表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/58

ダメージステップ


 聖騎士は5人いたはずだ。

 だが一人いない。どこへ消えた。


「うおおおお!!」

「グッ! ぐぅあああ!!」

「フン、何度来ようと貴様らに勝ち目はない!」


 また戦いが始まってしまった。

 リリベルに伝えようにも近づけない。

 もし最後の一人が厄介な相手だったらどうしよう。

 例えば……異世界転生勇者だったりとか。


 俺は戦いの場を避け、つかず離れずで最後の一人を探す。

 どこだ。さっきまでいたはずだ。

 マズイ、もしかしたらもう術中に嵌まっていたりするかもしれない。

 俺は警戒しているが、リリベルは聖騎士の相手に集中している。

 一撃で全滅ってのもありえるかも。


「いた、見つけた!」


 思わず声が出る。

 岩の影に隠れてる。なんだあいつは。

 補助魔法も使ってないし、戦闘員じゃなきゃ甲冑は身に着けないはず。

 背中の大剣に手をかけているが抜く気が全くなさそう。

 ってかあの姿勢の悪さは絶対に異世界転生勇者だ。

 体も鍛えてなさそうだし。


「よし、ステータスオ――」


「どこを見ている!!」


 近くにいた聖騎士の一人が襲い掛かってきた。

 無言で攻撃すればいいのに。


「いや、邪魔!!」



ガゴンッ!!



 開いたステータス画面を思いっきり顔面にぶつけてやった。

 聖騎士の頭が90度上を向き、体がバク宙してうつ伏せに倒れる。

 そのまま聖騎士は動かなくなった。


「リ、リーグナー!!」

「くそッ!」


 他の聖騎士が――多分この人の名前を呼ぶ。

 リリベルが「えー……」って顔をしている。

 下がってって言われてたのに前出てすまん。

 それよりもあいつのステータスを確認しないと。


「よそ見をしているのは貴様らの方だ。《ブラックウィップ》!」


 黒いバラの鞭が数本、聖騎士たちの足元から出てくる。

 気づかれないように張り巡らせていたようだ。

 鞭は聖騎士一人の足をつかみ、勢いよく上に持ち上げる。

 そのまま空中で円を描き、もう一人の聖騎士の方へ。

 足元のバラの処理に追われて気づかず、二人とも飛ばされる。



ドガンッ! ズザザザザザドォォン!!



 二人は勢いよく地面をこすり、大岩へぶつかって大破させた。


「ハァッ!!」


 聖騎士の隊長は大剣を軽々と振り回し、バラを切り刻む。

 そのままバラの鞭を操作していたリリベルへ突進。


「《プラチナ・ソー》!」


 また銀色の円形ノコギリを目の前に召喚。

 しかし相手を切る方向ではなく、横向きに召喚する。



ガンッ、ギャリギャリギャリバキィン!



 銀色の丸い円は相手の攻撃を受け止める。

 しかし受け止めきれずノコギリは破壊された。

 ただ、ノコギリは回転していたため彼の剣が右へ流される。

 彼は右側へ姿勢を崩してしまう。

 予め聖騎士の左へ移動していたリリベルが死角を取る。


「ほら、もう一度。」


「ぐおおおおお!!」


 リリベルが再び近距離で《プラチナ・ソー》を放つ。

 聖騎士はガードが間に合わず、正面から……

 いや、受け止めた。

 白羽取りのような形で拳でノコギリを止めている。



ガリガリガリガリ!!



「ぐおおお、ぐううううう!!」


 ノコギリが鎧を断ち、赤い飛沫が飛び散る。

 だが諦めず致命傷の手前までは留める聖騎士。

 さすが隊長だ。


 その時。

 聖騎士隊長の隣に歩み寄る人物が。


「やっぱり俺も出ていいっすか?」



シュンッ……



 5人目の聖騎士が隊長の前に出る。

 その瞬間、銀色のノコギリは消えてしまった。


「見習い……逃げろ……」


 そう言って倒れる隊長。

 隊長を見降ろした後、前へ進む最後の聖騎士。


「ん? 何だ貴様――」


「リリベル、離れろ!」


 俺が叫ぶと、リリベルは高速移動で俺の近くまで来る。


「あの覇気の全くない独特な雰囲気の聖騎士。

タカトが叫ぶということはまさか……」


「そう。あいつは異世界転生勇者だ。」


【[収縮の勇者 ユウヤ]】

レベル:31

スキル:黒い削弱(ダークネスト)

効果:

"相手の能力や効果を計算した後の攻撃力守備力"をゼロにする。


 いやカードゲーム大好きかああああい!!

