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ハイドラゴン


「ん? あそこに人がいるわ。」


 リリベルが指をさしたのは、草原の向こう側。

 俺らがいる崖の上は広い草原になっていた。

 その草原を歩きながら近づいてくる男がいる。



パチパチパチ……



「素晴らしい。まさかあの信長を倒すとはね。」


 なぜかゆっくり拍手をしながら近づく。

 自信満々で思わせぶりな、その長い前髪切ってほしい感じの男。

 こいつは……?


「ステータスオープン!」


【[復活の勇者 タイガ](死)】

レベル:32

スキル:離生魔来(リセマラ)

効果:『死』が確定している元々生物だったものを召喚する。

元生物にはアンデッド属性が付くが治癒でダメージは受けない。


 やっぱり。

 こいつが今回の元凶の勇者か。

 さて、どうやって討伐するか……

 とりあえずリリベルに叫ばせよう。


「止まれ! 貴様何者だ。魔王軍の許可無く死者を使役してるな?」


 死者の使役って魔王軍の許可がいるんだ。


「何者って……僕はただの冒険者さ。いや、プレイヤーかな。」


「プレイヤー? 何を言っている。」


「僕は今、街づくりに忙しいんだ。

この地は人の手が入ってない荒れた土地だ。

僕はこの地で自分のクラフト……死者が住む街を建設する予定だ。」


 ああ、クラフトとかビルド系ゲームとかそんな感じか。

 確かにアンデッドに手伝ってもらえば可能かもしれない。

 ってかゲーム感覚かよ。


「フン、何が街だ! この地も元々は魔族の故郷だ!

勝手な真似は許さん! 貴様は魔王軍の障害とみなす!」


 お、なんか今日のリリベルは勇ましい。

 さあどう出る異世界勇者。


「そうか、悲しいよ。じゃあ僕も本気で召喚するね。」


 さあ来るぞ、死者の召喚だ。

 今度はどんなやつを召喚する気だ?

 召喚される前に殺したい……が、攻撃していいものなのか迷う。


「《サンダーチェイン》!!」


 地面を這うようにして電流が流れる。

 リリベル、勇ましいけどいきなり考え無しに攻撃か。

 しかし勇者はどう出る?



バリバリバリボワァッッ!!



 勇者の体に電流が走り、発火する。

 灰になり崩れ落ちる……が、しかし。


離生リセット、僕を殺そうとしても無駄だよ。」


 いつのまにか崖下へ移動している勇者。

 やっぱりダメか。

 ステータスにあった通り、奴もまたアンデッドだ。

 簡単に殺せない上に、今わかったが殺すとワープするようだ。


「さあ僕の呼びかけに答えよ、古の英雄よ――」


 勇者は両手を広げて唱える。

 どうする、このまま召喚を許すか?


「来たれ! [キング・アーサー]!!」


「え、マジで騎士王!?」


 風が吹き荒れる。

 俺とリリベルは警戒して姿勢を低くする。


「知ってるの!? タカト!」


「アーサー王と言えば石に刺された「選定の剣」を抜いて、

ブリテンを統一した王様の事だよ!

ガヴェインとかトリスタンとかがいる円卓の騎士を結成して、

いろんな冒険やらロマンスやら物語が語り継がれてるんだ!

とある内輪もめから円卓が崩壊して息子のモードレッドに離反されて、

カムランの丘でモードレッドと相打ちみたいになって瀕死になった後、

エクスカリバーを湖に返して最後はアヴァロンへ旅立ったんだ!」


「うーーーーーん情報が多い!!」


 はっ!

 何を言っていたんだ俺は。

 ちょっと落ち着こう。

 っていうか、あれ?



シーン……



「……うん、やっぱり召喚出来なかったか。」


「いや出来ないんかい!」


 思わず下手な関西的ツッコミを入れてしまった。

 それもそのはず。

 彼の能力は『死』が確定している生物のみ有効だ。

 つまり彼が死を認識しているかどうかで違ってくる。


 織田信長は実在していたと思われるので召喚出来た。

 詳細な記録が載っている古代生物も同じく。

 しかし物語に出てくるアーサー王は実在したか不明だ。

 同じ理由で戦闘民族宇宙人とか敗北者と言われた炎使いなど。

 漫画に出てくる死んだ人物なども召喚は出来ない。


「ふーん、まあいいや。

じゃあ仕方ない、こいつを召喚しよう。」


 勇者が地面に手を置く。



ゴゴゴゴゴ……



 かなり大きめの地震と地響き。

 そして地割れも起こり、崖が崩れ始めた。

 俺とリリベルは森から離れ草原のほうへ退避する。

 退避する。

 退避……え、この地割れどこまで追ってくるの?



ゴッゴゴゴゴゴオオオオ!!



