ステータスが文字化けしてるんだけど
「ステータス・オープン。」
――表示されたそれを見て、俺は固まった。
【[ソタコ遙。・ソ・ォ・ネ]】
・??ル・??ァ1
HP。ァ侊
MP。ァく
・ケ・ュ・??ァフオ、キ
「は?」
文字化けしている。
意味が分からない。
ここは剣と魔法の異世界で。
転生させてくれた女神様の前では、正常に表示されていたはず。
なのに、唯一使えるはずの魔法が――バグっている。
「いやいやいや、待てって……」
手が震える。
何も持っていない。
ここが何処だかわからない。
一体なぜ、こんなことに――――
◆◆◆◆◆
「待てコラァ!!」
怒号が背後から飛ぶ。
「だから人違いですって!!」
全力で走る、終電間際の駅構内。
連日の残業から来る疲労でガクガクの足を、無理やり動かす。
発端は最悪だった。
満員電車。
知らない女が叫ぶ。
「いい加減キモいんだけど!! 痴漢やめろや!!」
痴漢されたのはご愁傷様だけど、近距離で叫ばないで欲しいなぁ。
――腕を掴まれたのは、俺だった。
「いや俺かい!!」
状況を理解するより早く、強い力で引きずり出される。
気づけばツレのヤンキー男に凄まれ、駅員がこっちに走ってきていた。
ん? まてよ?
このあと拘束されて説明して……
――――あとで考えると、残業続きで頭がおかしかったんだと思う。
ネットではこういう時、逃げたほうがいいという書き込みを見たことがあった。
めんどい。眠い。いやだ。逃げたい……逃げよう!
そう思った瞬間、身体が動いていた。
階段へ。1階の改札へ。とにかく遠くへ。
「待てやゴラァ!!」
「だから違いま……!」
足がもつれる。
視界が揺れる。
階段の一番上で、バランスを崩した。
――あ、これ死んだわ。
ゴキッ
◆◆◆
「気が付きましたか?」
目を開けると、そこは真っ暗な空間だった。
スポットライトのように、自分だけが照らされている。
そして目の前には――
女神みたいな女性がいた。
「あなたは死にました。」
「でしょうねぇ。」
即答した。
あのダサい逃走も、直後の事もはっきり覚えてる。
そして目の前の状況。
死後の世界的なところだという事に、疑う余地はない。
「そうですね、死後の世界という意味では合っています。」
「……読みますねぇ、私の心の声を。
あーそうかー。俺の人生、底辺システムエンジニアのまま終了かー!」
俺は天を仰ぐ。
「ですが、あなたには選択肢があります。」
「……異世界転生、とか?」
「はい。勇者として。」
来た。
テンプレ。完全にテンプレだ!
「容姿このままで?
アラサーでも勇者になれるんですか!?
あと、いい感じの能力も貰える感じで?」
「はい。容姿は変更出来ませんが、好きな能力を一つ選べます。」
きたーーーー!!
これはあれか? チート能力の付与か!?
どうしよう。
無限に剣を出せる能力、時を止める能力……戦闘系は痛そうだな。
いっそ「女神様、貴女と冒険したい」と言って……それはマズイ気がする。
あ、そうだ。
「ステータス・オープン!」
ちょっと恥ずかしかったが、やはりこの世界観か。
ダメ元で情報表示魔法を発動してみたら出来ちゃった。
目の前に、タブレットサイズの黒い板が出現する。
そこに表示されたのは――
【[神崎 タカト]】
レベル:1
HP:34
MP:10
スキル:無し
「えーっと、レベル1スタートはしょうがないとして。MP10か、少ないなぁ。」
自分の初期ステータスを見て、どんなチートを貰おうか考えていた。
――――その時だった。
ドドォン……
「……は?」
遠くで、何かが壊れる音がした。
「今のは……?」
女神様も不安げな様子で辺りを見渡す。
しかし周りは真っ暗。何もない。
段々と音が大きくなっていく。
そして。
バキィッ!!
