即死能力者の倒し方
「よし、来たな予告状。」
『今夜9時 海底洞窟のダンジョンで守られている
《水神の指輪》を頂きに参上する 怪盗の勇者・カイト』
待ってたぞ。
このために宝物庫から《水神の指輪》を持ち出し、海底洞窟に置いておいた。
さあ、準備は出来ている。
いつでも来い。
俺達はまた海底洞窟ダンジョンの隠し部屋で待機した。
今回のダンジョンは地下二十階まである縦に長いダンジョン。
それをうまく活用したい。
『来ました! 怪盗の勇者です!』
「現れたなカイトめぇ~!」
捕獲用の秘密兵器を用意した警部の気持ちがわかった。
こんなにドキドキするものなんだ。
『うわああ! 退け、退けェ! 団長様、奴は魔道具に乗っています!』
送られてくる映像を見る。
勇者はサーフボードのような板に乗り、空中をスイスイ移動している。
今回は縦に長いため、移動手段を用意してきたか。
まあ良い。
まずは最下層、ボスの間まで普通に来てもらう。
それからが勝負だ。
『あ! ボス! 勇者に立ち向かうんですか!?』
あれ。ボスの間にカニ男モンスターがいる。
あいつ戦う気か。
『ここは俺のダンジョンだカニ! 好き勝手させないカニ!
勇者よ、良く来たカニね! 俺がダンジョンのボス、堅殻のブクブクブク……』
勇者がボスと対峙した瞬間、泡を吹いて即死した。
無茶しやがって。
『やあ、見てるんでしょ魔王軍。こんなあっさり持っていっていいのかい?
もう少し骨のあるダンジョンにしてくれないと、退屈だよ。』
宝箱から《水神の指輪》を取り出した勇者。
天井に向かって喋っている。
俺らが監視しているというのに気がついているみたいだ。
だったら。
「じゃあ声を届けてくれ、[ホルンシェル]。」
楽器のような形の貝モンスターに話しかける。
『ああ、聴こえてるぞ、[レベルの勇者 カイト]君。』
「……へぇ、良く調べてるじゃない。って事は僕の能力も知ってるんでしょ?」
『まあね。悩まされたよ、君の能力には。』
「そのはずだよ。僕の能力はレベルを殺す能力だ。
この世の全ての事象には"度合い"が存在する。それを消滅出来る僕は無敵って事だね。」
『つまらない言葉遊びだよ。まぁ、でもこれならどうだ?』
ボスの間のドアというドアが開く。
この部屋には全方位に大量のドアが設置されている。
「何をしても無駄さ。この僕に降りかかる災厄の度合いをゼロにする。
毒ガスを巻かれたとしても致死レベルまで達する前に"殺す"。……って。」
「ぷがー!」「ぷがー!」「ぷがー!」「ぷがー!」
「ぷがー!」「ぷがー!」「ぷがー!」「ぷがー!」
開いたドアから大量のモンスター[ブタマン]が押し寄せる。
瞬く間に床を埋め尽くし、勇者を襲う。
「雑魚モンスターで何がしたいのかな?」
勇者が手を払う。
「ぷがー…」「ぷがー…」「ぷがー…」「ぷがー…」
大量に即死する[ブタマン]たち。
死体はスタッフが後で美味しくいただきます。
「こんなもの足止めにもならないよ。近づくだけで発動するからね。」
ピロリロリーピロリロリロリーピロピロ……
「ん? なんだい、この音は……」
『これは[ブタマン]たちがレベルアップする音だ。
彼ら一匹一匹に魔道具《学習装置》を持たせた。歩くたびにレベルが上がっていく。』
彩魔術団長がマジでやってくれた。
数万匹に増殖させたモンスター、すべてに魔道具のレプリカを持たせる。
機能限定版とは言え、この短納期で実現できたのは本当感謝する。
「だから何だって言うんだ。上がったレベルも1の倍数、全員即死だよ。」
『ふーん、でも即死のタイミングが少し遅れてるようだけど?』
「そんな訳……死ね! 死ね! 道を開けろ! ああもう数が多すぎる!」
勇者が手を横に振るたびモンスターが死んでいく。
しかしその数は十数匹に留まり、次から次へとモンスターに道を塞がれてしまう。
能力の処理落ち。
正直、どれくらい遅延するか賭けではある。
「レベル1デス」には認証のプロセスがあることは間違いなかった。
その場合レベルが上がると処理が一瞬遅れる。
0.1秒でも遅延があればいいと読んだが、少しでも効果はあったようだ。
レベルの勇者はサーフボードに乗り、強行突破を決行した。
しかし殺しきれなかった[ブタマン]の体当たり。
ダメージはほぼ無いがバランスを崩してしまう。
サーフボードは吹っ飛び、壊れてしまった。
「はぁ、はぁ、はぁ、くそっ、はぁ……ん? なんだ!?」
『お。違和感に気がついたかな。
ここは海底洞窟だ。酸素が薄いから呼吸しづらいだろ。』
「知ってるよそれくらい! だが俺には関係無い! 危険レベルを"殺した"からな!」
俺とか言い始めて、口調が変わってきた。
余裕が無くなって仮面が剥がれてきたかな。
『そうだけど今変化した。[コゲブタマン]がスキルで酸素を燃焼し続けているんだよ。
早く見つけて倒さないと、どんどん空気中の酸素レベルが落ちてくよー?』
「クッソ! えっと、探索難易度をぶち壊す!! 俺の前に出てこい!」
「ぷがー…」「ぷがー…」「ぷがー…」「ぷがー…」
焦げたブタマンたちが勇者の前に現れる。
そして即死してしまった。
これはスタッフは美味しくいただけません。
『あ、忘れてた。[水ブタマン]って奴も空気中の酸素と水素を結合してるんだった。
ちなみに水ブタマンの皮はワンタンで出来ててね、プルッと……』
「くそがあああ! 探索……いや! この空間、空気だ!
この酸素濃度による致死レベルを教えてくれええええ!!」
【致死レベル】
直ちに健康に影響を及ぼすレベルではない。
「……はああああ!?」
『でも急いだほうがいいんじゃないかな。ここ地下二十階だし。
それともレベルを殺して"直ちに影響を及ぼすレベル"にしても良いんだよ?』
言葉遊びだ。
この致死レベルを維持することで「レベルを消し(殺し)たら影響が出る」ようにする。
レベルを増やす(生かす)ことが出来ないのがこの能力の弱点だ。
「う……うわあああああ!!」
やけくそでモンスターの群れに突っ込む勇者だった。
結局激しい運動も兼ねたので、地下三階までたどり着いたところで息絶えてしまった。
彼の即死効果は、使いようによっては人助けも出来たはずだ。
大災害が起こったとしても、厄災レベルを消すことで多くの人が救われる。
これは自分の災厄しか守らなかった罰だよ。
こうしてまた、異世界能力者の討伐は達成された。
VS レベルの勇者 おわり
即死能力者の倒し方:
雑魚敵で遅延してじわじわ殺す




