ホトトギス
「邪悪竜の討伐、重役の護衛、未到達地の調査……」
ここは上位クエストの発注書が置いてある部屋。
冒険者Aランクに上がった俺らは、立ち入りが許可された。
リリベルと二人でAランク以上のクエストを確認する。
部屋の作りとしては応接室のようだ。
高ランク冒険者と依頼人が直接交渉できるようにもなっているのだろう。
「質問がありましたら、お申し付けください!」
入口のほうで元気に案内してくれる受付嬢。
ここの受付嬢は一人しかいないんだろうか。
それとも顔は一緒で別人?
「ねぇねぇタカト、これなんだけど……」
リリベルが持ってるクエストは、人類未到達地の調査だ。
だが気になる点があるらしい。
「ここに見たこともない魔物が集結してるって書いてるでしょ?
この地域に魔物を派遣した記憶ないんだけどなぁ。」
魔王軍が言うならそうかもしれない。怪しい。
でも野良の魔物や自己判断で動いてるグループもあるはずだ。
気になったので受付嬢に聞いてみる。
「ああ、そのクエストですね!
なんでも、その地域に足を踏み入れると古代生物に襲われるとか。
今まで調査を行った冒険者は誰一人帰ってきてません……
その危険度から、ランクはAに上げられました。」
「古代生物? 古代のモンスターが集まってるってこと?」
「ええ。図鑑でしか見たことないモンスターがいるそうです。
あと人間? 人間のようなモンスターも見たとか……」
俺とリリベルは顔を見合わせる。
謎のモンスターの集団に人間。
もしかしたら目撃情報のあった異世界勇者かもしれない。
異世界勇者がダンジョンや魔物の集落を作るのはよくあることだ。
「このクエストを発注します!」
「はい、承知しました! お気を付けて行ってらっしゃいませ。
行方不明者の情報、少しでも多く集まることを期待しています!」
俺とリリベル、二人はAランククエストを受注。
北方にある「アンノウンタイガ」の森を調査することになった。
◆◆◆
「こう木が多いと、どこからが森かわからないわよね。」
確かに。
森と林の区別が難しい。
俺らは整備されていない荒れた道を北へ進んでいる。
はたして今、クエストの調査地点まで来ているのだろうか。
「でもだいぶ木が多くなってきたな。
現在地を確認するか。ステータス――」
ズゥン……ズゥン……
ステータス画面で地図を出そうとしたら、地響き。
いや足音か?
何かが近づいてくる。
「おんめぇら、なにしにごごへ来だぁ?」
振り返ると、後ろには一つ目の巨人がいた。
サイクロプスという種族のモンスターだ。
「これは古代モンスター?」
「いえ、こいつは違うわ。」
そう言うとリリベルはしゃららんと杖を振り上げ一回転。
いつもの黒ドレスに戻った。
「あ、四天王様でしたか。すんません。」
しゃべり方が普通に近づいた。
あのなまり方は素のしゃべりだったのか?
俺らはこのサイクロプスに道案内をしてもらうことにした。
「確かに、最近見慣れない魔物があっぢのエリアにいます。
おら達も気味悪がって近づきません。」
やはり魔王軍とは関係ないモンスター達だったのか。
ますます異世界勇者との関係が疑われる。
「ここです。このあだりに変な魔物が……」
周りを見渡すサイクロプス。
俺たちも警戒しながら進む。
すると目の前に、まだツボミの大きな植物が現れる。
「ん? この植物ちょっと変――」
リリベルがそう言った時だった。
パカッ ダダダダダダダ!!
植物のツボミが少し開き、中からマシンガンのように何かが放出される。
放出された弾は木々を倒し、サイクロプスの皮膚も貫通する威力。
俺とリリベルはそれぞれの方法で咄嗟の防御。
ごめんサイクロプス。致命症では無いはずだから逃げてくれ。
しばらくするとマシンガンが止まった。
「何よこの危ない植物は!」
「ステータスオープン!」
【[タネガシマクサ](死)】
説明:はるか昔に絶滅した植物型モンスター。
近づく者がいると全力で種を飛ばすため、他の生き物に絶滅させられた。
「いたよこいつだリリベル。古代のモンスターらしい。」
「こんな危ないヤツ、よく生き残ってたわね。」
「いや違う。なんか名前のところに変な文字が――どうしたリリベル?」
リリベルを見ると、斜め上のほうを見て驚いている。
そういえばマシンガンによって木々が薙ぎ払われ、視界が広がっている。
目の前には崖がそびえ立っていた。
その崖の上に……あふれんばかりの[タネガシマクサ]が。
「刺激……を……与えなければ。」
「いえ、だめよ。来る!」
全てのツボミがこちらを向いている。
そのツボミが少し開いてきた。
「ステータスオープン!! "黒賽"ッ!!」
ダーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!
連射が激しすぎてただの轟音になっている。
俺は二人を囲むようにキューブ型にステータス画面を展開。
何も通さない絶対防御態勢だ。
マシンガンは数十秒続いた。
音が鳴りやみ、中から外を確認。
透明度が低いのでステータス画面に顔をぴったりつける。
すべてのツボミが閉じている。攻撃は止まったみたいだ。
自分たちがいたところ以外、地面がえぐれている。
「危なかった、なんだよこの植物は。」
「!! タカト危ない!!」
バリバリバシュン!!