 地響きが激しくなり轟音へと変わる。


「タカト、あれ見て!」


 草原をかなりの距離逃げる俺らだったが、後ろを振り返る。

 そこには山が出来ていた。

 いや、山ではない。

 どんどんせり上がってきて、これは――


「なにあれ。ドラゴン……だよな。

この世界って、こんな大きいやつもいたの?」


「いえ、知らないわ。あんなに大きなドラゴン……」


 岩のような蒼い鱗。紫に光る瞳。

 龍ではなく、巨体を持った西洋のドラゴン。

 大きく羽を広げているが羽ばたいてはいない。

 黒い雲がドラゴンを中心に渦巻いている。

 山かと思うくらい巨大で……

 大きすぎて尺度が分からない。遠近感がつかめない。


「ステータスオープン!」


【[古の轟風魔竜 テューポーン](死)】

レベル:100

詳細:風の属性を作ったとされる、太古の巨竜。

神々の黄昏(ラグナロク)にて神と対峙し、すべてを破壊して自らも眠りについた。


「……風属性の生みの親みたいだよ。」


「……あら、それはお世話になってるわね。」


 そんなことを言ってると、ドラゴンのほうから声が聞こえてきた。


『あー、あー、聞こえるかな。』


 勇者の声だった。

 ドラゴンが喋ってるように聞こえたが気のせいだったか。


『僕の声は拡声魔法で大きくしてるけど聞こえてるよね。

どうだい? これが僕のお気に入り、古代竜テューポーンさ。

この世界の歴史で最も強いモンスターだよ。』


 最も強いかは置いといて、最も大きくはある。

 正直戦えもしないし逃げれる気もしない。


『古代竜が戦ってる姿を見たかったけど、一撃で終わるだろうなぁ。

君らのターンは永遠に来ないよ。』


 古代竜の口が赤く光る。

 目で見てわかるレベルでエネルギーが集まっている

 ターン制RPGだとしても先制攻撃でそれは初見殺しだろ。



カッ!



 あたり一面が真っ白になる。

 俺はリリベルの近くまで行き、本日3回目の黒賽で防御。

 ステータスのキューブの中にいてもわかる轟音。

 恐怖と絶望が伝わってくる。


 攻撃が止んだのでステータス防御を解除。

 自分たちのいた場所は……クレバスの上にいたっけ?

 地割れのように地面が抉られ、遥か後方の山も形が変わっている。

 あの山に住んでたモンスター達、すまん。


「リリベル、二手に分かれよう!」


「ええ!」


 固まってたらまた一撃が飛んでくる。

 狙いを付けられないようリリベルは魔法で、俺はステータスの翼で逃げる。

 空中を飛び回った。


『へぇ、この一撃をかわすとはね。じゃあここからSTGの開始だ。』


 STG……シューティングゲームの事か。

 どっちかというとそちらがボス側の気がするけど。

 古代竜の周囲に紫色のエネルギー球が複数浮かぶ。

 エネルギー球からビームが照射された。



パウゥッ! パパパゥゥゥ!!



 俺とリリベルは空中で全力でかわす。

 ビームの速度が速すぎるため、これはうまく交わせてるんだろうか。

 自分でも当たらないのが不思議。

 たぶん当たるまで時間の問題だ、これはマズイ。


「《ファイアボール》!!」



ドドドシュゥ! ドドドドシュゥゥ!!



 リリベルの手から放たれる火炎球。

 球とか言いつつ軽トラくらいの大きさがある。

 それをファイアフラワー取った配管工並みの連射で古代竜に打ち込む。

 しかし、古代竜はビクともしない。

 というか距離感無さ過ぎて、当たってるかどうかも分からない。


『ははは、無駄だよ。弱点なんて無いようなものさ。

確かに風属性のドラゴンだから火属性には弱い。

でもね、このドラゴンはあらゆる耐性が付いてるんだ。

魔法耐性、物理攻撃耐性、行動制限耐性、精神異常耐性……』


 なんかいろいろ言ってる。

 とにかく弱点属性で攻撃しても効果は薄い、能力下降魔法も効かない。

 無敵のドラゴンってわけか。


「しかし、俺にはこいつがあるんだよ。ステータスオープーーーン!!」


 レーザーをかわしながら、ドラゴンの斜め前で止まる。

 両手を空に上げ、細長いステータス画面を展開。

 長く長く長く。

 限界まで長くしたところで、思いっきり振り下ろす。



ザァオンッ!!



 耐性なんて関係ない。

 ステータス画面=異次元の裂け目に対してはどんな防御も無意味だ。

 俺はドラゴンを真っ二つに……なってない!



バァオン!! ゴゴゴゴァァァァアア!!



 まず巨体が驚きの速さで俺のステータスをかわす。

 次に空気がつぶれる音がする。巨体が動けばそうなるか。

 そして……巨大な竜巻。

 ドラゴンの風圧で全てが舞い上がり、あたりが真っ黒になった。


「ステータス!!」


 ステータス画面で自分を守りながら全力で離脱。

 岩や木、何かの残骸が風で舞っている。

 そんな中にいたら身動きが取れない。やってしまった。

 俺の攻撃はただ場を混乱させただけだった。


「ぷはぁ! えっと、リリベル!?」


「ここよタカト!」


 上空、ドラゴンからかなり離れたところでリリベルと落ち合う。

 少し落ち着いたがまだ砂埃が舞っている。


『ええ……なんだ今の攻撃は。古代竜が全力でかわすなんて。

上に乗ってた俺が気を失うところだったよ。』


 あの勇者、ドラゴンの上に乗ってたんだ。

 確かに、そこのほうが安全かもしれない。


『やっぱり実戦はスムーズに行かないね。

つまんないからもう終わらせるか。テューポーン!』


 彼の呼びかけに反応し、また口元が赤く光る。

 さらにエネルギーの球も増える。

 両方で確実にとどめをさす気だ。

 どうする!

 どう戦う!?


「相変わらず、貴様の周囲は面白きことよ。」


 その時、後ろから渋い声が聞こえてきた。

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