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透明娘と四天王


「もう少し先です……そう、そこです!」


「お? おお、椅子か。ここに座ればいいんだな。」


 女性の声に案内される俺。

 だが女性の姿は見えない。

 姿どころか、机も椅子も何もかも見えない。


 今日は種族:インヴィジブルの皆さんに招待され、住処にやってきた。

 なんでも、珍しくて美味しい料理を振る舞ってくれるらしい。

 インヴィジブルとは姿の見えないという意味だ。

 つまり彼女達の一族は透明人間という認識で間違いないだろう。


 最初案内されて部屋に入った時、真っ白な何もない部屋で驚いた。

 どうやらインヴィジブルの効果は周りの物にも影響を与えられるようだ。

 俺は誘導されながら手探りで椅子らしきものを発見。座ってみた。


「ではどうぞ、目の前の豪華絢爛な料理をお楽しみください!」


「うお! びっくりした横に来たのか!

……豪華絢爛って、まったく何も見えないんだけど。」


 さっきまで遠くから聞こえてきた案内の声が、急に横から聞こえて驚く。

 姿は見えないが、俺の隣1メートルくらいのところまで彼女は来たらしい。

 ってか声は女の子だが姿がわからないので性別も、人型なのかもわからない。

 目の前の見えない料理、相手の正体不明、確かに珍しさはある。


「では、私が口までお運びしますね! お口を開けてください!」


「お、おう。」


 元気な声で提案されたため、戸惑う余裕すら無く従ってしまう。

 口を大きく開けた。


「はい! あーん!」


「あむっ、もぐもぐ……え、魚!? 刺し身か!」


 口に入れられた物を恐る恐る味わってみると、とろけそうな舌触り。

 この世界で食べる謎肉の味とは違い、日本で食べた刺し身のような食感。

 しかも上司と食べに行った高い寿司屋の大トロのような味だった。


「正解です! 団長様が生の魚を食べたがっていると小耳に挟みまして!

私達の種族は山でも海でも狩りが得意なんです!

そこで新鮮な海の幸を堪能していただくため、腕によりをかけました!」


 そりゃあ姿も見えない、気配も消せるなら狩りは得意だろうな。

 この世界で火を通さない海の幸を食せるなんて思わなかった。


「これは美味しい。こんなのが目の前に沢山あるのか?」


「はい! 団長様は食事をする時、この箸を使うんですよね?

ご用意いたしました! それともフォークがいいですか?」


 手渡された細い棒、二本。ああ、確かに箸だ。

 俺が魔界の酒場でちょろっと喋った箸の話も調査していたとは。

 ってか日本人でも無いのに箸を知ってるのは謎だが。


「えーっとじゃあ……この辺かな?」


 目の前の何もない空間に、箸を下ろす。

 何かに当たったので、つまんでみる。


「んっ……」


 ん? 何か声がしたような。

 まあいい、何かをつまんだのでそのまま口に運ぶ。

 食べてみるとプリプリの食感! 貝系の何かか?

 でも味が物足りない。


「んー、これだけでも美味いと感じられるけど、やっぱ醤油がほしいな。

さっき俺に食べさせてくれた時、何か付けてなかった?」


「はい! お口に合うかわからなかったので、ソースを付けました!

こちらです!」


 フワッと茶色い水たまりが浮かぶ。

 これは透明じゃないのか。

 ソースか……と思って嗅いでみると、醤油のような匂いがした。

 なるほど、これは魚に合いそうだ。

 俺はソースの水たまりを手に受け取り――透明な皿に注がれたものだった。

 それを左手に、透明な箸を右手に、目の前の謎の料理に挑んだ。


「これは……イカっぽい。これは……お、さっきのマグロっぽいの。

こっちは……エビかな?」


 どれを食べても新鮮で美味しい。

 透明な食べ物を探索する楽しさもある。

 ここに酒がないのが残念なところだ。

 しかし透明なのも慣れてきたが、皿の形は未だにイメージできない。


「この器、なんでここだけ盛り上がってるんだ?」


 箸でツンツン器を追ってくと、一部分だけ盛り上がってる部分がある。

 山頂部に高級食材でもあるのか?


