メタルマン
「魔王軍の偵察隊がこの近辺に来ているようだ。
気を引き締めて警備に当たれ。」
「はい!」
大理石でできた神殿のような建物。
中は広く、室内なのに噴水まである。
ここはこの街の中心部につながる、神聖な場所。
そう、街の中央にそびえ建つ塔への入り口だ。
「で、どうやって入る?」
「強行突破……しかないんじゃない?」
確かに、あの数の警備員にバレずに中へ入るのは難しい。
しかし一気に突撃しても塔への入り口がわかるかどうか。
魔法を使えば応援が来るかもしれないし、どうやって……
「あ、そうだ。こんな時のためにこれ! 《睡眠茸スプレー》~!」
「あら、持ってきてたの? でもここ屋外だし、効果薄そうね。」
「まあ見てなって。」
まずはスプレーをステータス画面で出来た箱にしまう。
そして箱の中で小さいステータス画面を使い、スプレー全放出。
これで開けた瞬間びっくり玉手箱が完成した。
「あとはこれをゆっくり……」
まるで風で飛んできたように、自然な感じでコロコロ転がす。
「ん? 何だあれ。黒い箱?」
警備員の一人が興味を持つ。
「おい、なんだそれ。怪しいものは触るなよ。」
もう一人の警備員は疑心暗鬼だ。
「いやでも……硬い。何だろう。」
「硬い? 本当だ、かなりの硬さだ。ッッ重い! 何だこれ。」
警備員が持ち上げようとする。
しかし持ち上がるはずはない。
別の空間に固定されているからな。
「そんなわけ……重っ! 本当だビクともしない。」
「俺に貸してみろ、俺なら……」
警備員が集まってきた。
よし、今だ解放!
パコォン!
やばい、ガスを圧縮しすぎた。軽い爆発。
だが付近の警備員は動揺して吸ってしまったようだ。
みんな倒れている。
「おい、なんだ今の音は!」
「あっちからだ!」
他の警備員が集まりだした。
今のうちに侵入だ。
俺とリリベルは入り口の魔力壁を壊し侵入。
奥の広い空間を進むと、分かりやすく塔への入り口があった。
営業?時間外のため看板が立ってるが、気にせず入っていく。
やっと目的地の塔の中に入ることが出来た。
◆◆◆
「ふー。さすがにここまで来たら安心ね。」
リリベルが木陰に座る。
そう、ここには木の影がある。
この摩天楼の塔は、中が階層式のダンジョンになっている。
見た目とは違い、一層ごとが広い洞窟だ。
空間がねじ曲がっているので、途中で外に出ることも出来ない。
この塔を踏破しようと、毎日多くの冒険者が訪れているようだ。
しかし上層への階段は発見が難しい。
さらに上へ進むごとに魔王軍ではないモンスターが襲ってくる。
上位ランク冒険者でもまだ数層までしか辿り着いていないそうだ。
で、俺らは10層にいる。
9層はかなりの高難易度だったが、俺のステータスで地図盗み見。
10層まで楽々登れた上、10層はボーナスステージなのか。
洞窟の天井が高く、光を放っている。
下の階層で冒険者を見かけたが、さすがにこの層にはいない。
「じゃあちょっと休みましょうか。はい、お弁当。」
「いやさっきまで命狙われててお弁当って。
……腹減った。いただきます。」
気温も温かく、なんだかピクニック気分。
こんなことをしてていいんだろうか。
「ま、いいんじゃないたまには。モグモグ。
そういえば11層ってどんな感じなの?」
「それがね、地図が表示されないんだよ。」
「え、タカトのステータスにも表示されないの?」
「いや、厳密に言うと映ってるんだけど、めちゃくちゃなんだ。
常に動いてる感じ。」
「動いてる?」
そう。おそらくダンジョン自動生成が働いている。
不思議なやつだ。
だから足を踏み入れるまで、12層への階段の場所は分からない。
「ふーん、面白そうね。休んだら行ってみましょうか。」
俺たちの目的はこの塔の調査。
ってかどちらかというと上階ではなく、この塔の"地下"が重要だ。
地下には世界樹の根という魔力元があり、魔王様が欲している。
まあとにかく上へ進んで情報を手に入れるのもありか。
走り回って疲れたので少し休憩。
しばらくしてから10層を後にした。
◆◆◆
11層の階段を上る俺ら。
「お、ここが11層ね。確かに魔力が濃いわね。」
「へー、そうなんだ。お、地図が更新された。
12層までの階段もバッチリだよ。」
「さすがね。じゃあぐるっと回って先に進みますか。」
そう言って歩き始めた――その時だった。
「待っていたぞ魔王軍!」
大きな岩石の横に人影が。
俺らは警戒態勢を取る。
「やはり11層まで辿り着いていたか。
フッ、魔王軍もなかなかやるじゃないか。」
光沢具合が綺麗な銀色の甲冑に身を包む戦士たち。
5人が並んでいた。
「タカト、11層で待ってたですって。」
リリベルがひそひそ声で話す。
「俺らあれだけ10層にいたのにね。待たせちゃったね。」
「隊長、あれはもしや魔王軍四天王では!?」
「……確かに、四天王のリリベルであろうな。」
あ、10層でリラックスしてたから変装を解いてた。
さすがにここまで来た強い戦士にはバレるか。
「相手にとって不足無し。今度こそわが国で打ち取ろうぞ。」
「ん? 今度こそって?」
俺は疑問に思ったので聞いてしまった。
「数か月前、そいつが国の第6エリアを崩壊させてしまった。
だが偶然居合わせた勇者と相打ちになり、滅せたはずだった。
しかし四天王は生きていた。」
あー、あの日の事ね。
リリベルを見ると目を合わせず、ばつの悪い顔をしている。
「我ら摩天楼聖騎士団が今度こそお前を打ち砕く!
