1話 一人と半人半霊
幻想郷には《人間の里》という場所がある。恐らく、幻想郷では人気が最もあるだろう。
しかし当然、そこにいるのは人だけではない。妖怪だって、神だっているかもしれない。
無論、
「あら、妖夢じゃない?」
半人半霊だっている。
そして、それを尋ねた人は、
「……あっ、咲夜さんですか」
紅魔館のメイド――十六夜咲夜である。
咲夜は妖夢が持っている手提げ袋からはみ出ているネギを見て、
「妖夢も私と同じで買い物を済ませたところかしら?」
「はい、そうですよ咲夜さん。良ければ夕飯一緒に食べたりしますか?」
「生憎、今日の夕食は『血』を用意するから無理ね。貴方の主はソレを好まないでしょう?」
咲夜の主――レミリア・スカーレットとその妹のフランドール・スカーレットは吸血鬼だ。血が必要なのは当たり前だ。
とはいえ、スカーレット家は『血』は少量でいいのでそこまでの量はないが、それでも月に何回かは絶対に必要だ。そして普通の場であれば食卓に『血』が飲み物としてあるのはゾッとしないだろう。
「まぁ……そうですね。幽々子様は食事は食事で楽しみたいので、食事中に血を飲んでいれば怒られるかもしれないですね……」
指で頬を掻きながら半人半霊はそう答えた。
「そうよね。じゃあ私はそろそろ……」
そして、咲夜は主のもとへ帰ろうと――、
「ヒッ――!?」
突然、妖夢が小さく悲鳴をあげる。
瞬間、咲夜は後ろを振り向きながら時間を止め、辺りを見渡す。
――特に、おかしなところは……ないわね。
特におかしなところはなかったが、妖夢の手提げ袋が乱暴に落ちそうだったのでそれだけ取り、時を動かす。
「大丈夫、妖夢?」
「さ……咲夜さん見ましたか……今の…………?」
明らかに恐怖しているのが判る。
歯はガチガチと鳴るように震え、身体も震えていた。
――妖夢が見ただけで怖がる相手っていたかしら?
そう思いながら、咲夜は問う。
「妖夢、落ち着いて答えて。……何を見たの?」
妖夢が畏怖、恐怖する存在。
それは、
「……れ……」
「……? なんて言ったの、妖夢?」
「霊です……!」
「いや、貴方も半分霊でしょう……」
そう突っ込みを入れるしかない十六夜咲夜だった。