「お、これかな。……あれ? 取れない。」


「ん、んん、……痛っ……」


 聞こえた。微かに聞こえた。

 何だ今の声は。

 俺は盛り上がっている部分を凝視する。

 当たり前だが何も見えない。

 諦めて前のめりになっていた上体を起こす。



むにゅん



「きゃっ!」


「ん? ん!?」


 上体を起こした時、頭に何か柔らかいものが当たった。

 頭をさするが何もない。周りを見ても何もない。

 何だ。

 何が起こってる。


「ええっと、名前聞いてなかったな。案内の子ー! どこにいる!?」


「はい、ここにいますよ!」


 すぐ隣で声がした。

 ちょっと不安になったので肩?のあたりを触ろうと手を伸ばす。


「あ、よかったここにいたか。ねぇ、さっきから声が聞こえる気が――」


 肩をポンポンと叩けた。

 手を動かし、首と細い腕があるのも確認した。

 よかった、人間型だ。しかもか細い女の子みたいな。

 だが違和感に気がつく。

 肌の感触しかない。

 ノースリーブなのか? それとも……


「あはは、くすぐったいですよ!」


「ああ、ごめん。」


 肩から腰の方まで手を下ろした。

 ……柔肌しか感じない。

 ま、まあ背中が空いたドレスとかあるしな。

 何気に左手を見る。

 そうだ。このソースを。


「……冷たっ」


「え?」


 先程の盛り上がってる部分の山頂にかけてみた。

 ソースは山の形に沿って流れ、更に不思議な弧を描く。

 そして平らな部分に溜まり、広がっていった。

 よくよく考えると、料理の器にしては位置が高すぎる。

 まるでテーブルから人一人分の厚みがあるような。


「なあ、ちょっと聞いていいか。……この部屋に今、何人いる(・・・・)?」


「何を言ってるんですか団長様……ハァ、ハァ。

私と団長様の二人だけですよ……ハァ、ハァ。」


 声が明らかに近い。

 そして先程までの元気な声ではなく艶っぽい。


「ちょっとそれ近すぎない?」

「ハァ……ハァ……大丈夫よ見えないし……」

「んんっ……」

「わぁ、あなた大胆ね、そんなに広げて……」

「ハァ、ハァ、うっ……」


 耳を澄ます。

 いろいろなところから吐息と小声が聞こえてくる。

 そうか、そういうことね。


「そうだよね、わかったわかった。ところで、食後のデザートはあるの?」


「ええ! ありますよ! クリームたっぷりの甘いやつが!」


「それは魅力的だ。俺は甘いものも好きだからね。

好きすぎて器ごと舐めちゃうときもあるけど行儀悪いかな?」


「そんな事ないですよ! きっと喜びます! ……シェフが!

ではまずお試しに一口。舌を思いっきり出してもらえますか?」


「こう? ベー。」


「そうです。よいしょ……ハァ、ハァ、そのまま、少しずつ前に……

ハァ、ハァ、そのまま器ごとクリームを……」



バダン!!



