異世界ツクール
10畳一間のボロアパート部屋で、この世界の黒幕・リュウゼンが語る。
俺が飛ばされてきた異世界はRPGの世界では無かった。
中学生が考えたファンタジーっぽいとは思っていたが、こんなカラクリがあったとは。
「僕のセンスが悪いわけじゃないよ?
ほら、格好悪いのもこういうエセファンタジーにはありがちな。
現地の人間たちが勝手に決めたものだから。」
必死に弁明する黒幕。
「ん? 現地の人の? 人間がいたのか?」
「いや、人間は"作った"。」
――――……
彼がこの星に降り立って最初に思ったこと。
ここに理想郷を作ろう。
まあ、力を持つ誰しもが考えることだろう。
彼はゼロから研究所を作り、まずは"人"を作ろうとした。
原生生物の品種改良、遺伝子操作。
クローン技術、アンドロイド。
各方面から理想の人間を作り出そうと試みる。
しかしいつまでたっても作れなかった。
原生生物が大型生物に進化するくらい月日が流れても。
自分のクローンに集落を作らせようとしても。
繁殖せず、自律せず、生きようとはしなかった。
もしかしたら神のいたずらかもしれない。
神になろうとした罰かもしれない。
諦めかけていたその時だった。
……諦めた。
――――……
「諦めたのか……え、諦めた!?」
「そう。もうこの星では人間なんて作れないよ。無理無理。」
「え、だって今いる人間たちは……
あ……確かネタバレ見たことあるけど……人形?」
「そう、人形。」
――――……
人間の形は出来ている。
ただ、どうあがいても感情を持ってくれない。
感情を持たないから発展しない。完成しない。
じゃあ感情を後付けしよう。
そう考えて出来たのが『マザーエモーションシステム』。
全人類の行動や記憶を集中管理サーバへ飛ばす。
サーバで感情を付加して、また人類に戻す。
これで感情のある人間の完成だと彼は言う。
MESは魔力間欠泉内の異空間に設置されている。
この星に住んでる人間は生まれるとMESに接続される。
まるでWiFiのような無線相互接続だ。
この壮大なプロジェクトが実現できたのは……
魔力間欠泉の無限のエネルギーがあるからこそだった。
――――……
「MESってもしかして……」
「そう。君がさっき迷い込んでいた部屋の事だよ。
あれを破壊した瞬間、世界中の人間が行動停止するだろうね。」
「おおお、恐ろしい……」
――――……
人間が出来たら次は世界観だ。
彼は人間の集落をいくつか作り、村を形成。
そこへ改造した巨大原生生物を送り込む。
村人は必死に追い返す。討伐する。
それを繰り返すことで、人間たちは狩人の協会を結成。
原生生物――モンスターをハントするため、一致団結をした。
――――……
「出た。やっぱり極悪な支配者じゃねーか。
自分の好きなゲームの世界作ってるじゃん。」
「やっとここまで辿り着いたんだ。いいじゃないか。
でも、何事もそううまくはいかないんだよ。」
――――……
原生生物をハントさせる世界が栄華を迎えるころ。
恐れていたことが発生した。
なんと、人語を話す生物が現れ始めた。
あれだけ苦労した人間に、最も近い生き物が誕生した。
その生物は同じ種族で徒党を組み、人間たちに反旗を翻す。
種族の中で最も強い者を、その生物たちは魔王と呼んだ。
――――……
「え、魔王様はこのタイミングで登場するのか!」
「そうなんだよねぇ、憎たらしいあいつは。」
――――……
筋力もエネルギー利用も魔物より弱い人間たち。
このままでは人間が絶滅してしまう。
そこで黒幕である彼は魔法を編み出し、人間たちに教えた。
魔物たちもまた、魔法を編みだし利用した。
世界征服を企む魔族VS勇気ある人間。
物語はそして伝説へ。
黒幕の理想の世界はまたしても実現された。
しかし。
黒幕の理想は裏切られた。
とある勇者により魔王は滅ぼされるかと思っていたが。
逆に和解してしまった。
世界の半分は魔族に。もう半分は人類に。
この協定により、二つの世界の間に壁が作られる。
お互いの世界へは干渉しないように規制された。
これはこれで暗黒大陸感があるからいいなと思う黒幕だった。
そこからは平和な歴史が続いた。
ちょっと刺激が足りないななんて思った黒幕。
ここらでいっちょ世界を混乱の渦へ、なんて思った矢先。
まさかの企みがバレて魔力間欠泉へ封印。
久しぶりの無の時間が来てしまった。
――――……
「やっと天罰が下ったか。」
「惜しかったなぁ、もう少しだったのに。」
「飼い犬に手を噛まれるってやつだな。」
「いやいや。飼い犬じゃないんだよこれが。」
――――……
封印を行ったのは、異世界転生者だった。
この星は前から異世界転生者が迷い込む世界だった。
彼の遺伝子が因果的に呼んでいるのか。
あるいは噴き出すエネルギーが強く、多次元宇宙への干渉を起こすのか。
どちらにせよ彼の野望は転生者によって阻止されてしまった。
彼は二度と、この世界をゲーム的な世界へ導く事は出来なくなった。
では。
現状行われている魔力間欠泉の制御は誰が行なっているのか。
その答えは、増長した人類である。
増長した人類はMESを手中に収めようとした。
そこで異世界転生者と組み、魔力間欠泉に杭を打ち込む。
その杭を魔力制御塔として、世界の人間を操ろうとした。
だがMESのAIも黙ってはいない。
魔力制御塔の中にダンジョンを構築。
誰もMESまで辿り着けないようになった。
――――……
「とまあ、こんな流れで生きてきたのが僕とこの星だ。
どうだい? 君が置かれた状況は理解できたかな?」
え、なぜ俺の置かれた状況の話?
