魔法研究娘と冒険者ギルド
「ああん、らめぇ!」
「オラオラここがいいブヒか!!」
森の中でオークに犯されるエルフ。
いや、厳密に言うと森ではない。
森の立体映像が表示された「実験室」だ。
実験室には大きなガラス窓がついており、取調室みたいになっている。
ガラス窓の向こう、実験準備室には俺ともう一人のモンスターがいた。
「うーんなかなか効いてますね。媚薬。」
手元の資料とモニターを見比べながら話すこのモンスター。
魔法使いのようなローブととんがり帽子に、白衣を上から着ている。
顔は影のように真っ黒で、目だけ丸く光っている、女性型モンスター。
だが魔王軍彩魔術団の幹部テツコンさんとは違う。
彼女の部下の研究員だ。
「これって感度はどのくらいなの? 何千倍?」
エルフの乱れっぷりを見ながら俺が質問した。
あたりをきょろきょろしながら答える研究員。
「いやいや、ほんの2倍くらいですよ。
そんな何千倍なんてやったら死にますって。」
「だよね! さすがにそこまではファンタジーか。」
「えっとー、そこに原液があるので、それはかなり濃いですけど。」
指をさしたところにある……いやわからん。
部屋が物だらけで乱雑すぎる。
そこらへんに資料やら箱やら謎の道具が置いてある。
いくつかある机は、俺らの前のもの以外すべて物置と化している。
「ブヒィ~、あ、お疲れさまでした。いいデータは取れましたか?」
実験室への扉が開き、オークが入ってきた。
既定の時間が終わったので、一時休憩だ。
しっかり前も隠してるし、このオーク意外と紳士だ。
「ええ、ありがとうございます。別室で休んでください。」
「了解しましたブヒ。」
オークは散らばった書類を踏まないよう出口へ向かう。
「じゃあ俺はあのエルフを回収してくるね。」
「あ、お願いします。」
俺は実験室の扉に向かう。
ちなみにこのオークもエルフも治験の志願者だ。
非人道……非魔物道的な事は一切していない。
バチッ! ブシュゥゥゥ……
「え、なんだ!?」
何かを踏んでしまった気がした瞬間、あたり一面が真っ暗になった。
「あ、団長様そこにはケーブルがありまして……
部屋のブレーカーが落ちてしまったみたいですね。」
そんなこと言われましてもこの部屋じゃあねぇ。
「ちょっと待ってください、今ブレーカーを――」
バリン! ブワッ!!
「え!? 今度は何!」
何かの割れる音と共に、煙のようなものが部屋に充満する。
ドクン
「うっ……これは……」
心臓が激しく鼓動する。
体中が熱い。
なんだこれは。毒か?
まずい、吸い込んでしまった。
「あ……団長様すみません……割ってしまいました。」
「え、割ったって何を?」
「媚薬です。」
「媚薬!?」
「媚薬の原液です。」
「原液!?」
体が熱……いや、痛い。
呼吸をするたびに服がこすれて痛い。
「ちょっとこれ……感度何倍だよ。」
「3000倍です……」
「三千!? いやいや普通に神経過敏で死んでしまうわ!」
バリーン!
ッッッ!!
危ない、今の音で死ぬところだった。
暗闇なのに、一瞬目の前が真っ白になった。
なんだ今の音は。
「すすすみません団長様! また割ってしまいました!」
「ええ、次は何を!?」
「服が溶ける魔法薬です!」
「……いやなんでそんなのあるの。」
「これが意外と需要ありまして……なんかお約束だとかなんとか。
それより大事な衣服をすみません!」
服がドロドロになる。
まるで今までチョコでも着ていたかのように、流れ落ちていく服。
全裸にはなったが真っ暗でよかった。
「光を出す魔法とか無いの?」
「私、魔道具の助けがないと魔法を使えないんです。
たしかそっちのほうに……うっ、はうん、んん……」
こちらに歩いてくる音が聞こえる。
痛みやら何やらに耐えてる声も聞こえてくる。
「あ、そうだ。俺もポケットにアイテム召喚の呪符があったんだ。」
服が溶けたから足元に落ちてるはず。
前屈みで拾おうとすると、何か柔らかいものに顔を埋めてしまった。
クッション? 水風船? 思わず揉んでしまう。
「はうううう!!」
ビシャビシャビシャ……
「わ、ごめん、え、なんだ? 何か温かいものが足元に……」
「い、いえ、気にしないでくださいうううう!!!」
ビシャビシャビシャ……
「ごめん思ったより近くにいたのか! 色んなところ触っちゃった! 大丈夫?」
「はぁ、はぁ、はぁ、大丈夫……です……」
「あ、まてまてちょっとまって腕を握らないで。
痛いというか気持ちいいというか既に反応マックスというか。」
「ごめんなさい、でもこうでもしないと気が……」
「大丈夫!? すっごい痙攣してるけど。」
「それはもう、何回もイ……いえ……」
「うわ、両手をつかまれたら……ん? またやわらかい感触……」
もにゅん、ビシャビシャビシャ!!
