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幻想郷 ~泰平録~  作者: ザ・ディル
紅魔館アクシデント
11/19

3話 空間ロマンチスト


 妖夢は目覚める。

 場所――意味不明。

 背景――すべて黒。

 誰がいるか――咲夜と誰か。

 つまりその誰かが相手――吸血鬼狩り吸血鬼。

 

 吸血鬼狩り吸血鬼。彼女の姿は長身の女性。美人。人のようではあった。だが決定的に違っていた、間違っていたのは悪魔的吸血鬼の特徴である羽。

 後ろ開きのドレスによって羽が服の邪魔になることない。そして妖夢の視点からでも八重歯が見えるほど、口を開きシニカルに笑っていた。

 

 「こんにちは、咲夜。

 そしてもう一人、よく分からない人」

 

 吸血鬼。されど吸血鬼狩り。

 

 

 

 咲夜は直ぐ様戦闘を開始する。

 

 自身の動作のみを加速させる。

 ナイフを取り、ナイフ投げ、投げたナイフの時を加速。吸血鬼狩り吸血鬼を捉え――、

 

 「遅い。というよりも、止まっていると、そう言った方が正確かな? この場合」

 

 「――っ!」

 

 いつの間にか、咲夜の真後ろにその吸血鬼はいた。

 

 「既に貴方は私の手のひらで踊っているのよ。まったく……それほどのことを知らずに来たの?

 そこの奴は人? ……にしては少し肌寒さを私は鋭覚してしまうから半分の領域だけで見れば人だけれど、それ以外は……幽霊? それとも自ら寒さを発する珍しい生物かな?」

 

 相手の戯言に付き合わず咲夜、そして妖夢は動いて吸血鬼狩り吸血鬼にダメージを与えようと思っていたが、

 

 「「――っ!?」」

 

 身体が全く動かない。戦闘状態だったため、咲夜はナイフ、妖夢は刀二つを手にもっていたが身体は停止していた。

 ただし、不思議と口は動いた。

 

 「もしかして、まさかだけれど、私を倒そうとしているのかしら? そして戻ってきたのかしら?

 馬鹿ね。

 滑稽。

 愚かの頂点。

 咲夜(貴方)の能力は貴方こそがよく知っていると思うけれど……」

 

 その言葉を聞いて「まさか!」と咲夜は言い、

 

 「私たちの身体の領域――私たちの空間が支配されている……!?」

 

 「――? 貴方もできるんでしょう?」

 

 「……私はそんな大それたことはできないわよ……」

 

 吸血鬼狩り吸血鬼は既に、咲夜の能力を応用させ、咲夜が今まで不可能だった能力の応用(領域)に足を踏み込んでいる。

 オリジナルより強い。コピー者の方が強者。

 ゾッとするしゾッとしない。

 異常すぎた事態。

 状況が、情況が、絶望しか与えない因子に変化。

 

 「貴方たちだけを片付けるなら造作もない。だけど……目的を達成するなら、それだけじゃダメなのよ。

 何故か? そう聞かれてしまえば答えは至極簡単。貴方の主――レミリア・スカーレット及びフランドール・スカーレット。彼女たちの弱点を吐け。もちろん、吸血鬼としての弱点だけでなく、他の者との関係を教えてほしいわね。そこから妖怪()質を使って責めてくから」

 

 「私が……お嬢様を見捨てるとでも……?」

 

 揶揄。微笑。

 まるで、この最高最悪な状況で何か策が残っているかのように咲夜は笑う。

 

 「何がおかしいのかしら……!!」

 

 低き声でそう問う吸血鬼狩り吸血鬼。

 

 「とても……滑稽だと思ってね。

 まさか私からその情報を取れるとでも?

 拷問程度で情報を取れると考えているのかしら?」

 

 「……なるほど。主に対しての忠誠心が強いことはよく分かったわ。

 でもね。本当にそれが真実だとは限らない。痛くて、激烈苛烈の強さで痛覚を刺激してしまえば、その考えはひっくり返る」

 

 「何を……っ!」

 

 吸血鬼狩り吸血鬼は咲夜の目の前に行き、そして手を咲夜の肩に当てた。

 ただ、それだけにも拘わらず。

 

 咲夜は悲鳴をあげた。絶叫。

 

 あまりの痛さで、痛みで、涙が吐き出され蒸発するほど身体に熱が帯びていた。

 このときばかり身体は動き、しかし痛みは引くことはない。見えない足場に膝を突き……突いた痛みも増幅され、さらに絶叫。

 

 「どうかしら?

 貴方の能力を応用して皮膚である領域に、衝撃を少しでも加えるだけで敏感になる神経を付け加えたのだけれど。思ったより喚いてくれて嬉しいわ」

 

 カラカラと笑いながら、吸血鬼狩り吸血鬼はその空間の出来事を楽しんでいた。彼女にとっては空間が夢で、現実に成り代わっていた。空間にはロマンが湧き出てしまった。

 

 「……ぁ」

 

 「あら、そう言えば、貴方もいたわね。名前を聞いてもいいかしら?」

 

 咲夜の絶叫が響いている中、吸血鬼狩り吸血鬼は妖夢にそう言った。まるで、同情も何もない生物だ。

 

 「……酷い……」

 

 ぽつりと、妖夢の声が吸血鬼狩り吸血鬼に届く。

 

 「酷い?

 いや、もとはと言えば咲夜が私の吸血鬼暗殺計画を悟って私を退治しようとしてた方が悪いと思うわよ。

 だって私の食である吸血鬼を食べようとする行為を、彼女は当然のように止めようとした」

 

 「吸血鬼を……食べる?

 貴方は吸血鬼じゃ……?」

 

 頭の中で話が纏まらず、断片的に妖夢は喋る。

 それを吸血鬼狩り吸血鬼は理解したらしく、淡々と答え始める。

 

 「例えば。吸血鬼は血を、特にこの場合は人の血よね? それが必要じゃない。そして人間なら肉とか魚とか、麦とかいろいろ食べることが可能な物があるじゃない。

 それを考えるとさ、結構可哀想だよね吸血鬼って。吸血鬼のお腹を満たすには人間には生きてもらわないといけない。でもいずれ食べる。そして、圧倒的な力を持つ故に人間に恐れられる。吸血鬼は人間を食べないといけないから仕方なく人間を狩ってるだけなのに。

 

 私はかつて人間だった。

 もともと貧しくてホームレスだったけれど、ある日限界が来て倒れた。餓死しかけていた。でも意識は失わない。目もしっかり見えた。目の前にあったのは意味不明な血肉。迷いなく食べたわ。

 それが吸血鬼の血肉なんて当時は知らなかったわ。

 でもそのあとには完全に吸血鬼になりかけていた。身体能力の向上。でも、人間が食べられる物を食べると、吐く。どうにもならなくて、どうにもならなくて、私は人間を食べた。

 不味かった。吐いた。

 吸血鬼を食べた。

 美味しかったわ。最高だったわ。

 

 だから私は吸血鬼狩り吸血鬼。だけれどもとは人間。そして私が吸血鬼を食べているのは仕方のないこと。分かったかしら?」

 

 二人は何も答えられなかった。

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