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勇者の村で最弱でした  作者: イミゴ
5/28

5 私、歩ける様になりましたわ!


私が生まれてから10ヶ月が経とうとしていた頃だった。私の母親が本当に久し振りにあの子守唄を歌ってくれたのだ。実に5ヶ月ぶりほどではなかろうか。


今の私はもちろん大体のことは理解出来るようになっていた。だからその歌の歌詞も理解できたのだ。それは普通喜ばしいことだと思うでしょう。しかし実際は、聞かなきゃ良かったという後悔の方が明らかにデカイ。マジで戦慄が走ったよ!日本語翻訳をするとこうだ。

《母独奏、子守唄》

眠れ、眠れ 。我が子供

相手の腕を引きちぎり

相手の血しぶき全身に浴びて

絶対負けては帰ってくるな

自分の腕がなくなろうと

最後までさぁ足掻いてみせろ

それでも生きてりゃこっちの勝ちさ

絶対負けては帰ってくるな

魔物の核をぶっ壊し

悪魔の心臓引っこ抜き

眠れ、眠れ 。我が子供

×2

《るるる〜(音符)》


もはやこれを聞いて眠れなくなりましたわ!なにこの歌、子供に聞かせるものじゃないって。血生臭いわっ!眠れって、死ねってか!?永遠に眠れって事ですか!?


その理論だと、負けたら死んでるし、逃げ帰ったら親に殺されそう。怖い、無理この村。絶望パラメーターがとっくに振り切ってるだけど。


綺麗な思い出で終わらせたかった。歌詞の意味を知りたくなかった。でも良かったこともある。


怖すぎて、私は急いで母親から逃げようと必死になり二足歩行をしたのだ。ええそりゃあもう、ベッドの上を二足歩行で歩き回りましたわよ。ハイハイからの掴まり立ちって言うステップぶっ飛ばし、歩きましたが何か!?


そんな事があったものだから、この3ヶ月の間に3回ほど通っていたユートの家に、私の親は自慢しに行きました。この母親はよほど嬉しかったのか、初回の時の父親よりスピードを出して山を駆け上がりました。慣れない怖い。もう少し幼い時にやられてたと思うとゾッとするよね。首すわってなかったら窒息死するぜ絶対に。


「マリーー!いるぅー?」


エミリーも父親同様、扉を蹴飛ばして入り、叫びました。この扉は獲物を抱えて入ってくるときにいちいち置くのが面倒でこの様な作りにしたのだとユートから聞いた。私は一生この家に入れない気がする。


「どうしたの?そんなに慌てちゃって。」


奥からユートの母親ことマリーと、歩行器につかまりながら歩いてるユートが顔を出した。歩行器といっても日本でよく見かけた円形に車輪が付いているものではなく、木でできた台車の様なものに四つ車輪がついているというシンプルなものだった。


普通はこうよねぇ、なんて思いながら見ていると、突然エミリーが私を床に下ろした。割と雑に。突然の事で驚き、母親を見上げると何故かドヤ顔をしているので、歩けと言う事だと理解した。私は要求に応えるべく起き上がり、そして歩いた。


「見てよ、マリー。ウチの子が歩ける様になったのよ。そろそろウチもつかまり立ちをする様になるかな?歩行器作ろうかなぁ?なんて思ってたらいきなり歩き出したものだから、驚いちゃって。自慢しに来たのよっ!」


娘自慢をしてくれるのは有り難いし、嬉しいとは思うが、自慢しに来たのよ!って言っちゃう辺りがウチの親らしい。少し照れながらも、ユートを見ると目があった。


『ヴィネア凄いな。何があったんだ?』


なんて念話で話しながらニマニマしている。赤ちゃんといっても表情筋が少し発達して来たのでそれなりの表情は、お互い作れる様になって来た。でも子供の顔でニマニマからかう様な表情は見たくなかったと言うのが、私の素直な感想だ。


『いやぁ、子守唄を聞いて、歌詞の意味を知ってしまっただけよ。』


私は正直にユートに話した。若干思い出して顔を引きつらせながらね。まぁ最近は口も発達して来て、単語くらいならば話せる様にはなって来たんだけどね。早く話せる様になりたいものだから、最近は意味もなく一人で「アイウエオ」を唱えている。サ行ってやっぱり言えないなと感じた。