「やめんかこの変態透明娘ども!!」


 真っ白な部屋のドアが勢いよく空き、リリベルが入ってきた。



シーーーン……



 さっきまでとは違い、一瞬で気配が消えた。

 本当に何もない部屋になったみたいだ。


「まったく、気配遮断は一丁前ね。さ、行くわよ。」


「ぐえ」


 透明な椅子に座っている俺の腹部を持ち上げ、小脇に抱える。

 そのまま真っ白な部屋から連れ去るリリベル。


「リリベル、今日は四天王の集会があるって言ってなかった?」


「そうよ。もちろんタカトも行くの。」


「なんでまた俺まで……」


 小脇に抱えられたまま、魔王城まで連行された。



◆◆◆



「時は満ちた。人間界への進行は第二段階へ移行する。」


「「「「ははーっ!!」」」」


 魔王様の声に傅く四天王の面々。

 ここは魔王城の中で唯一、魔王様が姿を現す場所。王の間。

 薄暗くて広い空間の奥にある玉座に、人型の影が揺らめいている。

 姿をはっきり見せないが、あれが魔王様だ。


「"世界樹の根"の調査は終わっている。

『王都クラウドスクレイパー』の地下にある"根"は、成長を続けていると。

絶望の七色(ディスペアレインボウ)辞世の忍(ラストニンジャ)、間違い無いか?」


 魔王様の問いにリリベルが答える。


「はい、仰る通りです。私の攻撃によって漏れた魔力値と、彼の侵入調査。

その二つで確信を得ました。」


 そうだったんだ。

 リリベルと初めて遭ったあの日、何でいきなり魔法をブッパしたのか。

 あの街の結界のようなものを削ぐ目的だったのか。


「では『王都クラウドスクレイパー』を攻め落とし魔王軍の占拠とする。

王都攻略の準備を進めるのだ。」


 世界樹の根とか言うから何かのアイテムかと思ったら、地面に埋まってるやつか。

 こっそりカンニングしよう。


「……ステータスオープン、対象:魔王城図書館の書籍群。」


世界樹マジドラシル詳細】

 この世界は一本のエネルギー間欠泉から作られた。

 吹き出すエネルギー――魔力があまりにも膨大であるため太い"樹"のように見える。

 その膨大なエネルギーは知的生命体に魔力を与えた。

 ……

 省略

 ……

 刈り取られた世界樹だが、地面に"根"が残っていると噂されていた。

 その根を掘り起こすことで世界樹が復活し、魔族の世界が再び訪れる。

 預言者はそう語った。


 なんか長かったので途中をカット。

 とりあえずモンスターの世界を取り戻すのに重要な場所なんだな。

 と、ここで珍しく竜神(ドラゴッド)さんが低い声で発言した。


「あの街は三日後に復興したと聞いた。

恐らく異世界の勇者たちが多く潜んでいることだろう。」


「へ! 心配ねーよ。群れてる勇者なんざ弱いやつばかりだ。

こっちにはアイツもいるしなー!」


「あっ、はい。」


 暗黒聖騎士(セイントネスナイト)さんの突然のフリに戸惑った。

 信頼されてるのは嬉しいが。


「皆の者、魔族の悲願である人間界奪還に向けて全身全霊を捧げよ。」


「「「「ははーっ!!」」」」


 そう言い残し、魔王様は消えていった。


「ついに人間界へ本格的に乗り出すのか! 腕がなるぜ!」


【魔王軍 四天王[暗黒聖騎士(セイントネスナイト) ジオウ]】

 レベル:92

 スキル:ダーク・カタルシス


「忍はただ、主に仕えるのみでござる。」


【魔王軍 四天王[辞世の忍(ラストニンジャ) カゲヌイ]】

 レベル:86

 スキル:陽炎


「人間界の破滅……我の出番が来たようだな。」


【魔王軍 四天王[竜神(ドラゴッド) マグレッド=エンド]】

 レベル:99

 スキル:神の宣告


「そうね……破壊より支配される人間共のほうが楽しみだわ……」


【魔王軍 四天王[絶望の七色(ディスペアレインボウ) リリベル]】

 レベル:97

 スキル:混沌属性


「うふふ、カワイイ女の子がいたら奴隷にしちゃおうかな!」


【魔王軍 四天王[精霊の母(スピリットメイク) ルナ]】

 レベル:81

 スキル:精霊八百万


 まったく噛み合わない四天王達の会話。

 やっぱりそれぞれキャラが濃い。


「そうだ、タカトくんっ、南の島に行こうよ!」


「はい!? いきなり何言ってるんですか?」


 金髪ロングのロリっ子、ルナさん。

 見た目は幼いし、衣服も淡い緑のフリフリした森ガール的な感じだ。

 しかしこう見えてあらゆる精霊を飼いならし、使役するエキスパート。

 精霊は万物に宿るので、万物を操ることの出来る実力者だ。


「王都攻略に向けて、元気をいっぱい貯めないとね!

それに人間たちの観光地もあるから潰しておいたら得じゃん!」


 相変わらず自分のやりたいことを口に出すルナさん。

 これでいいのか魔王軍四天王。


「勇者討伐団の団長、タカト。貴方にはやることがあるのではなくて?」


 リリベルがすごい目でこっちを見てくる。


「ああ、そうだった王都で俺が見てきたものをまとめなきゃ。

すみませんルナさん、南の島はまた今度……」


「ちぇー、つまんないの!」


 見事なわがわまロリっ子のセリフを残し、去っていった。

 他の四天王たちはいつの間にか王の間から消えていた。

 俺とリリベルも一度、自分たちの住処に戻った。



◆◆◆



 まとめる、とは言ったものの。

 俺が王都に降り立った場所は貧民エリア。

 あそこからでは街の全貌は確認できない。

 それでも見聞きした情報を思い出しメモする。

 近隣の魔物からチート使い勇者達の情報も集めた。


「ふぁぁ~、眠くなってきたから今日は寝るわ。」


「あら、そうなの。おやすみ。」


 俺はリリベルに就寝することを告げ、魔女の館の大広間から出る。

 館の三階に俺の部屋がある。

 魔界は昼夜問わず薄暗いので、睡眠時間は体内時計に任せる。

 それでもなるべく周りの空気に合わせる感じで一日を構成した。


「よいしょっと、ふぅ。」


 一人で入るには巨大すぎる風呂から上がり、自分の部屋のベッドに横たわる。

 涼みながら、ふとサイドテーブルの引き出しにあるノートを手にする。


「どこまで書いたっけなぁ。」


 これは「チート能力覚書ノート」、通称ネタ帳と呼んでいる。

 俺が元いた世界で見てきた漫画・ゲーム・アニメや小説に出てくる"能力"。

 何か参考にならないかと、思い出すたびにメモしていった。


「えーっと、最初はこの能力からスタートして。

ゴムゴムの最初の方の劇場版に出てきた敵、まだ思い出せないな。

あれけっこう強い能力の実を使っちゃってて、後で作者困っただろうなぁ。

とりあえず、最初のほうに書いた能力も改めて対策を追加しておかないと。」


 パラパラ―っとノートをめくる。

 ――すると。



 『 騙 さ れ る な 』



「は?」


 ノートのとあるページ、デカデカとこの五文字が書いてあった。

 何だこれは。

 なぜこんなページがある。

 俺が書いたのか?

 思い出せない。

 でも何だ、この胸騒ぎは。


「まてよ……何か引っかかる……」


 今日の出来事を思い出す。

 何か違和感があった。

 心臓の鼓動が早くなる。

 嫌な予感がする。


 そしてあることに気が付き、ガバっと勢いよく起き上がる。


「そういえば……四天王なのに(・・・・・・)五人いる(・・・・)……」

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