無限収納能力者の倒し方
「ぷはぁ、はぁ、はぁ、何だ、どうなった、ヤツは?」
謎の爆発が収まり、砂埃も風に流されたので周囲を確認する勇者。
建物どころか地面すらえぐれて、周囲がクレーターみたいになってしまった。
爆心地で佇む彼。
あの爆発でも生きているということは、"爆破の衝撃"を"収納"したのだろうか。
「あっ、てめぇ! 生きてやがったか!!」
ステータス画面の板に乗りながらゆっくり降りる俺。
パーティ部屋は上階にあったらしく、地上に落ちないよう下降する。
「クッソ、やりたくないけど一回お前を収納しなきゃならねぇな。
奴隷になったあと覚えてろよ糞が……」
彼の能力の射程範囲は1メートル。
建物がなくなった今、射程範囲を余裕でかわせそうだが。
何か高速で追尾するようなアイテムがあるのか?
まあ、逃げないけど。
「……」
「何だ、使えるアイテムあるじゃねぇか。」
彼が自身のステータス画面を見て気がつく。
流石に俺もすべてのアイテムを加工できてるわけではなかった。
「これだ。《飛翔の靴下》。こいつで機動力を上げて絶対にがさねぇ!」
「……」
「そこで待ってろよ!!――ってそこから動かないな。何だお前。」
「……ぷはぁ!! はぁ、はぁ、そろそろいいかな。」
「はぁ?」
地上に降り棒立ちだった俺は、彼に少し近づく。
「さっきの爆発、なんで起きたかわかるか?」
「……そういえば何で俺にまで爆風が来たんだ。
あの邪竜の技はこんなものじゃなかったはず。」
「そう。実はさっきの技にも秘密があってね。
ステータスで確認してみればいいじゃない。」
「は? ス、ステータスオープン!」
【ショウヘイの攻撃】
・ショウヘイは[ベニヒサゴ]から《邪竜終焉滅殺弾
爆裂陣癒やしの鈴火炎弾雷刃LV6爆破珠炎薬木竜巻脚鬼神の札
.exe》
を放った。
・あたりは粉々になった。
「は……はぁ!? 何だこれ!?」
「だからさっきも言ったでしょ。
なんでもすぐ開かないで拡張子見なさいって。」
まあ拡張子の話は置いといて。
収納空間に衝撃波やエネルギー弾が浮いているのは知っていた。
敵が放った技が"アイテム"のように扱われ一つの物体となっている。
その物体を空間から外に放出することで、技の発動が出来るのだろう。
俺はそのエネルギー弾をコネコネして他のエネルギーと混ぜた。
そして新しい技名として命名上書きして、空間に放出。
勇者が騙されて使うのを待っていた。
自慢のコレクションをこねくり回され、勇者がキレる。
「てんめぇ……マジふざけるな!
人のものを勝手に壊していいと思ってんのか!!」
人のものを奪っておいて何を言うか。
「だめだやっぱりお前は殺す。
どんな手を使っても殺す。最高に苦しませて殺す。
殺す殺す殺す殺す殺す殺すゥゥゥゥウウウ……」
おや?
やっと効いてきたかな。
勇者の目が白くなり、全身が赤みがかってくる。
こぶしを強く握り気合を入れると髪の毛が逆立ってきた。
「ウウウウオオアアアアアアアアアア!!!」
もはや先ほどまでの頼りなさそうな勇者ではない。
筋肉が増え服が破れ、放つオーラで周囲の小石が浮いている。
歯を食いしばった赤い顔はまるで鬼の形相だ。
ってか鬼だ。
少し離れたところから声をかけてみる。
「もしもーし、聞こえるかい?
やっと効いたみたいだねぇ《鬼神の札》の効果が。
札を燃やした時に出る呪いを吸い込んだら鬼に変貌するレアアイテムだ。
さっきの合成技に仕込んでおいたのに気が付いた~?」
俺は技のエネルギーでレアアイテムが作動するように細工していた。
爆発から数秒間息をしなかったのはこのためだ。
鬼に変貌すると最強の力を手に入れられるが、理性を失う。
これで彼は小細工を使う事が出来なくなっただろう。
しかし。
シュンッ!――――ドゴオオォォッッ!!
「うわあぶねぇえ!」
超高速で突進してくる鬼人化した勇者。
俺は咄嗟にステータス画面で上に逃げる。
勇者は勢い止まらず、クレーター化した地面の端まで行ってしまう。
「やばいこんなに強くなるとはぅおっと!!」
かなり距離はあるはずだが、彼は空中にいる俺目掛けて突進。
なんという跳躍力。
というか……
「ステータス! ステータス! え、当たらないんだけど!」
ステータス画面のカッターをばらまくが、彼はギリギリで交わしてしまう。
地上にいるならまだしも、跳躍で空中にいるのに無理な姿勢で交わされる。
それどころかステータス画面を足場にし、俺への突進を止めない。
「動き回るな! 正確に頸を切れないだろうが!! うわぁっと!!」
彼の拳が俺の頭をかすめる。
彼はステータス画面を足場にして、空中をジグザグに飛び回る。
目の前に配置した小型ステータスカッターもうまく交わす。
あれ、理性がなくなるんじゃなかったのか?
