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能力の拡大解釈


「はあ、一機死んだじゃない、もう!」


 ダンジョンの医務室で黄緑色のキノコを食べるリリベル。

 不味そう。


「不死身かお前は。」


「不死身じゃ無いわよ。えっと、これであと何回死ねるんだっけな。」


 急に横スクロールアクション要素をいれるのはやめろ。

 実際、即死系魔法に対抗するための疑似アンデッド化のようなものらしい。

 代償としてしばらく魔法は使えないとか。


「団長様、四天王様! よろしいですか!」


「良いぞ」


 ベッドの上でビシっと構えるリリベル。


「失礼します! 団長様、今度はこんなものが……」


『明後日の夜9時 泡のダンジョンで守られている

《スタースケイル》を頂きに参上する 怪盗の勇者・カイト』


「ぐぬぬぬ! 許さんぞカイトめぇぇ!!」


 警部的なICPOの気持ちが痛いほどわかった。

 今度から素直に怪盗モノを見れないかもしれない。


「よし、今すぐ作戦会議だ! 泡のダンジョンに向かう!」


「はい!」



◆◆◆



 二日後。

 ここは霧のダンジョンからそう離れていない、泡のダンジョン。

 ダンジョンの要所要所に泡が配置され、滑りやすくなっているのが特徴だ。


 だがこんなもんでは満足しない。

 いつもより多めの泡を配置。

 もうツルッツルに滑り、すぐ落とし穴やギロチンに引っかかるようにした。


「これで大丈夫なはずだ。」


「うん。今回は完璧だね。」


 俺とリリベルはまた隠し部屋で監視。

 モンスターが相手ではない場合、即死能力は意味をなさないだろう。

 勇者の登場を待っていると、現場のモンスターから通信が入る。


『き、来ましたああ! 怪盗の勇者です!!』


 何が怪盗の勇者だ。クソチート勇者のくせに。

 だが今回は準備期間を設けられた。

 モンスターは殺されるから避難させ、とにかく罠を用意。

 一日でダンジョンを作り上げる男たちがいるんだ、二日もあれば余裕だ。


「どうだ? 様子は。また姿を消したか?」


『それが……普通に正面突破です! 泡を気にせず歩いています!!』


 え? 歩いてる!?

 何だそれは。

 怪盗っぽさはどこに行った。

 それともマジシャン気取りか?


「映像を繋げ! [擬態ヤドカリ]に追わせろ!」


『了解しました!』


 映像が来た。

 確かに、滑りやすい地面を平気で歩いている。

 対策をしてきたのか?

 いや、しかしここからだ。


「ここで上から岩が落ちて来る!……外れた。

ここは大量のボウガンで狙い撃ち!……全部外れた!?

ここは振り子になってる斧を避けながら進む、一歩間違ったら……紐が切れた。」


 なぜだ。

 全てのトラップがうまく機能しない。

 即死するためモンスターで足止めも出来ない。

 このままではボスの部屋にたどり着いてしまう。


「毒ガスは!?」


『撒いています! しかし今日に限って隙間風が激しく意味を成しません!』


「タカト、どういうことなの!?」


 くそ、何なんだ。

 何が起きているか理解が出来ない。

 ヤツのステータスには、レベルを持つ物は即死させるって……


「物!? まさか、ステータス・オープン!」


【スキル:レベル1デス詳細】

 あらゆるものの「危険レベル」を測定出来る。

 レベルを持つ"物"や"事象"は全て即死(崩壊)出来る。


「くそっ! やられた!!」


「え? え? どうしたのタカト。」


 わかった。

 このダンジョンの「攻略レベル」をブチ壊された。

 歩くだけで攻略出来るレベルまで。


『団長! ボスが殺られてしまいました!

これはもう、最終手段の水攻めに切り替えてよろしいですか!?』


「ああ……頼む……」


「了解しました! 団長様たちも早くお逃げ……え!?

