ギルドマスター
「えーっと、たてがみはダンジョンの深部に落ちています。
細い毛ですが魔力を帯びているので、魔法使いなら見えるでしょう。
だって。リリベルわかるの?」
「わかんないわよそんなはした魔力。」
はした魔力って。
俺とリリベルは南の洞窟を目指して森の川添えを歩く。
一応クエストの注意書きを読んでみたが、よくわからない。
広い洞窟から毛を探すって難しくね?
「あ、確かここね。」
森の付近に突如現れる、下へ続く階段と洞穴。
川が増水したら水が流れ込んできそう。
あとで治水について忠告するか。
俺らは階段を下り、ダンジョンへ入る。
「ウキキーー!!」
ガンッ!
白いサルっぽいモンスターが襲い掛かってきた。
ステータス画面の壁を出すと、頭をぶつけて気絶してしまう。
「あんまモンスターのレベル高くないね。」
「低予算ダンジョンなんてこんなものよ。」
ダンジョンにも予算なんてあるんだ。
俺らはどんどん奥へ、下層へと進む。
すると二足歩行をするサイのようなモンスターが現れた。
「グフゥゥゥ!! お前ら冒険者だな!
ここまで来るとはいい度胸だ! 覚悟ぉお?おああああ!!!」
武器を振り上げ突進してくるサイ型モンスター。
しかし途中でスライディング土下座に代わる。
「失礼しましたぁ!
その魔力は四天王リリベル様! まさかここにいるとは!」
こいつは気が付いたみたいだ。
「良い。連絡なしで訪れたのは私の勝手だ。顔を上げなさい。」
急に偉そうになるリリベル。
いや、実際えらいけど。
「どうして報告しなかったんだ[エテウッキー]!」
「ウキ?」
このサルは知能が低そうだ。
俺たちはこのサイ型モンスターに案内してもらうことにした。
そしてボスの部屋までたどり着く。
「ようこそお久しぶりです。リリベル様。」
馬が喋った。
いやユニコーンだから喋れるのか?
「あなたが新団長様ですか。話には聞いております。
なんでも異世界勇者を何人も倒しているとか。」
「いやぁ魔王軍みんなのおかげだよ。それより――」
俺はたてがみの話をした。
数本、数グラムでいいから分けてくれないかと。
「ええ、いいですとも。
何なら刈り上げますのですべて持って行ってください。」
「いやいやそれはかわいそうすぎるよ。」
「どのみち私は毛の生え変わり時期がもうすぐです。
あ、そうだ。それならばお待ちください。」
そう言ってユニコーンがヒヒーンと鳴いた。
やっぱ馬じゃん。
その鳴き声を聞き、奥の部屋から数体のユニコーンが出てくる。
「え、ユニコーンってこんなにいるの!?」
「はい。私たちはこのダンジョンを交代で管理しています。
確かそこの……角の生え変わりが近いものがいたな。」
「はい、私です。」
少し声が高い、背の小さいユニコーンが前に出る。
角が生え変わる?
「どうぞ、この角をお取りください。」
若いっぽいユニコーンは、俺に頭を差し出す。
俺は目の前の角を持ち、抜いてみる。
すぽん! ニョキっ!
角は軽く抜け、すぐ次の角が生えてきた。
「私たちの一族は何年かに一度、角やたてがみが生え変わるんです。
たてがみよりも魔力が高い角ですので、きっと役に立ちますよ。」
「あ、ありがとう。」
あーなるほど。
よくゲームで討伐したユニコーンから二本角素材が取れるのってこういう事か。
なんで一体なのに複数採れるか、ずっと謎だった。
ユニコーンやダンジョンのモンスター達に別れを告げ、ギルドへ戻る。
角だったら2ランクくらい上げてもらえないだろうか。
◆◆◆
「こ……これは……」
絶句する受付嬢さん。
ざわざわする周りの冒険者たち。
クエスト達成の報告に念のため3本のたてがみと、角を提供した。
しかし思ったより角はレアアイテムだったらしい。
俺なんかやっちゃいましたか?
