ネクロマンサーの倒し方
「動かないほうがいいでござるよ。」
俺たちが勇者に近づくと、すでにカゲヌイがクナイを首元に当てていた。
崩れ去る古代竜の脊髄だった所らへんに勇者は立っていた。
まだ何が起こったか分からず考えていたようだ。
「えええ~何が起こったのか分からないんだけど。
バグかチートか何か使ったのか?」
まだ余裕そうに悩んでいる勇者。
バグを使ったのは正解かもしれない。
「さて、こいつをどうするでござるか?
実験材料の生け捕りにするでござるか?」
「いや、カゲヌイさん。まだ終わりじゃないんです。」
怖いことを俺に提案してくるカゲヌイ。
しかしこれで終わりではない。
まだ最強のドラゴンを倒したに過ぎない。
この最低の勇者を倒さなくてはならない。
引っ掛かりはあるが、この先の作戦はまだ決めていなかった。
「そう。まだ終わりじゃないんだよね。
その前に、どうやって古代竜を倒したの?」
「……しょうがない。説明するか。」
状況を整理して時間稼ぎをしよう。
こいつを倒す案が思い浮かぶかもしれない。
「まずあらゆる耐性を持ってる最強のドラゴンにも弱点はある。
それは『魔法以外での弱体』だ。毒とか酒とかね。
でもさすがに、この場で致死量をすぐには用意できなかった。
じゃあ他の弱体手段と言えば……"スタン"だ。」
「ああ! さっきのヒヨコみたいなやつ!」
勇者も気が付いたみたいだ。
最強の龍をゲーム的に攻略するならば。
頭部を打撃技で攻撃していくと、魔物にはスタン値が溜まる。
スタンとは、要は気絶だ。
四天王には物理的な衝撃が頭部に行くように依頼した。
時間はかかるが、魔法以外で状態異常を付与できる作戦だ。
まあ普通に考えて、脳に打撃を与えればクラクラするだろう。
このスタン作戦が本当に通ったかは定かではない。
でも実際に古代竜は地に足を付けた。
その後はバグチートの俺が能力無視攻撃。
こうして古代竜の討伐は達成された。
「へぇ、考えたね。面白い戦いだったよ。」
まだ余裕そうな勇者。
ここで勇者は意外な行動に出る。
ザクッ!
「何ッ!?」
首元にあったクナイに自ら刺さりに行く。
そして。
「離生魔来。顕現せよ僕自身。」
カゲヌイの手から勇者が消える。
俺たちの後方から声がして、振り返るとそこに勇者がいた。
リリベルが忠告する。
「カゲヌイ。奴は殺せば蘇る能力持ちだ。安易に殺すな。」
そう。
彼のネクロマンサー能力は自分にすら有効た。
「……違うでござる。今の傷は死ぬ程度ではなかったはず。
麻痺毒が塗られているクナイに触れば動けぬはず……。」
たしかに、首にクナイを刺しても一瞬では死なない。
殺しのプロ、カゲヌイさんが言うなら間違いない。
では死んでもいないのになぜ復活できる。
「殺せば蘇る。うーんちょっと違うな。
"死を自覚したら"蘇る、っていうのが正しい。」
勇者が説明する。
俺が考える自覚の定義と違うのか?
俺は質問を投げる。
「死を自覚って、どういうことだよ。」
「例えば麻痺。あれは"体が壊死する"って事で"死"だ。
毒はそのまま死ぬ。睡眠は永眠と同じで死ぬ。
精神操作は精神の死だし、拘束は自由に対する死だ。」
なんだそれ。また言葉遊び大会か。
とにかく死に関連付けて、能力を最大限生かす魂胆だな。
「はぁ、よくわかんねーけど死ぬまで殺せば死ぬって事だな。」
「ジオウさん落ち着いてください、殺せば逃げます。
逃げたらまた古代竜を召喚されてさっきの繰り返しです。」
「そう、わかってるじゃないか。
でも今度はうまくやって見せるよ。何を召喚しようかな。」
そう言って考え出す勇者。
ジオウは今にでも飛び出しそうだ。
リリベルとカゲヌイは対策を考えている。
竜人様はいつのまにかお帰りになられてる。
何か手は……。
「ステータスオープン。」
「お、またそのチートか。
その壁みたいなやつ強いね。どうなってるんだ?」
改めて彼の情報を確認する。
こちらが手を出さない限りは、相手も召喚対象を考えてるだけだ。
今のうちに何か考えなくては。
「タカト、それであいつを捕らえちゃえばいいんじゃない?
