ステータス∞の倒し方
王の間で床を割り、威嚇してくる無限の勇者。
俺は気にせず隣りにいるリリベルを指差し、淡々と説明する。
「この魔女が君のことを調べている時、ある事実に気がついたんだ。
君が謎の病気にかかっているというね。」
「び、病気!? そんなのかかってねーよ!」
「この世界では知られていないから、気が付かないのも無理はない。
どうやら異世界の病原菌が突然変異を起こして、俺らに馴染みある病気になったみたいだ。
それは魔法でも治らないような危険な病気だよ。」
「そんな……俺元気だし……」
「じゃあよーく見てみると良い。この世界は便利なステータス画面があるだろ?
そこに答えが載っている。」
「クソッ! ステータス・オープン!!」
「……ステータスオープン。」
【[無限の勇者 ヨウタ]】
レベル:∞
HP:∞
MP:∞
……
状態異常:「梅毒」
「は? は……はは……」
ステータスを見た王は剣を落とす。
肩から力が抜け、画面をじっと見つめる。
もちろんこれは嘘。
相手のステータス画面の数ミリ上に、俺がステータス画面を展開。
相手は偽物の情報を見ている。
おそらくステータスを見ても∞しか書いていないため、普段見ていないのだろう。
些細な表示仕様の違いには気がついていないようだ。
「たぶん今まで相手した女性の中に、ウイルスを持った人がいたんじゃないかな。
それが異世界人である俺らの身体で反応して……」
「《ハイネスト・キュアディジーズ》!!」
ブゥォォォォッ!!
王の間が真っ白な光につつまれ、激しい風が吹き荒れる。
最上級の治癒魔法だが、その勢いだけで飛ばされそうだ。
「はぁ、はぁ、ステータス・オープン!!」
「……ステータスオープン。」
当たり前だが結果は変わらない。
状態異常のままだ。
「なんで……こんな……」
「治療法の確立していない江戸時代ではほぼ死亡する病気だったそうだ。
ヨウタ君! 俺は魔王軍に入って現実世界に帰る方法を見つけたんだ。
だから君を迎えに来た。一緒に帰ろう。帰って適切な治療をすれば大丈夫だよ。」
もちろん帰る方法は知らない。
しかし相手は現実世界を心底嫌がっている。
メンタルをガンガン削り、隙ができるのを待つ。
「そんな……嫌だ……もう帰りたくない……死にたくない……」
リリベルが腕を組み、こっそり人差し指を動かしている。
実は勇者に混乱魔法、狂人化魔法をかけ続けている。
それに気が付かないほど焦っている。
「家族や友達も心配してるよ! さあ帰ろう! もう時間がないんだ!
大丈夫、スキルは消えるかもしれないけど君ならやり直せる!
こんな大きなことをやり遂げた君なら!」
「無理だ……友達なんて……またあの地獄の日々が……」
「さあ! 帰ろう!!」
「嫌だあああああああああああ!!!」
ピキン! ゴゴゴゴゴ……
その瞬間。
俺達は白い光に包まれた。
いや、俺達だけではない。
この国の全域、全てが白い光に飲み込まれた。
はるか遠くからでも見える白い光の柱。
その柱が消えた時、一つの国が無くなっていた。
中心に、ただ一人の人間を残して。
◆◆◆
「うっ……ううっ……」
何もない巨大なクレーターのような場所で、一人泣く元国王ヨウタ。
そのクレーターのギリギリ端に、国王殺害計画メンバーが集まっていた。
「タカト、戻った!?」
「ぷはぁ!」
木に囲まれたプレハブ小屋。
ここが臨時の作戦本部だ。
ベッドで寝ていた俺は起き上がりすぐに状況を確認する。
「国王は? どうなった?」
「はい、四天王様と団長様の義体を国ごと吹き飛ばした後、うずくまっています!
