4話 タイム(スペース)キラー
「それでは……と」
吸血鬼狩り吸血鬼はそう言って、咲夜に顔を向けた。
「絶叫タイムは一旦終わり」
吸血鬼狩り吸血鬼がそう言った途端、咲夜の悲鳴は鳴り止む。
――痛みまで操作できるのか……!?
妖夢の驚きをもつが、吸血鬼狩り吸血鬼はそんなのは当たり前であるように平然としながら咲夜のもとに向かう。
そして、
「私は貴方の痛みを自由自在に操れる。私が貴方を殺せることは容易だと分かったでしょう?
今のでだいたい二分くらいだから……次に私の質問に答えなかったら、五分くらいはさっきの痛みを味わうことにしとくわ」
「それは……嫌ね……」
妖夢はその状況を見て、今なんとかできるのは私しかいない。そんな理解はできてもどうすればこの危機を救うことができるのかが分からなかった。
――何が……必要だ……!?
必死に頭を回す。しかし吸血鬼狩り吸血鬼を倒す方法は見つからない。
……。
――……覚悟。そう言えば咲夜さんは先日の件で覚悟をして、腕を斬った……。……私も覚悟があれば、何か活路を見出だせるかもしれない。
見出だせる……かもしれない。本当にそれだけなのだ。
身体を動かせないのにどうすればこの状態から吸血鬼狩り吸血鬼をどうにかできるのだろうか?
いや、
――今はそんなことより。私の中で覚悟とは何かを決めろっ! 覚悟とは………………迷わず……決心……
妖夢のその考えとは別に、咲夜と吸血鬼狩り吸血鬼の会話は続いていた。
「咲夜。もしよければ私の仲間になることはないかしら? そうすれば――」
「――嫌よ。それだとお嬢様たちを結局は殺すのでしょう?」
「バレたか。じゃあもう一回、拷問してあげるわっ!」
シニカルに笑いながら、不敵な笑みを浮かべながら、今度は咲夜の顔に手を当て――、
「――っ! お前!」
吸血鬼狩り吸血鬼は目を見張る。
何故か?
それは――妖夢が動いていたから。
「何故縛ったはずなのにっ! 停めたはずなのにっ! 動いているんだっ!!」
「迷いを……絶ちきったから。決心をつけたから! 覚悟したから!!」
妖夢の手元には刀が二つ――楼観剣と白楼剣を持っていた。
「妖夢、まさかっ……!」
咲夜は妖夢が動けている理由を理解した。その理由は白楼剣が光り輝いていたことからの直感的理解。
妖夢は――彼女は相手の能力を絶ちきった。真っ二つに、一刀両断が如く、絶ちきった。
白楼剣の新たな絶ちきり。
「はっ……!
ハハハハっ!!
随分面白い真似してくれるじゃない! だけど……それは私も真似できるのよね。だから……意味が……ない……」
「意味がない? そんなわけないだろ? 真似をしたってむしろアンタの能力が消えかねない」
揶揄しながら妖夢は答える。
「アンタの存在は異端者と変わらない。吸血鬼を狩る吸血鬼。そんな元人間なんてあり得ない!
あり得ないことはあり得なくて、異常なことは正常に戻される。そのチカラを今の私なら振るえる……!」
歪を消し、不可解を消し、異な存在を消し去ることが今の妖夢には可能。
吸血鬼狩り吸血鬼はもはや咲夜の能力を得ていて、それでいてヴァンパイア。そして同族を狩る者。
この存在は歪過ぎる。絶つべき存在。だからこそ……正常に戻すべきだ。それが可能なのは白楼剣故。
一太刀で『あり得ない事象を絶つ』。
感覚的に妖夢はそう理解していた。
無いはずの地面を蹴りあげ吸血鬼に肉薄。そして一太刀――
「当たらなければどうということはない――とは思わない?」
吸血鬼狩り吸血鬼はコピー能力によって咲夜の時間操作を得ている。だから簡単に避けられた。
避けられたはずなのだが、
「――なっ!?」
吸血鬼の足からドクドク、ドクドクと血が流れ出していた。
完全に間合いから逃げたはずなのに。それでもなお足から血が流れていた。
吸血鬼狩り吸血鬼は数瞬おいて理解した。
「……斬撃を飛ばしたのか……?」
それは間違いなく正鵠を射ているだろう。
妖夢は剣術を操る程度の能力が既にある。ということは、もしもそれが成長した能力があるとするならば以下のようになる。
フィクションの剣術を可能とする程度の能力
剣術を極めて極めて極みに極みて。
その先にあるのは進化だ。
妖夢は今、程度の能力を成長させることに成功したのだ。アビリティの進化としてではなく、キャパシティ増加故の進化。
圧倒的に基本を極めし終着点は圧倒的な応用を極めし最強という終着点が存在する。
だから、程度の能力を進化させても妖夢はまだ終着点にたどり着けない。だが、今はそれでいい。だから、
「覚悟しろ、ハンター」
鋭い目付きで妖夢はそう言った。