「本物かこれ?」
「誰かから奪ったんじゃねぇのか?」
「ユニコーンの角は生え変わると聞きます。拾ったのでは?」
「拾うって言っても寝床まで行かないと落ちてないだろ……」
口々にいろいろな推測をする冒険者たち。
しかしある一声であたりが静まり返る。
「君たちが、これを?」
「あ、ギルドマスター様。」
受付嬢の言葉から、声の主がこのギルドのトップだと分かる。
声は後ろから聞こえてきた。
後ろでざわつく冒険者たちが道を空け、声の主が俺たちの近くまで来る。
そんな人まで出てくるとは。
「あ、ハイ。ダンジョンの最深部で拾いマシタ。」
威圧感から片言になる俺。
一般人の俺からでもわかる。この男、ただものじゃない。
「そうか、ふうむ。」
顎に手を当て、ユニコーンの角を持つギルドマスター。
角を様々な角度から観察し、頷きながら机に置く。
「よし、試験を行う。」
「試験……試験だって!?」
「久々だぜギルマスの試験。」
「あいつ死ぬんじゃねぇか?」
冒険者たちが口々に言う。
なんだ試験って。
「レーナ、試験の用意を。」
「は、はい!」
受付嬢が返事をする。レーナって名前なんだこの人。
こうして俺は、謎の試験を受けることになったらしい。
◆◆◆
ギルドの裏にある練習場の広場。
俺とリリベル、ギルドマスターが広場の中心にいた。
周りには冒険者の野次馬が。
「ルールは簡単だ。俺に一発でも当てたら君は合格。
明日からAランク冒険者として受け入れよう。」
「(Aランクだって! やった!)」
俺の腕をつかみ、小声で伝えてくるリリベル。
もう受かった気でいる。
試験ってそういう事か。難しいぞ。
俺は一般人。剣術なんて習ってない。
変なスキルを見せずにどうやって認めてもらうかだ。
「えっと、一発当てるって何を使って……」
「その腰にある剣で問題ない。」
「え、でも真剣ですよ。」
「私が切られるとでも?」
眼力がすごい。威圧される。
確かに俺程度、何やっても傷一つつかなそう。
「それより自分の心配をしたほうがいいのではないか?
私の武器はこれだ。」
そう言って構えるギルドマスター。
手には精巧な彫刻が施された黄金の剣が。
「この得物を前にしても引かない度胸がお前にはあるか。
さあかかってこい。いつものように魔法使いとの連携でも問題無い。」
かかってこいと言われましても、そんな度胸無いですが。
それに魔法使いとの連携って……
リリベルのほうを見ると、明らかに殺気立ってる。
これは俺が怪我でもしようもんなら、あの男死んでしまうな。
不用意に殺したくはない。
なんとか場を納めなくては。
「よし、行きます!」
覚悟を決めて剣を握る。鉄の棒、重たい。
少しよろめきながらマスターへ突撃する。
「うおおおお!!」
ガキィィィン!!
剣と剣のぶつかる音。
構えていたギルドマスターは微動だにせず俺の剣を受け止める。
振動が手に伝わり、危うく剣を落とすところだった俺。
でもここで!
「(ステータスオープン!)」
パキン! ……カランカラン
剣が交わる一点に極細のステータス画面を二枚展開。
ハサミで切るようにしてギルドマスターの剣を折る。
折れた剣が地面に落ち、透き通った金属の音が鳴った。
「あ、剣が折れちゃいましたね。これで試験は――」
……シーンとする広場。
よく見るとみんな、青ざめている。
武器を壊せば試験は終わると思ったが。
俺、またなんかやっちゃいましたか?
「あ……あわわわやべぇよマジかよ!」
「嘘だろおい[英雄の剣]が!」
「いやぁっ! 私たちの英雄が!」
「何があった? あの最強の剣が……」
「皆の者、静まれ。」
ギルドマスターの言葉に、一同が静まる。
「形あるもの、いつかは壊れる。問題はない。」
「あの……なんかすみません。」
「謝る必要はない。武器などまた手に入る。」
そう言ってギルドマスターは俺に背を向ける。
「レーナ、彼に昇格の書類を!」
「は、はい、かしこまりました!」
受付嬢が書類を取りにギルドへ戻る。
周りの冒険者たちがまた騒ぎ始めた。
「昇格!? まさか合格なのか!?」
「そりゃあ伝説の剣を折ったんだ、合格だろ。」
「あれはトリックだろ? それか前の戦いでヒビが入ってたか。」
「じゃあ何で。」
「彼は!」
ギルドマスターが話始める。
「彼は確かに貧弱だ。踏み込みも筋力も甘く気力もない。」
そこまで言わんでも……
「だが……確実に俺より強い。」
「ギルマスより!?」
「え、どういうこと?」
ワザつく冒険者一同。
「先ほども、剣を折る能力があるにもかかわらず俺は五体満足だ。
何か理由があって実力を隠しているのであろう。」
さすがギルマス。バレてるじゃん。
「そんな怪しいやつをギルドは迎え入れるのかよ!」
甲冑で身を包んだ冒険者が叫ぶ。
確かに、何で昇格したんだ?
「重要なのは、誰かを護ろうとする心だ。」
「誰かを?」
冒険者の反応にギルドマスターが答える。
「そうだ。おそらく……そこの殺気立った娘の事か。こいつの目や心音、力の入れ具合からは絶対に護るという気が感じられる。
事情は聞かないが、護ろうとする心があれば冒険者としては合格だ。」
うーん惜しい。
むしろその娘からあなたを全力で護ろうとしていました。
「タクヤと言ったか。冒険者として励むのだ。
そして特殊なスキルに引けを取らないよう心身を鍛え上げろ。」
「は、はい。ありがとうございます。」
冒険者ランクが上がりました!
D→A
……よくわからないけど。