空間に、ヒビが入った。
「ちょっと待て、何これ!?」
「これは……」
ゴゴゴゴゴ……
地響きが止まらない。
女神様は斜め上に手を掲げた。
すると上の方に巨大なスクリーンが展開された。
そこには映画のように、どこかの教会のような場所が映される。
『アイラ教を潰せ!』『アイラ教を倒せ!』
『あの悪魔・アイラ教の信者を根絶やしにせよ!!』
耳を疑った。
映像を見ると、教徒が殺され、教会が破壊されているところだった。
その悲惨な光景に、ただただ絶句してしまう。
『この邪神が悪いんだ!!』
『こいつが送り込む異世界人のせいで、俺達は生活を壊された!』
『アイラ教、滅ぶべし!!』
口々に屈強な男たちが叫ぶ。
それを見る女神様は……これ以上無いくらい絶望的な顔をしている。
「どうして……私は魔王に苦しめられる人々を助けようと……
何でこんなことに……」
よく見ると、体が薄れていっている気がした。
「ちょっと! 女神様、体が!」
「ごめんなさい、私への信仰心が無くなり、私の存在が消えようとしています……」
「そんな……こんな事って……あいつら人の気も知らないで!!」
「いえ、実は……確かに私が送り込んだ異世界勇者たちは……魔王退治に非協力的でした。
私が甘かったみたい、デス……」
女神様がますます消えていく。
「最後ニ、あなたを異世界へおくりまス、この空間にイテハ永遠に出られナクナル……」
「え、永遠に!? 女神様はどうなるの!? だったら一緒に――」
最後に彼女は、満面の笑みを浮かべた。
「心配してくれてあリガとウ。そしてサヨウナ」
目の前が、真っ暗になった。
◆◆◆
「うわ臭ぇ! ……オラ飯だ、さっさと食え!」
「あ……あ……」
鼻をしかめながら、看守がお椀を差し出す。
鉄格子ごしにそれを受け取る。
「ったく汚ねぇな。だからこの房は嫌だって言ったのに。」
ブツブツ言いながら看守が去っていく。
よくわからない不味いスープをたいらげ、藁でできた寝床に横になる。
――――女神と別れた後。
俺はこの街……王都「クラウドスクレイパー」とやらに転送された。
剣もない。仲間もいない。
挙げ句の果てに、不審者扱いされ投獄。
何なの俺の人生。
「ああ……ステータス・オープン……」
【[ソタコ遙。・ソ・ォ・ネ]】
・??ル・??ァ1
HP。ァ侊
MP。ァく
・ケ・ュ・??ァフオ、キ
文字化けしてる。
ステータス表示魔法は使えるようだが、何のステータスも得られない。
どうして俺はこう、何もかもポンコツなんだ。
……それでも。
クルクルクル
ステータスウィンドウを回せるのは、異世界を感じられて心が落ち着く。
どうやらこの画面、俺が思考したとおりに空中で動かせるようだ。
寝るでもなく、何をするわけでもなく、ぼーっとウィンドウを眺める。
「……あん?」
あれ?
よく考えると。
何だよ「文字化け」って。
パソコンじゃねーんだから。
ここは異世界だぞ……
「ソタコ……ソォネ?」
これ、カタカナじゃん。
日本語に見えるし、「HP」なんてまんまアルファベットだ。
この世界の文字は全く読めない。ミミズが這ったような文字だ。
それなのにこのステータスは「現実世界のデジタル機器の文字化け」みたいに感じる。
もしかして……
「……よし!」
やる気が出た。勢い良く起き上がる。
文字化けなんて、何度も見てきた。
原因は単純。
文字コードだ。
ゆっくりと息を吸い、画面を見据える。
「文字コード変換。」
――反応なし。
「……まあそうだよな。」
そんな雑な命令で動くほど甘くない。
少し考える。
「ステータス・オープン、Unicode変換。」
無反応。
「Shift-JIS」
無反応。
「UTF-8」
無反応。
やっぱりダメか?
いや、ある。
この手のやつには大体ある、最終手段。
「ステータス・オープン――」
一呼吸置く。
「文字コード自動判別。」
――ピカっと。
画面が一瞬だけ光った。
「……来たか?」
【[神崎 タカト]】
レベル:1
HP:34
MP:10
スキル:無し
「で……出来たああああ!!」
ザクッ
「痛ったああああ!!」
出来た。出来たが。
喜びのあまりステータス画面を掴んだら、画面のフチで右手を切った。
ヤバイ、血が沢山出てくる。
「うわ、止血! 布、布? これしかないか!」
「うるせぇぞ囚人!! 刑期を伸ばされてーのか!!」
「す、すみません!」
俺はビクビクしながら囚人服の裾をステータスウィンドウで切る。
右手にうまく巻きつけ、止血をした。
いや、まてまて。
ウィンドウで切るって。
危ないな俺のステータス画面。
下手すりゃ大怪我だ……って……
【[看守 ダブロ]】
レベル:41
HP:297
MP:35
趣味:囚人いびり
「は? はぁ!?」
これは……あの看守のデータ?
いつの間に表示されたんだ。
もしかしてこのステータスウィンドウ。
様々なデータを表示できる、素晴らしいチートなんじゃないか?
もう少し詳細が出ないだろうか。
「ステータス・オープン!」
【[神崎 タカト]】
スキル:無し
詳細:異世界転生者だが、女神から能力を貰えなかった珍しい勇者。
「貰えてないのかよ!」
【★エラー★】
プロファイルが壊れています。もう一度女神世界で展開してください。
このまま利用すると、この世界の常識が適用されない恐れがあります。
「バ……バグってるうう!?」
◆◆◆
それから数日間、試行錯誤をしていた。
複数枚出したり、大きさを変えたり。
バグったステータスウィンドウの事もだいたい分かってきた。
だが、実際に脱獄となると難しい。
行く当ては?
この世界の常識も知らずに?
結局、何も変えることは出来なかった。
そんなある日。
「ん? 地震?」
起き上がり、小窓を覗く。
刑務所の外は草原が広がり、のどかな風景だ。
「何だ? 今光った?」
遥か向こうで何かが光った気がした。
天気がいいのに雷か?
とりあえず。
「ステータス・オープン。」
【四天王 リリベルのこうげき】
▼《カオススパーク》……王都に壊滅的なダメージが発生!
▼あと三秒後に到達!
四天王だって?
攻撃?
壊滅的な……三秒後!?
「え? え? えっと! ステータス・オープーーン!!」
俺は咄嗟に、できるだけ大きなステータスウィンドウを展開する。
そして地面に伏せ、衝撃に備える。
ゴゴゴゴゴゴ……カッ!!
地響きが大きくなり、目の前が真っ白になった。
そして気を失いそうなほどの爆音が後からやってきた――――




