本の栞的な能力
「残念ね。ちょっと期待したのに。」
偽四天王・ルナが俺に両手を向ける。
まさかついに発動するのか、記憶操作のスキル――――
――――えーっと。
とりあえずこのセリフを叫ぶ。
「だから俺に能力は効かないんだって言ってるだろ!」
「…………は? え、え、マジで!?
嘘でしょちょっと! えい!!」
慌てる彼女がそこにいた。
いつもとキャラが違う気がする。
彼女が俺に対して両手を向けた――――
――――えーっと。
とりあえずこのセリフを叫ぶ。
「だから俺に能力は効かないんだって言ってるだろ!」
「何でよ! 何で効かないの! もうやだぁ。」
涙目で叫ぶルナさんが石柱の上に立っている。
――違う。
恐らく敵だ。
状況を整理しよう。
実は俺がなぜここにいるのか、彼女が石柱の上にいるのかわかっていない。
しかし予め決めておいた状況になっている事が分かる。
俺は日々書き続けている能力者対策案ノートにこんな事を書いていた。
『「いつから錯覚していた?」という文字を見た時。
「だから俺に能力は効かないんだって」というセリフを叫ぶ。』
これは一種の合言葉だ。
俺は漫画の好きだったシーンのセリフを合言葉に設定している。
今回の場合、敵が幻術のようなものを使った時のセリフだ。
この、たった一言のセリフを見た俺の脳は漫画のワンシーンを思い出す。
そこから情報があふれ出し、自分が置かれている状況を判断する事が出来る。
正直こんなんで破れるとは思っていないが、あとは相手の立ち振舞に合わせる。
今は慌てふためいている事から、本当に幻術使いなんだろう。
表示されていたのはこのスカウターみたいなアイテム。
ルナさんを三角形のマークが追従している。
その下に例の合言葉が書かれていた。
三角形の横には何も表示されていないが、恐らくENEMYとでも書いてあったか。
俺ならそうする。
ということは。
目の前の彼女は、敵であるという記録と記憶を消去する能力のようだ。
前の記憶の俺、頑張った。
あとこのアイテムを作ってくれたであろう彩魔術団の方、ありがとう。
「……もういい! 死ね死ね死ねええええ!!!」
ルナの周りに色々な妖精たちが召喚される。
妖精たちは各々の属性の魔法を放つ。
炎、水、石、電気……
その多才な属性ぶりはリリベルのようだ。
しかし。
「ただの魔法じゃ俺のステータスは破られないよ。」
直線的な魔法の一斉射撃。
そんなもの大きめのステータス画面一枚で防げる。
このスカウターのようなアイテムのおかげもあり、敵の位置と軌道も丸分かり。
「ステータスオープン!」
大きなステータス画面を出し、俺の背後から扇ぐ。
魔法乱れ打ちによって出来た砂埃を吹き飛ばした。
「くぅぅ、まだまだ! みんな、分散して――」
「ステータスオープン。」
ズバババッ!!
妖精たちを一斉に切り裂くステータス画面。
「なんっ……でも無駄だよ! 妖精に物理攻撃は効かない!」
確かに。切ったそばから再生していく。知らなかった。
だが問題ない。
「妖精? どれのことだ?」
妖精が再生する。
鋭いステータス画面で切られる。
再生する。切られる。
再生する横でじっとステータス画面が待ち構える。
「このステータス画面は魔法じゃない。魔力消費ゼロだ。
だから再生したそばから永遠に妖精を切り裂き続ける事ができる。
さあ、もっと妖精を出してみろよ。全部切り裂いてやるから。」
と言いつつ、同時に動かせる枚数に限界があるのは内緒。
これ以上出されると激しい頭痛に襲われる。
ルナは諦めてくれたようだが、逃げようとしていた。
「待て! ステータスオープン!」
彼女が逃げるだろう経路を大きな画面で塞ぐ。
足を止めたところで左、右側にも展開した。
そして手前を塞ごうとした時――彼女が消えた。
「そこだ!!」
スタータスの壁を移動する。
姿の見えない彼女でも、このスカウターからは逃れられない。
というかバグったステータスには目視できるか関係ない。
しかし……
「タカト。これはどういう事だ。」
「うっそだろ来ちゃったか……リリベル。」
ステータス画面の後ろからリリベルが現れた。
しかもジオウさんまでいる。
「手合わせ……って感じじゃねーよなタカトぉ。
お前裏切るつもりか? だったら俺が相手になってやるよ。」
ルナは二人の後ろに隠れる。
これ見よがしに演技をする。
「タカトくんがいきなり……どうしたのタカトくん!」
「二人共。落ち着きなさい。」
お、リリベルが落ち着いている。
俺の作戦だと気がついてくれたか。
「恐らく操られているようだ。解呪には動きを止めてもらうしか無いが……
二人共、殺しては駄目だぞ?」
だめだこいつ。
「思い出してくれリリベル! そいつは四天王じゃない!