拘束じゃなくてちょっと広めにして……」
リリベルがこっそり提案してくる。
いや、しかし自由を奪った時点で彼は死を認識する。
監禁のようなものをしても無駄だ。
死を認識させる前に確保すればあのゲーム好きの勇者も――
ん?
ゲーム好き?
認識させる前に確保?
「――そうか。リリベル。この人を召喚出来る?」
「また召喚? ……この子なら余裕ね。」
『確保』『ゲーム好き』という点から考えが生まれる。
よし、この作戦で行こう。
リリベルに作戦を伝えつつ、時間稼ぎをする。
「ええっと、ところで勇者さん。
ゲームの例えが多いけど、ゲームは好きなのかい?」
「ん? ああ、僕はゲームが好きでね。
この世界に来る前もぶっ通しでネトゲをしていて……
気が付いたらこの地に転生してたって訳さ。
ジャンルもなんだって好きだよ。
アクション、RPG、FPS、パズル、シミュレーション……」
「やっぱりそうか。俺も好きなんだよね、ゲーム。
特にRPGは大好き。だからこの世界に来れて良かったよ。」
「わかるわー。よくある異世界RPGみたいな世界だけどね。
プレイするのと実際に体験するのとじゃ全然違うね。」
俺らのゲームトークを不思議そうに見守る四天王。
ジオウさんはもうあくびをしていて興味がない。
「やっぱりDQとかFFとかその辺は一通りやってるのか?」
「まあ一応ね。外伝とかネトゲ以外は大体やったかな。」
「やっぱりそうだよな。ストーリーが良いもんな。
伝説の勇者なんかが旅をして、仲間との出会いあり別れあり。」
「ん? うん、一概には言えないけど概ね良かったね。」
「それじゃあ――」
そう言って俺とリリベルは左右に移動する。
後ろに隠れていたのは、髪が白い蛇になっている怪物。
[メデューサ]だった。
「《石化の邪眼》!」
「え、なに? うわぁ!」
メデューサが目を見開き、勇者を見つめる。
すると勇者は足元から徐々に石化していった。
「なになにどういうこと? 突然どうしたの。
こんなんじゃ僕を倒せないことは知ってるよね。」
石化が進行しても余裕そうな勇者。
「いや、そうとも限らないよ。[復活の勇者]くん。」
「ん? なんで?」
勇者は不思議そうな顔をする。
「君はこの異世界に転生した"勇者"だ。
勇者ってさぁ、石化して死んだことあったっけ?」
「え……?」
勇者は眉間にしわを寄せ、考えながら固まる。
「石化って死じゃないよね。絶対誰か助けに来るじゃない。
針的なアイテムで治せるし、むしろ攻撃が通らなくて助かるみたいな。」
「い、いやいやいやいや何言ってるの?
石化は"死"だよ! 自由も奪われるし壊れる可能性もある!」
石化が胸のあたりまで来た勇者が慌てだす。
慌てるってことは心当たりがあるのかもしれない。
「いや、石化は死じゃない。勇者は確実に復活して自由になる。
もしかしたら数年後の子供が助けに来てくれたりさ。
感謝した魔導士の長老が助けてくれるかもしれないじゃない。
現にほら、君のスキルで復活できないみたいだよ?」
「いやだ! 僕は恐怖を感じている! 死ぬほど怖い!
死ぬ! 死ぬううう!!」
「残念ながら死ぬとは思えないみたいだよ。
君の心の中ではRPGのストーリーが根強く残っている。
石化した勇者は確実に復活する。それはこの世界の常識なんだ。」
「くそ!! こうなったら舌を――」
「メデューサ。」
メキメキパキンッ!
舌を噛み切ろうとした勇者だったが、少し遅い。
勇者は頭の先まで石化してしまった。
しばらく静寂が続いたが、勇者が復活することはなかった。
「ん? こんなんで終わりか?」
ジオウが石像に近づいてコンコンと叩く。
「何だよあっけない。じゃあ叩き壊していいか?」
「ストップストップ! 壊したら死んじゃいます!
いつか本当に復活させるかもしれないんで、魔王城で保管します!」
危うく最初からやり直しになるところだった。
こうして復活の勇者の討伐は達成された。
ちなみに冒険者ギルドにはそのあと行ってない。
もう情報もいらないし、北の森で何があったか聞かれそうだし。
ただ古代竜が暴れた爆風で建物がボロボロになったらしい。
冒険者ギルドのマスターは忙しいだろうな。
VS 復活の勇者 おわり
自己蘇生能力者の倒し方:
死を認識させないで石化する
 