長いストーリーを聞かされてまだ頭の中が整理出来てないが。
こいつの話が俺に何の関係が?
俺のやってることに関係が……
――ああ、なるほど。
こいつはどこまで黒幕なんだ。
封印されてもなお、この星を操ろうとしている。
「……知ってたのか。俺の事。」
「僕は外には出れない。
しかし外の情報を得られないとは言ってないよ。」
「じゃあ俺が異世界転生者を倒して回ってることも。」
怪しい笑顔でうなずく。
つまりこいつは、俺に駆除してほしいんだ。
忌々しい異世界転生者達を。
そのために歴史を伝え、事の重大さを伝えた。
むかつく。
結局こいつの思った通りだ。
「さて、これから君はどうする?
やっぱり他の勇者みたいにハーレムを作るのもアリだ。
辺境の地でスローライフも悪くないよ。
でもね。
君が今まで殺してきた人形。
何のために殺されてきたんだろうね。
勇者を倒すため? 魔王軍のため?
ここでやめてしまうとその人形は報われないね。
だって君の気まぐれになってしまうんだから。」
いや、人形なんてものじゃない。
AIで感情を作られても人々は自律している。
突き詰めれば01信号もシナプスも変わらない。
つまり俺は今まで人を殺していた。
戦争中だし、正当防衛なのもあるが。
では倫理的という名目で無責任に逃げるのか。
それともこのまま人を殺し続けるのか……
――ふと。
リリベルの顔が浮かぶ。
え、何で?
いやこういう時にいい感じに割り込むなよ……。
まったく。
そうだ、俺の答えは。
「いや、関係ないです。」
「ん!? え? 何のことだい?」
俺の返答になってない返答に戸惑う黒幕。
「俺は俺のことで精いっぱいなんだよ。
他人の生死なんて気にしてられるか。
お前の策略にも乗らない。
俺は今……そうだな、"躾"をしてる。」
「躾?」
「そう。憎しみが行き過ぎて負の連鎖にならないよう。
ある程度ぶちのめして、仲直り。そんな感じ。」
「仲直りって、誰と誰をだい?」
「人類と魔王。」
と、リリベル。
「魔……くっくっく! 大きく出たねぇ!」
口では笑っているけど目は笑っていない。
やはり怪しい。
「いやー、うん、そう来たか。
まあ僕としては少しでも勇者が減ってくれれば良いね。
それにしても首輪をしているのに躾って……」
「あ……これはファッション!」
咄嗟に俺は赤い首輪を隠してしまう。
黒幕は笑い終わった後、テーブルに両手を付いた。
「よし、じゃあ君にいいことを教えてあげよう。
裏技ってやつだ。」
「お? おう。タダなら聞こう。」
黒幕が右手を前に出し、唱える。
「ステータスオープン!」
黒幕の手の前に、いつものステータス画面が出現する。
そして指をステータスに触れ、上下上と動かす。
「詳細設定!」
黒幕がそう叫ぶと、見慣れない画面が出てきた。
「え、設定? なにこれ。」
「実は裏コマンドが隠されていてね。
ステータスパネルをカスタマイズ出来るのさ。」
さすが魔法を作り出した張本人。
黒幕が設定項目を指で触れていく。
「これが透明度の設定。これはRGBの色設定。
これが大きさ設定で……これはバグってるから必要無いか。」
黒幕が説明しながらバーを動かすと、色が変わっていく。
今までは透明度のほとんど無い黒だった。
これは便利!
「あとは形変更。丸と三角、ひし形も出来るよ。
オススメはこれ! アニマルフレーム!」
「アニマル? なんだそりゃ。」
「これを選ぶとほら! イルカさん!
こっちは豚さん! 羊さん! カニさん! ナマコさん!
しかもアニメフレームだからチョコチョコ動くぞ!」
「あ、はい……」
動物のチョイスがよくわからない。
画面が動物の形になり、文章は体の部分に表示される。
いつもの四角いステータス画面より華やかではあるが。
枠が動かれると文字が読みづらい。
――ん!?
まてよ。
もしかしてこれは……
「ま、まあ、ありがとう。参考にするよ。
それよりずいぶん長居したから早く戻らないと。
リリベルが心配だし。今どの辺にいるかわかる?」
黒幕がTVのリモコンを取り出した。
なんだ急に。
リモコンでTVを付けると……
そこには聖騎士とリリベルが。
「リリベル! おい、これはどこだ?」
「これは8層だね。8層まで逃げてきて戦ってるみたいだ。」
俺と同じく空間の穴に落ちたのに。
自力で脱出したのか?
さすが四天王。
でもあの聖騎士は異世界転生勇者だ。
このままでは守備力ゼロでやられてしまう。
「すぐ8層へ飛ばしてくれ!
えっと、どこから出たらいい!?」
「じゃあそこのドアから出るといいよ。」
指さした場所は普通に玄関だった。
俺はその辺に落ちてた靴を拾い、玄関へ走る。
「えっと、お邪魔しました!」
「ああ、気を付けて帰るんだぞぅ。
ちなみに第6エリアは魔力感知がまだ弱いみたいだ。」
「第6……ああ、はいよ、了解!」
「また来いよ!」
「二度とこねーよ!」
そう言って玄関を開け、光の中にジャンプ。
体がふわっと浮かび、何も見えなくなる。
 