 って先ほどステータス見たときに叫んだが誰も聞いてなかった。


「何で早く言わなかったのよ!」


「戦いが激しくて近づけなかったんだよ!」


 俺とリリベルはズリズリ後退しながら言い合う。

 聖騎士……勇者は地面で何かを拾っている。


「うーん、これぐらいあればいいか。」


 起き上がり、両手いっぱいに持った何かを見る。

 そしてこちらに一歩踏み出す。

 と同時に、手に持った何かを思い切り前へ放り出した。


「よいしょっと。」


 手から放たれたのは大量の石だった。


「ん? 何だ? 石?」


「もちろんこういう時は交わせよ~リリベル!」



バリバリバリィン!! パラパラカランカラン……



 リリベルの魔法障壁が数枚割れる。

 やっぱ飴細工かなんかで出来てるのかなあの障壁。

 石は特に変な動きもせず、俺らのいた場所に散らばった。


「うわっ、ぐっ……!」


「どうした、リリベル!」


「いや、振ってきた石が足に当たっただけだ……

だけだが……なぜだ、あれはただの石なはず!

なぜ私は血を流している!?」


 黒いスカートの下が裂け、足から血が流れている。

 そうか、これが"防御力"をゼロにする能力か。

 能力を使ったはずの勇者が不思議そうにリリベルを見つめる。


「え、何で交わしたんですか? 僕の能力バレてます?

じゃあどうやって攻めようかな。相手を詰ませるには……。」


 何か独り言を言いだした。

 能力的には対人しか効果が発揮されないため、対処はしやすい。

 突然距離を縮めてきたり、即死攻撃をすることはない。

 リリベルは小石でも当たったら死んでしまいそうだが。

 一定の距離を取って対策を練ろう。


「えー、わかりました。能力を知ってると仮定します。

ようは逃げられなくすればいいだけなので、これを使います。」


 淡々と誰かに何かを説明するよう喋る勇者。

 懐に手を入れ、何かを取り出す。

 それは西洋風の鎧に似合わない、いくつか勾玉が括られた腕輪だ。


「えーっと子丑寅卯辰巳……」


「なになに、ちょっとやっぱり離れよう!」


 勇者がお経のように十二支を唱え始める。

 恐怖を感じたのでリリベルの手を引き、10層への階段の方へ走る。


「どうしたのタカト、逃げるの!?」


「一旦ね! 見通しのいい10層まで戻る!

あいつのスキルは簡単に言うと、防御力を下げる能力なんだよ!」


「でも今の術は……」


「え、今の謎の呪文を知ってるの?」


 リリベルが情報を持っていそうだったので、そちらを向く。

 その時だった。


「《十二支柱陣》」



ドン! ドン! ドン! ドン! ドン――――



 俺らの目の前に赤黒く光る円柱がそびえ立つ。

 それは等間隔に増えていき、12回音が鳴ったところで止まる。

 目の前の柱には『子』と彫られている。

 なんと分かりやすい。


「これは中級の東方魔術ね。

12本の柱で結界を作って、相手を閉じ込めるタイプの。」


 リリベルが柱を触りながら説明する。

 まあなんとなく想像がつく魔術だね。


「でも所詮、中級の魔術よ。こんなもの逃げるほどでは――ハァ!」



ゴッ!



「っっっ!!!!」


 リリベルのパンチに合わせて、鈍い音がした。


「あ、ごめん攻撃力もゼロになるんだった。」


「あああ早く言いなさいよぉぉぉ!」


 右手を抱えてうずくまるリリベル。

 その時、かすかに声が聞こえた。


「ほっ……と。」


「危ない!」



バギン! カン、カコン……



 何かが割れる音と、石が岩々にぶつかる音。

 俺の……ステータス画面が割れた!?