操られているのは君たちの方なんだ!」
「はぁ……タカト。まさかお前が敵の術中に嵌ってしまうとはな。
お前の能力が奪われ、仕返しの手すら考えられなかった時も。
魔女殺しの槍を受けて敵に囲まれてしまった時も。
全部ルナに助けてもらったじゃないか。」
あー言うと思った!!
「……そうだよなぁ。人の心を操るなんて困った能力だよ。
もう少しで行けそうだったのにあまりにもテンプレートな回答ありがとな!
ステータス・オー――」
バジジジジジ!!!
俺がステータス展開を言う前に、四天王のジオウが突撃してきた。
咄嗟に、目の前にステータス画面を三枚展開。
彼の魔力が激しく音を立ててるが、ギリギリ防げた。
「よく防いだなぁタカトォ!!」
バリン!!
ステータス画面が一枚割れた。
三枚出しておいてよかった。
相変わらずおっかない。
「ステータスポリゴン モデル:黒剣!」
目の前のステータスシールドを少しずらし、ジオウに斬りかかる。
剣先が伸びるこの剣を勘でかわし、彼はバックステップする。
勘っていうか俺の動作が読まれてるんだな。当たる気がしない。
「タカト、もうやめなさい」
突然背後から現れるリリベル。
「モデル:†堕天使†!」
ズバズバッ!
「くっ!」
俺は背中にステータス画面の羽を生やし、リリベルを攻撃する。
リリベルの服と肌にかすり傷を追わせた。
背後に出てくるリリベルの攻撃方法は熟知している。
また、ENEMYの場所はスカウターのようなアイテムで追従している。
敵が増えたのでその分表示が増えている。
ここで魔法丸薬を飲む。
《ヘイストの丸薬》だ。
こんなこともあろうかとポーチに入れておいた。
一定時間身体速度が向上する魔法。
思考速度にも有効で、人間である俺が少しでも反応速度を上げるためだ。
「オラァ! オラァッ!!」
ガキィン! ガキィン!
ジオウの剣と俺のステータス画面がぶつかる。
俺は動かずその場に留まる。
彼が割れるステータスは一枚のみ。
複数展開することで、彼は俺に近づけない。
「精霊たちよ! ああっ!」
ルナに召喚された精霊は、召喚されたそばから切り刻む。
「《黒炎》!」
足元を直接狙う魔法は、予兆をスカウターに任せ回避する。
後ろに回り込んだリリベルにはステータスのカッターを放つ。
「ウウウオオオオオオオ!!!」
叫び、渾身の一打を放とうとするジオウ。
スカッ……ザクザクザク!!!
壊されそうなステータス画面をあえて分離。
体勢が崩れ、防御が疎かになったジオウの足元を切り裂く。
「グゥゥ!」
ジオウが倒れる。
激しい攻撃が止まった瞬間を狙い、1cm四方のステータスを相手の周りに展開。
動こうとしたリリベルとルナの体に傷がついた。
「ステータスポリゴン モデル:女神空間の財宝。さあ、ルナ。こっちに来い。」
動けないでいる彼女たちに先が向くような形で、空中に十字架を大量に出した。
十字架の形に成形したステータス画面を限界の数まで展開し、威圧に使う。
「くうううう!」
ルナが悔しそうに唸っている。
「タカト、意外とやる時はやるのね。」
リリベル、今褒められても。
バォン!!
急に衝撃波に襲われる。
ジオウがいない。
このステータスの展開の中、どこへ?
「ウオアアアアアアア!!!」
上だ。
いつの間にか頭上にいる。
小さいステータスが体に刺さるのを物ともせず、ここまで飛んできたのか。
「ステータス!!」
ステータスオープンの最初の「ス」の時点で、三枚のステータス画面を展開。
バリバリバリィン!!!
「グッオオオオオオオ!!!」
三枚のステータス画面が割れる。
彼はもう一度自分の剣を振り上げ、落下しながら俺に切りかかる。
ピンチ――ではない。
少し体を引けば十字架を模したステータスポリゴンで貫くことが出来る。
でもここでジオウさんを失いたくは……
ドゴォォォ!!!
俺のいた場所の地面がえぐれる。
衝撃波は石柱のオブジェも吹き飛ばした。