『子守唄って言うと、悪魔の心臓えぐり出しってやつ?ウチもよく歌ってるよ。』


『いいえ、〈悪魔の心臓引っこ抜き〉よ。やめて、思い出させないで頂戴。』


私が遠い目をすると、ユートが苦笑した。この村はだいたいテキトーなのだ。引っこ抜きだろうが、えぐり出しだろうが、細かい事は気にしない。ニュアンスが合ってれば、「どっちでもいいだろ」精神なのだ。


余談だが、前回ユートに会った時から、こちらの言葉で念話を使う様にしてるのだ。少し可笑しなところがあれば、ユートに正してもらいつつね。本当、ユートには頭が上がらない。


「………ア!………ヴィネア!」


「まっ?」


私は母親に名前を呼ばれていた。それに今気づき、それに返事をした。


「やっと気づいたわね。これから友達をここに呼んで自慢をようと思うから、ここで待っててね。大人しく待ってるのよ?」


「まっ!」


私は両足で立ち右手を上げながら、元気よく答えた。


「よしいい子ね!すぐ帰ってくるからっ!マリーよろしくねー!」


と言って颯爽と行ってしまった。本当この村の人間の行動力は素晴らしい。


「じゃあヴィネア。行きましょうか。」


そして私はマリーに手を引かれ、奥の扉を抜けて廊下に出た。その左側の扉を開けて中に入った。そこは談話室の様なところだった。床にはカラフルな民族模様の様なカーペットが引いてあり、とても華やかで居心地が良かった。


『ねぇ、ユート。今日はどんな魔法を教えてくれるのかしら?』


『そうだな。探知なんかが丁度いいんじゃないか?』


そんな念話をしている間に子供用の小さいテーブルを用意してくれ、その上にミルクを置いてくれた。これは私はミルクと呼んでいるけれど、牛の様な見た目に鳥の足を生やした魔物を生きたままひっ捕まえて、絞り出したもので、これを高温で熱した後にハチミツを入れてこうやって飲むのだ。味は割とうまい。ミルクよりも甘くさっぱりしていて飲みやすいのだ。


私はペコっとお辞儀をして感謝を伝えた。そのときにふらついたのだが、ユートが支えてくれた。それも両手でね。コイツとっくに歩けるじゃない!


『ユート…。あなた絶対歩けるでしょう?』


『そりゃ、いきなり歩いたら不自然だろ。』


『貴方の母親感動してるわよ。行ってあげたらどう?リアリティーを追求して計算する子供って…』


私がこう言うと、ユートは母親に向かって歩き出した。母親は膝をつき両手を広げてユートを迎え入れた。そして熱い抱擁をした。


そして解放されたユートはこちらに戻って来た。そしていざ探知の魔法を教わろうとしていると、遠くではバターンと激しい音がした。その後にドカドカ歩いてくる音が聞こえるから絶対にウチの母親が友達を連れて来たのだと思われる。


『今日は魔法無理そうね…。』


『そうだな。』


なんて念話をしていたのは、2人しか知らない。なんていうか、諦めモードに入っていたのだ。子供自慢は嬉しいが、自由な時間がなくなるし、疲労が半端ないのだ。


とうとういつもの四人組が揃った。もちろんエミリーの後ろ2人は子供を手に抱えていた。確か、マイルと、ジルだった気がする。どちらも男の子である。まぁ私は紅一点という事です。


2人はたまに両足で立ちはするものの、歩行器もまだらしかった。そして急に歩ける様になったユートに驚きつつも、私達2人を皆で褒め称えた。その時に、


「これなら将来、魔王も倒せるかもしれないわね」


なんてキャハハうふふしながら話していたことは、マジで笑えない。


『ユート、魔王っているの?なんか物騒なこと言ってるんだけど。』


『うーんどうだろう。倒したと思うんだけど。魔物が減ってないから、倒したというより弱ってるんじゃないかな?』


『今、倒したって言ったわよね!?貴方が倒したの?』


私が思わず目を向いてユートを見ながら聞いた。するとユートは、意味ありげに笑った。


『冗談だって。俺がいつ倒せるっていうのさ。』


『前世とか?』


『それはヴィネアでしょ。』


『それもそうね。あ、ねぇ。なんか余裕あると思わない?ちびちび歩いてるだけでウチの親が、満足している雰囲気だし。探知やりたいわ。』


そう、私達の親は、扉側でしゃがみながら、私達がトコトコ歩いたりハイハイをしているところを眺めながらニヤニヤしているのだ。


そろそろ飽きて腹筋し出すのはそう遠くない未来だと思う。ほらね。子供達は放ったらかしにして、筋トレ始めたわよ。ある親は指立て伏せ、腹筋、背筋、ダンベルなど人それぞだ。マジで信じられないわ、毎度お馴染みの光景ではあるんだけど。