 まさか、ここまでの能力とは。


 先ほど、声のする方向を見たとき既に勇者が近づいていた。

 そのときの勇者は投球フォームだった。

 咄嗟にリリベルをかばい、ステータス画面を出す俺。

 案の定、勇者は投石をしていてステータスにヒット。

 石は画面を割り、軌道を変えることなく後ろの柱に当たる。

 もしあの石がリリベルに当たっていたら、倒れていただろう。


「あ、惜しい。当たったけど惜しい。

でも今なんか出しましたよね。シールドみたいなの。

それは悪手です。たぶん二人とも死にます。」


 淡々と喋る言い方にモヤっとするが、言ってることは正しい。

 相手はおそらく俺の能力を警戒していた。

 異世界転生勇者の癖に珍しく警戒していた。

 そのため先に能力の分かっているリリベルから狙ったんだろう。

 しかし俺は能力を使ってしまった。

 "俺の能力と効果を計算した後の攻守"がゼロになってしまった。


「《ブラックウィップ》!」


 勇者の足元から三本の鞭が現れる。

 鞭は攻撃はせず、勇者をぐるぐる縛り上げようとした。


「いえ、それは駄目です。無効化します。」


 何が駄目なのかはよく分からない。

 ただ勇者が手で払うと、鞭は消えてしまった。


「まずいな、ステータス!!」


 背後の柱と柱の間、何もないところにステータス画面を飛ばす。

 しかし見えない壁があるのか、ピタっと止まってしまう。


「上ッ!」


 手を上に挙げ、ステータス画面を上に飛ばす。

 しかし柱の高さ――約5メートルほどで止まってしまう。


「いや飛んで逃げれるとしたら流石にクソ魔法でしょw

発動遅いけど触媒再利用できるしコスパ最高なんですよ。」


 半笑いで説明する勇者。

 腕を組みながら、じりじりと近づいてくる。 


「どうするリリベル。目くらましかなんか魔法ある?」


「あるにはあるけど、この結界からは逃げられないわね。」


 じりじり結界の柱まで退く俺ら。

 これが彼の言う"詰み"か?

 いや、まだ何か手はあるはず。

 と思いながらリリベルの方を向く。


「今、何か打開策は無いかって考えてるでしょ。

……あるんだなぁこれが。」


「え、マジで!」


 どや顔でこちらを向くリリベル。


「いつも助けられてるからね。たまには私だって。」


 リリベルが両手を地面に置く。

 何をする気だ?

 彼女は大きく息を吸う。


「――――《アースクエイク》フルパワー!!」



ドッガォン!! ゴゴゴゴゴゴ!!



「力技すぎるわ!!」


 爆音から始まる地震発生魔法。

 地面にある大きな岩もポップコーンのように飛ぶ。

 地形がバキバキに割れ、足の踏み場は無い。

 結界を支えていた柱も倒れ、崩壊する。


「なるほど地面。このメタは気づけないわ~。」


 落ち着いて手を顎の下に持っていく勇者。

 彼の足元だけは地面が止まっている。

 彼は要するに地面への攻撃に感心しているようだ。

 確かに地面への攻撃は、彼への攻撃とみなされない。

 結果的に、結界を破って逃げることに成功する。


「よし、今のうちに――」


 地震の影響が無いように、俺を小脇に抱えて飛ぶリリベル。

 しかし様子が変だ。


「ん? どうしたリリベル。」


「なんかね、前に進まないの。」


「前ってうわああ!」



バゴンッ!



 いきなり、地面に大きな穴が開いた。

 そういえばここは塔の11層……地上11階だった。

 これだけ大きい地震が発生すれば穴も開くよね。

 でも空間魔術が施されてる状態で穴が開いたら……


「きゃあ!」


「リリベル!」


 大きな穴に吸い込まれるリリベル。

 風が吹いてる訳ではなく、何かに引き付けられている。


「ステータスポリゴン、モデル:翼!

リリベル、こっちだ! つかまれ!」


 俺のステータスはこの引力の影響を受けないようだ。

 胴体をステータス画面で覆い、リリベルの方へ向かう。


「タカト!」


「リリベル!!」




 ――――フッと急に。

 あたりが暗くなった。

 風もなく、前に進んでいる感覚がない。


「リリベル! どこだ! リリベル!」


 叫んでも反響が無い。

 何も返ってこない。

 なんだここは。

 今は10層と11層の間じゃないのか?



「君きみ、こっちへおいで。」


 

 突然、背後から男性の声がした。

 聞いたことない声に驚き、振り向く。

 そこには光る何かがあり、こっちに近づいて――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