「ああああっああっああああああ!!!」
「わわ、どうなってるの!? 何が起こってるの!? 怖い!」
「あああもっと強く! 激しくして!
来る! 来る! 強いのが来る! 奥に来て! 奥までその――」
「《マジックウォッシュ》!!」
ジャバァーー、パチン!
リリベルっぽい声がしたと思ったら、水で全身ずぶぬれになった。
でも心臓の動機は止まったみたいだ。
そしてあたりは明るくなっていた。
「あ、リリベル様、お久しぶりです。」
「お久しぶりじゃないわよ! 闇に紛れてナニ企んでるのよ!」
明るさに目が慣れ、床を見るとずぶ濡れの黒い物体がいた。
シャドウピープルっぽいその女性は、大事なところを隠している。
真っ黒だからあまりわからん。
「ぐぇ」
「ほら行くわよ」
同じくずぶ濡れ全裸の俺を小脇に抱えるリリベル。
物が邪魔なのか浮遊して部屋を出ていった。
「今日はどこに行くんだっけ?」
「また潜入調査よ。」
「ああ、冒険者ギルドか。」
「そうね。覚えてるじゃない。」
研究所を出て森の上をふわふわ浮かぶリリベルと全裸の俺。
ちなみに実験室のエルフは媚薬上乗せで一発絶頂気絶していたらしい。
◆◆◆
冒険者ギルド。
異世界転生物ではよくありがちなこの団体。
もちろんこの世界にも例に漏れず存在する。
その実態は国によって様々だ。
今回訪れたのは、緑に囲まれた国「バストゥーア公国」。
歴史あるこの国は冒険者が活発に活動しており、多くの伝説が存在する。
「ではこちらの水晶に手をかざしてください!」
元気いっぱいに案内してくれる受付嬢。
バストゥーア公国東にある冒険者ギルドに、変装し潜入する俺とリリベル。
なぜか冒険者としての登録受付を行うことになっていた。
先行したのはリリベル。
「は、はい、お願いします。」
真っ黒な地味ローブに丸い眼鏡。
長い髪はなぜか三つ編み。
受付嬢より身長が高いのに、少女設定は無理があるんじゃないだろうか。
リリベルが水晶に手をかざす。
「(《魔力逆流》!)」
バチチッ……
リリベルが何かをつぶやくと、水晶から火花が飛んだ。
【[??? リリ????]】
レベル:9?
スキル:????
魔法:《水?癒??》《火炎球LV?》《認識阻害》
水晶からステータス画面のようなものが浮き出る。
しかし殆どの文字が隠れて読めないようだ。
「あ、すみません! 私の認識阻害魔法が発動しちゃったようで……」
いつもより1トーン高めの声で謝るリリベル。
うわきつ……
「はい……えっとリリ――」
「リリーと申します。」
「リリーさんですね。レベルは9……9ですね。
大丈夫です。このまま登録できますよ。
そのうち魔法の制御もできるようになるので頑張ってください!」
「は、はい。」
笑顔で答えるリリベルだが眉間にしわが寄ってる。
上から目線で言ってくるなとでも思ってるのだろうか。
「次は俺の番ですね。」
アルミ缶で出来てるんじゃないかと思うくらいの薄い防具。
重たい鉄の剣。
俺もとりあえず冒険者っぽい恰好をしてみた。
「(ステータスオープン!)」
【[タクヤ・ジャクソン]】
レベル:13
スキル:無し
魔法:《肉体強化LV1》
水晶で表示される上から、俺のステータス画面を表示して隠す。
さっき急いで考えた情報を記載してみた。
「はい、タクヤ様ですね。登録いたします。
これでお二方とも登録されました。冒険者のルールはご存じですか?」
念のため聞いておく。
冒険者というものは。
依頼人からの任務を請け負うパターン。
新しい鉱脈などの資源や歴史遺産を捜索するパターン。
冒険という名前がついているが冒険だけが仕事じゃない。
要するに何でも屋だ。
時には魔王軍からの守護を、時にはお宝が眠る新しいダンジョンを。
依頼主に対する有益な行動に対して対価が支払われるようだ。
「ではあそこにあるクエストボードをご確認ください。
冒険の準備が出来ましたら、ここで発注してくださいね。」
受付嬢が指をさす方向には人だかりが。
壁には掲示板があり、多くの紙が貼られている。
依頼主多すぎないか?
