たな能力によって"元の姿に戻った人間"には、未だに名前が付けられずにいた。
「それにしても聞いてはいましたが、随分幼いんですね……。…………その年代で……飢餓しかけた……」
それはそれは、想像しただけで恐ろしい。
子どもにもかかわらず空腹が身体を支配し、思考が纏まらずに育ってしまった彼女。
「でも、」と妖夢は話し始め、
「おかしいですよね?
戦闘したときは、口調的にも、身体的にも子どもとはとても思えなかったですし……」
「それは貴方の能力が問題でしょうね、妖夢。多分、貴方の能力によって吸血鬼になる前の人間に戻ったのよ。
彼女には起きているときに訊いたけれど、吸血鬼のときの記憶は無し。さらには戻ったときには死にそうだったのを妖夢は見たでしょう?」
「ええ……そうですけど」
あの事件を解決した直後
彼女を人間へと戻させた直後、疲弊というレベルを超えるほど、疲弊していた。だから、部外者である妖夢たちは一度帰った。
そして今日、体調が落ち着いたということで、紅魔館に戻ったのだ。
「んで、名前どうするのぜ?」
「…………」
「…………」
急な話題転換によって黙る二人。
「ん? なんか可笑しいこと言ってしまったのぜ?」
「いえ、そんなことないわ。
では、改めて彼女の名前を決めましょう」
「本当に私たちで決めてもいいんですよね?」
「ええ、お嬢様がそれでいいと言っていたわ」
「そうか。ならもう決めていいのぜ?」
「当然ですわ」
「決めたぜ! こいつの名前はポチって痛ぇ!?」
「魔理沙。真面目に考えなさい。でないと、火炙りの刑ですわ」
「悪かったぜ……」
「――レイミ、というのはどうでしょう? 咲夜さん」
先ほどまで黙っていた妖夢は、どうやら彼女の名前を真剣に考えて、そして決めた。
「レイミ……、まぁいいでしょう。お嬢様と若干ばかり名前が被さっていますけれど、支障はないでしょうし……。
それに――いい名前……ですわね」
「……私が付けてよかったんでしょうか?」
「当然。でなければ、お嬢様はそのような命令を下すことなどありませんわ」
元人間――元吸血鬼――現人間である嘗ての吸血鬼狩り吸血鬼の名はレイミとなった。
彼女はそれ以来、紅魔館で過ごすことになるのだが、それはまた別章で記録されることになろう。