黒賽を解いた瞬間。
何かが俺の頭を狙撃してきた。
「うぐっ」
「リリベル!」
リリベルは俺をかばい、肩に銃弾を受ける。
バリバリという音はリリベルの魔法障壁の割れた音。
四天王の魔法障壁を撃ち抜くとは。
確実に人の手によって撃たれたものであった。
「ほう、ワシのタネガシマに気が付くとは。やるのぉ。」
「誰だ!」
しおれた植物たちの隣に人影。
なぜこんなところに人間が。
まさかこいつが異世界勇者――ん? なんだろう。
顔を見たことあるような無いような。
「ステータスオープン!」
【[尾張国の武将 織田信長](死)】
レベル:76
スキル:三段撃ち
効果:弾丸を三発撃つと三発目の破壊力が上がる。
「織田信長ああああああああ!!!」
「ん? なんじゃおぬしもワシの事を知っておるのか。
後世に語り継がれるとは、さすがワシじゃのう。」
まさかの戦国武将が異世界転生。
いや、信長の場合はまさかでも何でもない気がするが。
とにかく絵で見たことある顔、袴もそのまま。
誰がどう見てもあの戦国武将だが、なぜこの世界に。
「なに、タカト知ってるの?」
肩の傷を治癒しながら立ち上がるリリベル。
知ってるも何も超有名ですし。
「な、なんで戦国武将がこんなところに!?」
「はて……それを話すと長くなるのぉ。
簡単に言うとじゃな……縁があったというわけじゃ。」
「縁……?」
なんだ、わからない。
戦国武将に会えてちょっと嬉しい自分がいるけど何か忘れてる。
何だっけ……
「何でいきなり襲ってきたんですか!?
まだ敵か味方かも分からないじゃないですか!」
「うむ……ワシを好意的に見ておるおぬしを家臣にしたい気はあるが。
これも同盟のためじゃ。悪く思うな。」
「同盟? 同盟って……」
「せめておぬしは逃げい。そこの女子を置いてな。なに、女子は殺さぬ約束じゃ。」
おなごってリリベルの事か。
なぜリリベルを置いていかなくちゃならない。
――いや、待てよ。
古代生物。
過去の武将。
転生者によくある女は生かす、男は殺す。
そして――
「ステータスオープン。」
【[尾張国の武将 織田信長](死)】
詳細:(死)というのはアンデッドを表す。
[復活の勇者 タイガ]によって召喚された英霊である。
あー、そういうことね理解した。
今回の敵はネクロマンサーか。
「すみません織田信長さん……逃げることは出来ません。
こういう時はなんと言うか、確か――」
喋りながら体勢を立て直す俺。
相手は戦国武将。でもやるしかない。
「そう、推して参る!!」
「威勢が良いのう! 受けて立とうではないか!」
信長が右手で空を払うと、再び植物が動き出す。
しかし一度見た一斉射撃、二度は食らわない。
「ステータス!!」
俺も右手を空に上げる。
植物たちの下にステータス画面を表示。
そのまま上に移動、こちらを向いていたツボミが切り落とされる。
「それは囮じゃ。」
いつのまにか俺らの背後に咲き誇る[タネガシマクサ]。
じゃあ背後にステータス画面を――
「《ファイアコラム》!」
背後に炎の柱が何本も発生する。
リリベルの魔法だ。
植物は焼き払われた。
「こんな植物で私たちがやられるとでも?」
「もちろん、思うてないぞ?」
ダダダン!! ダダダン!!
四方八方、数か所からの連続射撃。
これはタネのマシンガンではない。
「リリベル!」
「ええ!」
俺らは上空へ逃げる。
おそらく信長はスキルを発動している。
あの弾丸の三発目はかなりの貫通力を持っている。
リリベルでは防ぎきれず、俺は反応できない。
空中で狙いをブレさせ、直接たたきに行く。
「ステータスポリゴン! モデル:刀剣!」
「よかろう、直接切り落としてやるわ。」
信長も刀を抜く。
ただの刀・あの有名な長谷部か。それとも異世界的な魔力が付与されているか。
俺は空中に設置したステータス画面から飛び降りる。
自由落下で信長に切りかかる。
カイィィィン!!
信長の刀が折れた。
「何ぃ!」
そりゃそうだ。
俺の刀……ってかステータス画面は異次元の硬さを持つ。
何かの魔力で強化されていたとしても関係ない。
「おらぁ!」
そのまま首を切る。
信長の頭部が飛んで……行かない。
ガシィィ!!
信長が自分で頭をキャッチ。
すぐに元の位置に戻す。
なんというギャグマンガ感。
そうだった、この人アンデッドだった。
「甘いのう小僧。」
懐の異空間から取り出した火縄銃を俺に突きつける信長。
「甘いのはあなたよ。」
「なんと……」
リリベルの声を聞くと、彼は銃の狙いを落とす。
いつの間にか俺と信長の下に魔方陣が描かれていた。
俺も気が付かなかったが、リリベルが陣を描くとは珍しい。
魔方陣が熱を放つ。
「熱っつ! ステータス!!」
「また炎か。是非もないのぉ。」
「《ファイアストーム》!!」
バウウウウゥゥゥ!!!
俺ごと信長を馬鹿火力な炎の竜巻で焼き尽くす。
俺はまた自分を黒賽に入れて防御。
そのままゆーっくりと黒賽を移動してその場を離れる。
防御態勢を解除すると、そこは焼け焦げた地面だけが残っていた。
これは……信長に勝ったのか?
「リリベル、警戒を解くなよ。
アンデッドを操る異世界勇者がまだ近くにいるはずだ。」
「わかってるわよ。」
俺とリリベルは崖の上からあたりを見回す。
早く本体をたたかないと、こちらの体力がもたない。