さあ、行くぞ!」
聖騎士。この世界の最高の職業。
四天王ジオウは元聖騎士だ。
あそこまで行かなくても、聖騎士は各々高戦闘力を持つ。
各国が軍事力に入れるくらい、聖騎士は重要なポジション。
今までも聖騎士と戦ってきたが、地方の聖騎士だった。
王都の聖騎士はケタ違いの強さと聞くが、はたして。
「はああああ!」
ガイィィィン!!
隊長と呼ばれていた人物が、大剣で切りかかる。
リリベルがそれを魔法シールドで止める。
「リリベル!」
「タカトは下がって。」
おや? リリベルがやる気だ。
よほど前回の事が屈辱だったのか……
「そあああ!」
「《疾風脚》!」
他の二人も大剣で切りかかる。
もう一人は高速化魔法でリリベルの死角へ移動。
隊長は体勢を立て直し、剣を構えて何かを唱えだす。
「遅い! 《プラチナ・ソー》!!」
ギュインガガガガガ!!
銀色の回転ノコギリのような魔法が聖騎士たちを襲う。
二名はかすめるもギリギリで交わす。
死角にいた一名は剣で受け止めるが兜と肩の鎧が剥がれる。
「貫け! 《征伐一進》!!」
目にもとまらぬ速さでリリベルに突進する隊長。
「ぐっ!」
魔法障壁が一枚割れたが、他にある障壁で持ちこたえる。
リリベルは後ろへ下がる。
ってかこの障壁割れすぎじゃない?
「はあっ!」
リリベルが隊長に上向きに蹴りを入れる。
隊長は上へ飛ばされた。
飛ばされた先には、先置きしていた銀色ノコギリが。
「ぬうううう、はァッ!!」
空中で回転し、ノコギリをたたき割る隊長。
隊長に気を取られていたら、またリリベルの死角から攻撃が。
「《ストーンストーム》!」
大量の石が高速でリリベルに飛んでいく。
牽制攻撃と目くらましが目的か。
「甘い!」
カカカガガガガガガン!!
銀色ノコギリを横向きに展開。
石のつぶては円形のノコギリで遮られた。
そのノコギリを少し角度を変え、足場にする。
リリベルが跳躍し、魔法を使った聖騎士に同じ技を使う。
「《ストーンストーム》ゥ!」
ドバアアアアアアア!!
ストーンじゃない、土石流。
上方から大量の石が降り注ぎ、聖騎士の身動きが取れなくなった。
「空中なら!」
「動けまい!」
土砂に埋まる聖騎士に止めをさそうとしたとき。
左右から他の聖騎士が攻撃を仕掛ける。
咄嗟にシールドを張るが――
「何!?」
聖騎士二人は上半身と下半身をそれぞれ攻撃。
勢いが止めきれず、リリベルは半回転状態でバランスを崩す。
「ここだ!」
滞空していた隊長が、バランスを崩したリリベルに追撃。
二人でそのまま落ちていく。
「うおおおおお!」
「フッ残念ねぇ。」
そういうとリリベルは黒い煙となって消えてしまった。
そのまま隊長だけが落ちていく。
落ちた先には、土砂に紛れて銀色のノコギリが回転していた。
「グゥゥウッ!!」
ドゴオオオオオン!!
地面に思い切り大剣を振るう隊長。
《プラチナ・ソー》と岩石は吹き飛んでしまった。
しかし若干ダメージを負ったのか、甲冑に傷が入る。
他の聖騎士も隊長の近くに集まった。
リリベルはゆっくりと大きな岩石の上に降り立った。
「……リリベル、気になるんだけどさ。
《プラチナ・ソー》酷使しすぎじゃない?
ってか俺のステータスカッターの戦い方にそっくりと言うか。」
リリベルは俺の声が聞こえたのか、こちらを振り向く。
そしてニヤッと笑われた。
あ、こいつわざとやってるな。
俺にカッター的な魔法の本当の使い方を教えてやるみたいな。
それにしても聖騎士強いな。
4人対四天王一人で互角の戦いをしてるじゃん。
四天王ってチート的な強さがあるけど、現地人も負けてないな。
――――いやまてまて!
4人!?
聖騎士は5人いたはずだ!
全然気が付かなかった!
どこだ、どこにいる!
とても嫌な予感がする。
俺はこういう時は当たってしまうんだ、予感が。