「あの、CランクとかBランクとかどういう意味ですか?」
リリベルが質問する。
どうやらクエスト依頼書にはランクが振られているようだ。
受付嬢が答える。
「はい。あれはクエストの難易度を表す指標です。
Aランク以下の依頼書があそこに掲示されています。
あなたたちのランクはDなので、まずはDランクからスタートですよ。」
受付嬢に礼を言って、俺とリリベルはクエストボードを見に行く。
……しかしここには雑用か低レベルモンスターの討伐しかない。
大型モンスターや危険な調査はAランク以上ってことか。
一旦、ギルドの隅にあるテーブル席に座る俺ら。
「で、なんで冒険者登録したんだよ。」
「冒険者になったほうが情報収集しやすくない?」
「でも最低ランクからスタートだぞ。
上位のクエストを見るにはAランク以上にならないと。」
こそこそしゃべる俺ら。
今回、この近辺のモンスターから異世界勇者の目撃情報を得た。
身寄りがない異世界勇者は、だいたい冒険者になって日銭を稼ぐ。
冒険者になっていれば目立つので街の住人も記憶にあると思ったが。
どうやらそんなチート使いな冒険者はいないらしい。
そもそもこの国周辺で見たという情報なだけだ。
この国に住んでいるかもわからない。情報が少ない。
「そういえばなんでルナさん来なかったの?」
「ああ、あの子は前回死にかけたから今回はパスって。」
なんだ、あの人のチートがあれば楽だったのに。
しかしルナさんが魔王城を守ってくれるなら行動しやすい。
異世界チート勇者は気まぐれで魔王城に来たりするからな。
「おう姉ちゃん~、見かけない顔だな。どこ出身だぁ?」
酔った屈強な冒険者が話しかけてくる。
このギルドでは軽食や酒も提供しているようだ。
冒険者たちが気軽に情報交換をする場でもある。
「いえ、ちょっと遠いところで……」
うつむいて顔を隠すリリベル。
とても面倒くさそうな顔をしている。
「あ、すみません僕らこの街に来たばかりの新人冒険者で。
とある事情で故郷を失ってしまったんです。」
「故郷だぁ~?」
俺の顔を覗き込む屈強な戦士。
「ここらで無くなった村は北のニース村とちょっと前の……
ああいや、詮索はしねぇ。すまんかった。」
あ、意外といい人だった。
ついでに聞いてみよう。
「冒険者ランクを上げるには、どんなクエストがお勧めですか?
僕らお金がなくて、少しでも前に進みたいんです。」
男は答えてくれた。
なんでも、初心者のうちはとにかく採取クエストが良いと。
そのうち危険な場所やモンスターの倒し方がわかってくるそうだ。
レアなアイテムを採取して地道にがんばれと教わった。
「ねぇ、あれとかいいんじゃない?」
クエストボードの前に行き、発注書を物色する俺ら。
リリベルが良いものを見つけたらしい。
【純潔のたてがみ採取 ランクC】
概要:ユニコーンのたてがみを1グラム以上採取する。
場所:南の洞窟ダンジョン
ランクはD、C、B、A、Sの順に高くなる。
俺らはランクDだが、一つ上のランクのものも受注できる。
「あそこのダンジョンなら下見に行ったことあるわ。
ボスのユニコーンに会ってちゃっちゃと終わらせましょう。」
知り合いがボスをやってるなら話は早い。
俺たちはクエストを受付嬢に提示。
いきなり上のランク受注に身の安全を念押しされた。
しかし心配ながらも発注してくれた。
初クエスト、たてがみの採取。