海底洞窟が出現した!? そこに水が流れ込んで、ええ!?」


 駄目だ。

 何もかも壊される。

 あまりにも影響範囲の広すぎる能力。

 これがチートだ。


 その後、俺達は何もせず怪盗を見送ることしか出来なかった。



◆◆◆



 後日、魔女の館。

 俺が居候してる場所だ。


「はぁ……くそー。」


 ベッドの上で横になる俺。

 奴を倒す案が何も思い浮かばない。


「もー、失敗は誰にでもあるってば。

失敗した貴様はもう役立たずだーって殺すような幹部もいないしね。」


 リリベルが雑に俺に抱きつく。

 一応慰めてくれてるようだ。


「だけど勇者討伐団を名乗っておきながら、何の成果も得られないなんて。

軍師団とかの名前にしなかったのはそこなんだよな。所詮頭が良いわけじゃないから。」


「でも私達の世界の住人よりいろんなこと知ってるじゃない。

しすてむーとか、ちーとーとか、色んな言葉使うし。」


「でもなぁ、今回ばかりは……」


「そうだ、機械騎団の団長にマシーンを作ってもらえば?

レベルが不明! みたいなモンスターとして。」


「そうか、レベルが! ……いや、レベルχだからχ÷1=χだ。

1の倍数として扱われるに違いないよ。」


「?? わかんないけどダメかー。」


 こんなの言葉遊びだ。

 チートスキルってのは拡大解釈する事でどうにでもなってしまう。

 いったい、こんなのどうやって倒せば。


「じゃあ、彩魔術団の本部に行っていい魔術が無いか聞いてこようよ!」


「そうか……そうだね。」


 もしかしたら、異世界人である俺の理解を超えた魔法があるかもしれない。

 そういう情報を集めて突破口にしていくしかない。



◆◆◆



「キミ、この薬飲んでみない?」


 いきなり謎の丸薬を勧められる。

 飲めるかそんなの。


【魔王軍 彩魔術団 団長[彩魔術師 シロ]】

 レベル:55

 スキル:極彩魔法陣


 雨合羽を着た子供のような姿。

 顔は真っ黒で目だけ光っている。

 彼はこう見えて黒・白・赤などの色魔術を新規開発する研究者だ。


「なんだ、薬の臨床試験を受けに来てくれたんじゃないのか。」


「私のタカトを実験材料にしないで頂けるかしら、シロ。」


 リリベルはこのシロ団長と仲がいい。

 魔術開発者と魔女は相性が良いんだろうか。


「シロさん、御存知の通り俺らは今、即死の勇者対策が出来る魔術を探してるんだ。

何かいい魔術は無いかな。」


「魔術ねー、最近は魔法薬の研究ばっかりやってるからなー。

アンデッド化魔術でソンビ軍団に襲わせるのは? もう死んでるから即死しないよ。」


「もう幽霊海賊をけしかけたよ。"死"と言っても戦闘不能的な死も含まれてて……」


「ぷがー!」


 いきなりモンスターの鳴き声が聞こえた。

 物陰から小さいモンスターが顔を出した。

 顔を出したって言うか一頭身だけど。


「ん? シロ、なぜ研究室にこのモンスターがいるのだ。」


 リリベルが近づいて確認する。

 こいつは……


【[ブタマン]】

 レベル:1

 スキル:無し

 詳細:美味しそう!


「ああ、レベル1の雑魚モンスターだから、実験材料になって貰ってたんだ。

増殖させたり、合体してキングサイズになってもらったり。」


 同じ魔族なのに雑魚とか言うなよ。

 まあ魔王軍の研究者だしマッドサイエンティスト感があっていいけどね。

 しかし巨大な肉まんにブタの顔が付いてるこのモンスター、増殖させて食べるのか?


「ん? 増殖……レベル1……」


「どうしたタカト、何か思いついたのか?」


「あーちょっとまって! もう少しで思いつきそう!」


「あ、ごめんなさい……」


 何かが頭をよぎった。

 レベルχ……危険レベル……災害レベル……あ!


「よし! いいこと思いついた! 協力してくれ彩魔術師!」


「え? うん、ボクで良ければ。」


 こうして作戦を練り、次の予告状を待った。

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