ブタ娘と貿易の街
レンゲを持ち、スープを少しだけすくう。
温度は低めなのでやけどすることは無さそうだ。
それを口に運んで流し込む。
「……うまい! この濃厚なコク! 絶妙な塩加減!」
「ありがとうございます。沢山飲んで下さいね。」
俺はもう一度ドラム缶風呂にレンゲを突込み、スープを飲んだ。
ドラム缶風呂に入浴しているのはオーク(♀)。
オークとは言っても醜い姿ではなく、スタイルが良く大きい鼻も愛嬌がある。
この豚人間型モンスターは特異体質で、お風呂のお湯がスープになってしまうらしい。
「いやぁ、この世界で濃厚な豚骨スープを飲めるとは思わなかったよ。
このままラーメンをつけてズルっと行きたいね。」
「らーめん……? それはわからないですけど、私のお肉ならありますよ。」
「君の肉って、それ食べたら死んじゃうだろ。」
「いえ、私の特異体質は超再生もありまして、体が欠損してもすぐ治るんです。」
「へ、へー……」
オークの娘が大きいお胸を湯船から出す。
「私全身食べられるんです。このおっぱいも肉まんみたいで美味しいって評判ですよ。
今ちぎって差し上げましょうか?」
「いや、ちょっとそういう趣味は無いかな……」
「あ、そうだった。」
彼女は近くにあったテーブルの上からお椀を取り、湯船に沈める。
そして湯船からお椀を出すと、お椀の底に数個の肉片が沈んでいた。
「これをスープに浸してたんでした。団長様、食べてみてください。」
「これって……豚足とかじゃないよな。」
「違いますよ。はい、あーん。」
レンゲを奪われ、スープと肉片を口の中に入れられる。
ん? この感触は。
コリコリとした歯ごたえ、でもしっかり煮てあって柔らかい。
スープと肉の旨味が混ざり、かなり美味い。
「コリコリ……もしかして豚舌?」
「あたりで~す。」
「舌か……このディープキスはレベル高いな。」
口の中のものを飲み込む。
食べてみたら思ったより嫌悪感は無かった。
まあ、目の前にいるのは豚だと思えば普通か。
「うん、美味しかった。もう一個ちょうだい?」
「はい、ありがとうございます。では次はこれをあんかけにしてみましょうか?」
「あんかけ? そんなものも出来るの?」
「はい。私たくさん出るタイプなので。
ただそれには準備が必要で……ちょっと手伝ってもらえますか?」
ゆっくりと風呂から立ち上がるオーク娘。
下腹部を手でおさえている。
「えぇ……いや、そっちか。そういうことね。わかった、頑張るよ。」
「本当ですか? ありがとうございます! ではそちらの調理台に……」
バダン!
「こらぁ豚娘えええ!!」
「あ、リリベル様。」
リリベルが勢い良くドアを開け、調理場に入ってきた。
「あんたなんか丸焼きで充分なのよ! さあ行きましょ、タカト。」
「え、またどっか行くの。」
ドラム缶横の椅子に座っていた俺を、軽々と小脇に抱えるリリベル。
その状態で調理場から連れ出された。
「今日は人間共の貿易拠点の街に潜入するわよ。」
「貿易拠点?」
「そう。色んなアイテムが取引されてるのよ。
面白いアイテムがあったら略奪してくるのもアリね。」
「へー、面白そうだね。」
俺を小脇に抱えられながら、魔女は自分の館に戻るためふよふよ森の上を飛んでいった。
◆◆◆
「さあいらっしゃい! どうだ安いぞ~」
「見てくださいこの輝き! これは北方の洞窟から発見された……」
人で溢れかえるメイン通り。
ここは近隣諸国の物流が交わる街・カリール。
露天商がずらっと並び、アクセサリーやよく分からない石などが売られている。
行き交う馬車を避けながら、俺とリリベルは街を見物していた。
「すごいわねー、人間がたくさん。」
「ああ、ここを攻め落とすのは大変そうだな。」
リリベルは露天の魔法石やアクセサリーを。
俺は建物の作りや路地の状況を見ていた。
品物の移動のためか木箱や樽があちこちにある。隠れるにはちょうど良さそう。
「あ、あっちの方も賑やかね。ちょっと行ってくる。」
「おう、迷子になるなよー」
「あんたあたしを何歳だと思ってるのよ。」
そう言ってリリベルは賑やかな方へ行ってしまった。
今日のリリベルは露出度が無駄に高い砂漠地帯の賞金稼ぎみたいな格好だ。
しかしこの街はいろんな人種がいて意外と目立たない。
ま、あれでも四天王だし、この前みたいなトラブルがない限りバレないだろう。
俺は人混みが苦手なので、人の少ない方へ来た。
このあたりは旅人や冒険者の男性が多い。
それもそのはず、露天には様々な武器が売られている。
剣や斧、槍に弓。バイキンが持ってそうな三叉まである。
「ああ? うちの商品にケチを付けるのか!?」
向こうで男性の声がした。
何だ、トラブルか?
「この盾は偽物です。エルフ族に伝わる伝説の盾ではありません。」
「んなわけねーだろ! 古のエルフの谷から発見した宝だ!
ちゃんと鑑定士にも見てもらったが、本物だと言っていたぞ!」
あー、そういうトラブルね。
小太りの露天商と、赤い模様が入ったローブを着た若い男性が言い争いをしている。
小太りはエルフの谷を冒険できるように見えないが。
「私はいろいろな種類の鑑定スキルを持っています。
しかしどう見てもこの盾は偽物と判断が付きました。」
「て、てめぇ! 証拠を見せてみろ!」
「良いでしょう。」
そう言うと盾を近くの街路樹に立てかける。
そして若い男性の周りに風が吹き始めた。
野次馬に紛れ、俺も見物する。
何故かこの男に興味が沸いてしまった。