ここからかなり距離はありますが、障害物は無いため魔法は届きます!」
彩魔術団長に作ってもらった、人間そっくりの人形。
実は先ほど無限の勇者と面会していたのは、俺とリリベルの義体だった。
俺は彼の無限の力が暴走するように仕向け、巻き込まれても良いように準備をしていた。
「わかった、ありがとう! じゃあ次は怨霊部隊お願い!」
俺が指示を出すと、元国王のそばに幽霊が現れた。
「――……王様、国王様。」
「き、君は第六夫人のエリシア!」
美しい少女の幽霊が彼に語りかける。
「国王様。私は貴方と会えてとても嬉しかった。幸せだった。
なのに……こんな終わりを迎えるなんて……」
「え……?」
元国王が周りを見渡す。
ようやく自分のしたことの大きさに気がつく。
「俺が……やったのか……」
「国王様。夫人の中で一番若い私を、いつもかわいがってくれましたよね。
……もっと生きたかった!! 私まだ死にたくなかった!!」
幽霊が泣き、そして怒る。
だがこれが幽霊の本心かは分からない。ただ操っているだけだ。
「さようなら。あなたを永遠に呪い続けるわ。」
そう言って空に消えていく幽霊。
元国王は言葉さえ出ない。
次に体格のいい男性の幽霊が現れた。
「よう、ヨウタ、久しぶりだな。」
「ディック……俺と一緒に数々の冒険をしたディックか……?」
「ああ。お前との冒険は本当楽しかった。
世間知らずのお前を何度も笑ったけど、本当頼りにしてたよ。
国王になってからはあまり会わなくなったが……この前出した手紙見たか?」
ヨウタが何かに気づいたように、目を大きくする。
「娘が生まれたんだよ!! てめぇの用意してくれた城下町の豪邸でな!!
俺はどうでもいい、娘の将来を……うっ、奪った……うぅっ……」
男性の幽霊が涙を流す。
つられてヨウタも涙を流す。
「死んでも死にきれねぇ!! 俺はお前を!! 絶ッ対に許さねぇからな!!」
彼以外にも複数の幽霊が現れる。
「王様……」「勇者様……」「ヨウタ……」「ヨウタくん……」
「「「「私たちはお前を許さない」」」」
「う……うわああああああああああ!!……」
無限の勇者、ヨウタがうずくまって動かなくなった。
よし、怨霊部隊による幽霊操作演出がうまく行ったみたいだ。
「次! 黒魔術部隊、新開発した催眠魔法をかけ続けて眠らせてくれ!
そして結界師部隊、強力な結界を限界まで重ねてくれ!」
精神が弱った状態の勇者に睡眠魔法をかける。
魔法抵抗が∞だとしても、魔法が全く効かないわけではない。
治癒魔法など一部の魔法は通っているからだ。
おそらく魔法の取捨選択は、益か無益かに依存しているのだろう。
いわゆる「バフ」と「デバフ」だ。
そこで魔法の新開発が必要になる。
これは彩魔術団長とリリベルの得意分野。
体力全回復魔法だが眠らせる、などデメリット付きバフを開発してもらった。
勇者が深く眠ってしまったところに、結界が張られる。
結界は何重にも重ねられ、光すら通さない真っ黒い箱になってしまった。
「よし土竜隊、あとはこの地を砂漠にしてくれ。ちょっと広いけど頼めるかな?」
「おまかせください! あの、国王が眠ってるところは印を付けますか?」
「いや、墓荒らしにあったら大変だ。そのために砂漠にするんだ。
情報統制して国王は行方不明になった事にするからね。」
「かしこまりました!」
こうして[無限の勇者 ヨウタ]は彼の国があった地で眠った。
睡眠魔法重ねがけで、完全に脳の動きが止まった彼が起きる事は無いだろう。
彼を信頼する仲間が起こしに来ない限り。
VS 無限の勇者 おわり
無限の能力者の倒し方:
メンタル面を責める