牛娘と修道女アイドル
「モー、そんなに焦らなくてもたくさんあるわよ~。」
「だってめっちゃ濃厚で美味いよこれ。」
ソファーに座る牛人間モンスター、ミノタウロス(♀)。
今日は美味しいミルクをご馳走してくれるとの事だった。
俺は抱きつき、ミルクの出るところから直接摂取。
産地直飲を堪能する。
「その体勢、辛くな~い?」
「うん、大丈夫。」
「そうだ、ちょっとした技を見せてあげるわ~。」
赤ちゃんのような体勢で直飲みしている俺。
飲んでない方の乳を触ってみると、パンパンに張っている。
固くて揉みにくいのが残念。
気がつくとミノタウロスが、何か食べている。
「モグモグ……これでど~お?」
「どおって、んー、何が?
……え! 味変わった! これは……いちごオーレ!」
「正解~。わたしね、食べたものがすぐ反映されるのよ~。」
どんな原理だ!
よくかわからんが濃厚なミルクとしっかりした苺の味。
牛乳パックで量産され、店で売られているような科学調味料の味ではない。
甘みと酸味がバランス良く調合されている。
味を堪能していると、彼女の口からボリボリと音が聞こえてくる。
「飲み込み辛い……ごっくん、これはど~お?」
「バリボリってすごい音してたけど何食べたの。
……コーヒー牛乳! まさかコーヒー豆を直接食べたのか、野性的だな!」
「団長様のためだもの~。」
今度はコーヒーのいい香り。
コーヒー牛乳のような味ではなく、高級なカフェオレみたいだ。
お子様からお年寄りまで大人気間違いなし。
「んん、モー……団長様、あっ……んっ吸うならちゃんと吸ってくださいよ~。
舌で転がし……ひゃっ、そっちは指で弄らないで~。」
「ごめんごめん、お腹いっぱいになってきたからつい。」
「モー、じゃあ今度は私が吸う番ですね~。」
「吸う? ああ、いいよ。じゃあこの体勢のまま俺のミル……」
「こらあああ!! 牛娘えええ!!!」
バタン!
「あ~、リリベル様~。」
部屋のドアを開けて、リリベルが勢い良く入ってきた。
「おお、どうしたリリベル。」
「どうしたじゃないわよ! お腹がいっぱいならもう良いでしょう撤収!」
ソファーに横たわっていた俺を無理やり離す。
そして軽々と小脇に抱えられて部屋から連れ出された。
「今日は俺どこに連れて行かれるの? あとこの運ばれ方だと逆流しそうだけど。」
「飲み過ぎなのよ! 今日はこれ、このチケット見て。」
そう行って見せられたチケットにはこんな事が記載されていた。
『妹みたいにカワイイ! 新感覚血まみれ修道女アイドルユニット!
BSS(ブラッディー・シスター・シスターズ) スペシャルライブ!』
「えっと……アイドル?」
「そうアイドル! このゾンビシスター達のライブを見に行きましょうよ!」
ライブ……今って人間界との戦争中だよな。
そんなことしてて良いのだろうか。
良くわからないがある意味見てみたい気持ちはある。
何故か行く気満々のリリベルに抱えられ、ふよふよと空を飛びながら会場へ向かった。
◆◆◆
「みんな~ 今日は来てくれてありがとう~」
返り血を浴びたような修道服を着て、女の子達がステージ上で踊る。
後ろの四人はコーラスのような形で、主にセンターの子が歌っていた。
喉がつぶれてもアンデッドだから関係ありませんと言わんばかりの声量。
見た目のパンクさも相まってか、かなり完成度が高く感じられた。
「リリベルは好きなの? こういうの。」
「うーん、まあね。」
数百人が収容できるライブハウスの、ちょっと高台の席に座る俺ら。
VIP席みたいだ。
さすが四天王、こんな席を取れるなんて。
会場は最後まで熱狂的なモンスター達の声援であふれ、大盛況の後に終わった。
ライブ終了後の関係者控え室に向かう俺ら。
まさかアイドル達ともパイプを持ってるのか?
「あ! プロデューサーさ~ん。」
「え!?」
控え室に入った途端、リリベルがそう呼ばれる。
むしろ仕掛け人側か!
「ああ、みんなご苦労だった。なかなかの出来だったぞ。」
リリベルが偉そうに答える。
五人組の修道娘たちが集まり、リリベルにいろいろと報告を始めた。
俺のほうにはカタツムリみたいな貝を背負ったモンスターが近づく。
「これは団長様。わざわざ見に来てくださりありがとうございます。」
意外と低い、いい声だった。
「私どもBSS陣営はリリベル様が発足したプロジェクトです。
大魔法使いにも関わらず、最近のトレンドにもお詳しいので恐れ入ります。」
「ああ、なんか自由に生きてますよね。」
モンスター界にもアイドルのトレンドとかあるのか。
「いえいえ、現在人間界との戦争真っ只中ではあります。
しかしその中でも我々魔族に娯楽を与えてくださり、とても感謝しているのです。」
「そ、そうなんだ。がんばってくださいね、応援しています。」
俺はその後BSSのメンバーにも挨拶した。
最後にメンバー達に激励の言葉を送り、俺達は控え室を後にした。
「どう? びっくりした? すごいでしょ~」
「ああ、なんかすごいな、お前の頭が。」
「まあね! 伊達に何年も生きてないからね!」
褒めてるわけじゃないんだけど。
「でもまだまだプロジェクトは発展途上なんだよ!
これからもっとメンバーを増やしたいのよね。あと40人くらい。」
「何だそれ。総選挙でもする気か。」
「そうだ! ちょっとスカウトに行きましょうよ! いいところがあるのよ。」
「え、スカウト?」
リリベルは俺の手を引き、走り出した。
「さ、飛ぶわよ~、ワープ!」
「ちょ、ちょっと!」
目の前にワープゲートが展開され、連れ出されてしまった。




