死に戻り能力者の倒し方
「ではワタクシはこれで。またお会いしましょう。」
「はい、ご協力ありがとうございました!」
思わず頭を下げてしまう。
そんな高貴な雰囲気を醸し出す姫様。
赤茶色のふわふわした髪、エメラルドグリーンとブルーのドレス。
ドレスは綺麗な貝殻のような、特殊な反射光を発している。
その姫様が俺らから離れ、この地下洞窟を去っていった。
「うっ……こ、ここはどこだ?」
「お目覚めかい、[伏線の勇者 セイヤ]君。」
戦場から拉致してきた勇者が目を覚ます。
ここは見張り砦より南西に進んだところに位置する、魔王軍東方拠点。
暗い地下洞窟の壁際に、光る水たまりがある。
その中央に石碑があり、勇者は石碑に鎖で繋がれていた。
俺とリリベルは繋がれた勇者を見つめる。
「お前ら、俺をどうするつもりだ!」
「どうするって、お前を人質にさっきの連合軍を潰すとか?」
「へっ、俺を人質? それはちょうどよかった。」
「どういう事だ。」
やはり異世界勇者は余裕そうだ。
死んでもやり直し効くもんな。
「俺の体には、ありとあらゆる探知魔法陣が埋め込まれている!
もうすぐ全軍でこの場所をぶっ潰しに来るだろうよ!」
「なに!」
その魔法陣は全部リリベルが解除しました。
そのことを知らずに勇者が話を続ける。
「へっ、残念だったなぁ、人間を裏切った異世界の勇者さん。」
「お前、なぜそれを!?」
やはり情報を掴んでいたか。
一体何周目で俺はこいつに正体を明かしたんだろう。
「何があったか知らねーけどな、魔王軍に利用されてるって分かんないのか?
どうせ人を殺したいとかサイコパスを演じたいだけなんだろ。」
「そ、そんな事……」
「お前、本当は人を殺したこと無いだろ。
現実世界でも引きこもりニートだったお前に、それが出来るか?
結局この世界に来てもクズな性格は変わらないんだよ!」
いや、普通にサラリーマンでしたけど。
何周目の俺は何を言ってたんだ。
「て、てめー。殺してやる。」
「ヘッ! 殺せるもんなら殺してみろよチキン野郎!」
これで挑発のつもりなんだろうか。
死んでリセットする気満々だな。
挑発に乗ってるつもりだが、俺の演技が下手なのかリリベルが笑いをこらえている。
おみやげの扇子で顔を隠しながら。
「ああ、殺してやるよ。《ファイア・ソード》!」
俺は魔法道具の剣を召喚。
両手で持ち、剣先を相手に向けた。
「オラ! 来いよ!」
「うおおおーー。」
ザクッ! ……ブブォォオ!!
剣先から勇者の心臓付近を一突き。
さらに傷口が激しく燃え上がる。
「うわああああああああああああ!!」
叫ぶ勇者。
毎回こんな痛みを伴うなんて、良く耐えられるな死に戻り勇者は。
俺は剣を引き抜く。
しかし傷口からあまり血は出てこない。
それほど激しい燃焼だった。
「あっ……うっ。」
勇者は全身の力が抜け、絶命してしまった。
と、思ったらすぐに目を覚ました。
「あれ、起きた。じゃあもう一回。」
ザクッ! ……ブブォォオ!!
「うわああああああああああああ!!」
さっきとは別な場所をもう一度刺す。
同じように激しく燃えたあと、剣を抜く。
「あっ……うっ。――え? 何故だ、生きてる!? 傷口が無い……」
勇者は自分の傷口を探す。
剣を抜いてしばらくすると、刺された傷はおろか周囲の火傷まで消えていた。
「おー、こんなに早く回復するんだな。」
「お……おい! 何をした! 俺の体に何をした!!」
「なあ、人魚伝説って知ってるか?」
俺の突然の問いに、少し固まる勇者。
「にんぎょ……人魚って、あの人魚か。伝説?」
「そう。半人半魚の未確認生物だね。おとぎ話で有名なやつだ。
実は日本にも伝承があって、正確には八百比丘尼伝説?って言ったかな。
人魚の血肉を食べて、不老不死になった尼さんの伝説だよ。」
「何故今それを……血肉……不老不死……まさか!」
「お、気がついたみたいだね。実はこの異世界にも人魚姫がいたんだよ。
その方にお願いして、ちょっと君に輸血をしてもらったってわけね。
おめでとう、君は新しいチートスキル『不老不死』を手に入れたよ。」
さっきまでいたお姫様。魔法で足が生えていたが、彼女が人魚姫だ。
元いた世界の様々な伝承や怪物が同時に存在するこの異世界。
伝承がこの世界でも通用するのか試してみたところ、思い通りに近い効果を得る事ができた。
実際には不死までいかず超回復不老長寿というところだが、今回はこれで充分。
「そん……な……死なない……俺の死に戻り能力が……」
「それじゃあさよなら。
誰も助けに来ないけど、その鎖が朽ちる頃には出られるんじゃない?」
そう言って俺とリリベルは出口へ向かう。
「ま、待ってくれ! 助けて、いや殺して!!」
無視して地下洞窟を出る。
「俺を殺してくれよおおおおおおお!!」
堅い扉を閉め、外側から鍵をかける。
伏線の勇者を討伐することはできなかった。
しかし彼は二度とこの洞窟から出ることは無いだろう。
この後、部屋には催眠ガスが撒かれて彼は永遠に眠ることとなる。
ちなみに見張り砦は陥落してしまった。
そこだけは伏線の勇者にしてやられたという感じだ。
彼も最期に功績を残すことが出来て喜ばしいことだろう。
しかし魔獣兵団長ゴクウの活躍で人間の即席部隊はほぼ壊滅。
守護する兵が激減した、あの街が落ちるのは時間の問題だ。
VS 伏線の勇者 おわり
死に戻り能力者の倒し方:
不死のような能力を付与する