この速さで攻撃されると、常人の俺の目では負いきれない。
今回はただ討伐するだけではだめなのだ。
首をはねる、もしくは脳をつぶして即死させなくてはならない。
なぜなら、彼の死体が残らないと収納された人々の回収が出来ないからだ。
「ヴヴオオアアアア!!! グオオアアアア!!!」
どこから出してるか分からない低い声で叫ぶ勇者。
「ステータスポリゴン! モデル:†堕天使†!」
俺は空中で移動できるようにステータス画面で羽を付ける。
いや、実際は胴体をホールドするだけでいいのだがなんとなく。
ビジュアル的にも背面からの攻撃対策にも。
「うお! あぶな! おら! ステータス!」
跳び回る勇者に対し、不規則に動きステータスの刃を浴びせる俺。
対する勇者は岩を投げたり、投げた岩を足場にしたり頭を使ってくる。
空を飛べないはずなのになぜ身軽か。
「あ、そうだ!! ステータスポリゴン! モデル:彼岸花ぁ!!」
ブワァァァ……
クレーター一面に、ステータス画面を組み合わせて作った"花"を咲かせる。
モデル彼岸花と言いつつ、細い花びらが沢山ついてるだけの花だ。
この花、けっこうポリゴン数使う上にここら一帯を埋めなくてはならない。
激しい頭痛に襲われる。
だが、勇者は着地をためらってバランスを崩す。
ザクザクザク!!
「ゥグウウウウ!!」
なるべく花を踏まないように両手足で着地する勇者。
やはり戦闘に対する知能というか直観がすごい。
それでも両腕と足は花に軽く触れ、傷だらけになってしまった。
ブチブチブチ!!!
「ああやめて! 痛い痛い痛い見てるこっちが!!」
しかし、針の山のような花畑でも気にせず全力跳躍する勇者。
踏み込んだ足はボロボロになり痛々しい。
「でも……動きが鈍ったね。ステータスポリゴン、モデル:日輪の刀剣。」
ズバン!!
弱々しく突進する勇者の頸を正確に切る。
ステータスのカッターでもよかったが"握り"があったほうがより狙える。
モデルを刀剣にしたのは……なんとなく。
「!! ガッ……」
最期に声にならない声を出し、体の力が無くなる勇者。
そのまま首と胴体は放物線を描くようにして後方へ飛んでいく。
――急げ急げ!!
ガシッ!
飛んでく死体に追いつき、首のない勇者の左手首をつかむ。
「《緊急コード》発動! パスコード『0512』!
《銀角》ッ! 収納しているエルフを開放してくれ!
ベクスト、アンヌ、シャリエッタ、クアルクレイ――――」
勇者のスキル《金銀結界紋》には緊急発動条件が存在することを確認済みだ。
何らかの事情で本人以外が収納空間から物を出し入れする時に使う。
それには両腕が揃っていることが条件なので、不用意に殺せなかった。
俺は勇者の死体とともに地上へ降下し、エルフたちの名前を呼び続ける。
急いで洋館にいたエルフ全員を召喚していく。
「ええっとあとは……あっ!」
掴んでいた腕が無くなる。
勇者が完全に息絶え、死体が消えてしまった。
エルフは救出できたが……善良なモンスターたち、すまん。
あとレアアイテムがもったいない。
「タカトさん!!」
後ろから抱き着かれる。
ベクストだ。
「ありがとう……本当にありがとう……!」
涙を流しながら感謝を伝えてくるエルフの娘。
後ろを振り返ると、助けた他のエルフたちも泣いている。
「ありがとう……」
「なんとお礼を差し上げたらよろしいか……」
「えぐっ、タカトくんっ、ありがどぉ……」
みんなが俺のほうに寄ってきて、すがるように泣きつく。
よかった。みんな感情を取り戻せたようだ。
ベクストが俺から顔を離し、改めて感謝を伝える。
「ありがとうございます……! この恩はエルフ一同一生忘れません。
今後は魔王軍……いえ、タカト様にすべてを捧げます。
どんな事も喜んで従事いたします。なんなりとお申し付けください。」
泣きながら笑顔を見せるエルフたち。
「ああ、我が国も全面的にバックアップしよう。」
「私をあなた様の傍にお就かせ下さい。きっと役に立ちます。」
「そうだね、殿方の喜ばせ方もマスターしたしね。」
エルフの少女の言葉に、赤面する面々、
奥ゆかしさも戻った……ってことなのか?
「ええっとー……タカト君、状況がまったく分からないんだけど。」
「……なんか悪い夢を見たわ。」
空からリリベルとルナが降りてくる。
忘れてた、二人を巻き込まないようにステータスで空中待機させてたんだった。
「うーんと一言で言うと……勇者討伐完了、って感じ。」
「は!?」
「え?」
洗脳されていた時の記憶がないのか、驚く二人。
エルフの一人がうふっと笑う。
それにつられて他のエルフや俺も笑ってしまった。
ますます理解不能な顔をする、宙に浮く二人の女性だった。
こうして空間の勇者の討伐は達成された。
VS 空間の勇者 おわり
無限収納能力者の倒し方:
収納された物を破壊して自爆させる




