Re:俺から始まる砦の攻防戦
「はい、お願いします。北東地方の見張り砦です。
はい、援軍を、はい。お疲れ様です失礼します……」
先ほどの街から程近い、見張り砦の一室。
俺は魔王軍に援軍要請の連絡をしていた。
魔王軍東方拠点よりさらに北東へ進み、街から発見されない位置に建設された砦。
この砦で情報収集し、近くの街を攻め落とす作戦が進行している。
教会でやられた俺とリリベルはこの砦で待機した。
「四天王様はまだお目覚めになられないですか。」
この砦を守る諜報部隊の隊長。鳥人間の[バードマン]。
彼が心配する四天王のリリベルは、この部屋のベッドで横になっている。
あれから目覚めない。
「ああ、まさかリリベルがこうなってしまうなんて。」
「この街に異世界勇者がいたとは。全くそんな情報はありませんでした。」
それもそのはずだ。
死に戻りの能力は、何度も過去に戻ってやり直し出来る能力。
死ぬたびに情報が増え、それを武器に戦う事ができる。
しかし俺らから見た今の時点では何も持っていない人間だ。
奴は突然現れて、まるで未来予知しているかのように先手を打たれる。
今はどの世界線だ。何周目だ。
これが三周目くらいならマシだ。過去に戻るため勝手に死ぬ。
しかし何十周もしているとしたらどうだろう。
全ての行動が読まれ、奴が勝つ結果に収束してしまう。
情報を武器に戦う俺にとっては天敵だ。
「た、隊長! 報告です!
人間どもは皆『土属性』魔法を使ってきます!
我らバードマンの『風属性』魔法では太刀打ちできません!」
バードマンの兵隊が部屋に報告に来た。
今現在、この砦は人間たちに攻められている。
恐らく俺が逃げた時に後を追ったんだろう。
「ならば肉弾戦しか無いだろう。相手の戦力は?」
「それが……何故か近隣国の親衛部隊や聖騎士、熟練の老戦士まで揃っています!
まるでこの砦を落とすために結成された部隊のようです!」
「まさか……この砦は偵察用、事前に人間共に察知されているなどありえない。」
やはり準備していたか。
異世界勇者の仕業だ。
集めた情報を武器に各戦力部隊へ交渉。
この地方から魔王軍を排除する即席討伐隊を結成したってとこだろう。
「くそ、俺のせいで……」
「どのみち人間はブッ潰さなきゃダメなんだろ?」
え? 窓の外から声がした。
見ると、そこには黄色い雲の上に立った猿人がいた。
「助けに来たぜ、タカト。」
「ご、ゴクウーーー!」
【魔王軍 魔獣兵団 新団長[猿王 ゴクウ]】
レベル:78
スキル:西遊忌
赤茶色の体毛、中華風の防具に身を包んだ猿人が窓から入ってくる。
耳からあの赤い棒を取り出し、床に突き立てた。
「ま、まさか魔獣兵団の新団長様に来て頂けるとは!」
バードマン隊長も驚いている。
「東方拠点からここは遠いからよ、団員置いてオレ一人でかっ飛ばして来たぜ。
ガイアーさんの仇を取ってくれたタカトの為にな。」
「ゴクウさ、ありがとう!」
モンスター達は魔界からどこでも現れる事が出来るわけではない。
基本的にはワープホールを使って人間界へ降り立つ。
そのワープホールは移動が難しく、各拠点設置や巨大モンスターに運んでもらうしかない。
どこでもワープできるのは魔界でもリリベルくらいだ。
「しかし魔獣兵団長様でも、この量の人間相手じゃ……」
ゴクウがフッと手に息を吹きかける。
するとゴクウの分身が大勢現れた。
そうかその手があったか。
「これでどうだ?」
「さ、さすがです!」
ゴクウ部隊とバードマン隊長は戦いに向かう。
その前に、この砦で見晴らしのいい場所を教えてもらった。
俺は目を覚まさないリリベルを置いてそこへ向かった。
砦の屋上より少し下、見張り台のような場所へ着く。
人間に見つからないよう、身を低くして様子を伺う。
「どこだ……絶対いるはず。」
俺は異世界勇者を探す。
同じ隊服を着ている人たち……親衛部隊か。
輝く鎧を身にまとう……あの一人で無双してるのが聖騎士かな。
奥のほうに幌馬車と、呪文を唱えている人間魔術師がいる。
「ん、あいつかな?」
馬車の近くで指示を出している男の子がいる。
あのどっかの学校指定みたいなジャージ、間違いなく異世界転生勇者だ。
見つけた。ステータスを確認して打開策を練ろう。
【[伏線の勇者 セイヤ]】
スキル:死に戻り
詳細:死んでしまった時、過去に戻ってやり直すことが出来る。
セーブポイントは好きに設定でき、死んだ時に戻り先を指定する。
「うわ、セーブポイントすらいじれるのか、厄介だな。」
「タカト!」
リリベルだ。
後ろのドアから現れ、俺に抱きつく。
「ごめんね、タカト。心配かけて。」
「もう大丈夫なのか? 今回ばかりは危なそうに見えたけど。」
「うん。危うく混沌の魔力が爆発するところだったよ。」
爆発!?
何だこの危険物は。
でも無事目が冷めて良かった。
早速リリベルが俺に尋ねる。
「それで、状況は。」
「あんまし良くない。アイツ、あの男が異世界転生勇者。
ちょっとした未来が分かる男で、迂闊に近づいたら罠に掛かりそうなんだ。」
「そうなの、あいつか。」
拳を握りしめるリリベル。
今にも突撃しそうなので話を続ける。
「そうそう、魔界にさあ、こんなモンスターっている?」
俺はリリベルにモンスターの特徴を説明した。
「ええ、いるわよ。でもここ見張り砦に呼ぶには時間がかかるかも。
私が一回魔界まで戻ってから、探して連れてくるって方法しか……」
「そうか。じゃあ奴に来てもらおう。」
俺は異世界勇者を指差す。
「ささっと拉致出来る?」
「ええ、もちろん。それくらいの魔力は残ってるわ。
……そのとき手足ちぎっていい?」
「だめだめショックで死んじゃう! 死んだらアウトなんだから。
虫じゃねーんだからスマートに拉致って下さい。」
「はーい。」
不服そうな顔をしながら、リリベルが宙に浮かぶ。
そして砦防衛戦の真っ只中へ魔法を爆撃しながら突っ込んでいった。
スマートに拉致れって言ったのに。
魔力も切れてるんじゃなかったのか。
よほど八つ当たりしたかったんだろう。