『そろそろ座りましょうか。座ったまま出来る?』


『うん、逆に慣れるまでは座った方がいいと思うよ。結構集中力使うと思うから。』


そういうので、フンフン言ってる親から最も離れた壁際に私達は腰掛けた。


『じゃあまずは目を閉じて。そしてこの魔法は、無詠唱で周りの魔力に触れる魔法なんだ。前に呪文を唱えて周りの魔力に干渉して大魔法を使うって言ったの覚えてる?』


私は言われた通りに目を閉じて、コクッと頷いた。


『でもこの魔法は、周りに干渉するんじゃなくて、周りから情報を聞き出すものだから詠唱は必要ないよ。だから、自分の魔力を使わないし、目を潰されても大体分かるから便利だよね。すぐ復活するとは思うけどね。』


いや前世の常識では目を潰されたら一生元には戻らないです。余計なこと言わないでよお願いだから。集中出来ない。


『じゃあ早速、周りの魔力を感じ取って、そこから情報を抜き出すイメージでやってみて。自分の中の魔力と違って、空気の様に見えないけれど、確かにそこにあるんだと信じないと絶対出来ないよ。』


周りに魔力がある…

感じ取る…

目に見えないだけで、確かにそこに存在している…

ないんだけど!だって目に見えないものを信じろって無理だもの。


私がうーん、うーんどうなっていると、筋トレをやめた母親たちが迎えに来た。いつの間にか、空は赤みがかっていた。結構時間が経過して居たみたいだ。結局私は出来ずに終わった。


『ねぇユート。これだけは家でやってもいいかしら?』


と早口で聞くと、『いいよ』と言ってくれた。私は、出来ないことがただ悔しかったのだ。今はまだユートに甘えっぱなしだけれど、いつかはユートの役にたって、ユートを超えたいと密かに思っているのだ。


超スリル満点の「ママ印のタクシー」に揺られ家に帰ると、もちろん父親に自慢をした。もちろん私ではなく母親が。


その後に、これは良いと私専用のベッドを取り除いて、私を2人のベッドで寝させようと計画しだしたので私はベッドをずっと離れなかった。テコでも離れるものかとしがみ付いた。絡みついた。


私の安らぎの場所を、無意識大魔王の両親に奪われるわけにはいかなかった。

父親が高い高いをして上空にどれほど飛ばされたかを私は忘れない。鳥よりも飛んだ気がする。

母親が掃除をしていて、私のベッドを持ち上げた時に落ちそうになったことなど1度や2度ではない。虫を潰して壁や床に穴を開けた数など1度や2度ではない。


2人が嫌いなのではない。ただ、寝相で殴られたら一瞬で死ぬと思っただけだ。2人は自分の力を分かってないのだ。


高い高いで幼子を、上空まで飛ばす親がどこにいるだろうか。虫を潰す時に、床や壁に穴を開ける親がどこにいるだろうか。ここに居ましたね。


そんなことを思い出した私があまりにもベッドを動かないものだから、2人は諦めて自分のベッドで寝てくれる事になった。本当に良かった、諦めなければ通じるんだね!


そのあとはランプの明かりを頼りに、遅めの夕飯をとった。私は離乳食で、親は肉。いつも通りの食事であった。食事に関して、私は安心したのを覚えてる。初めて離乳食になった時は肉が出てくるのではと、それは不安になったのだ。


でも出て来たのはリンゴ(の様なもの)を、ハンドミキサー(比喩ではない)で細かくした物だったのだ。この村に果物を食べるという常識があって凄く安心したものだった。


でもベッドに関してだけは譲れない!絶対に!だってまだ死にたくないもの………





『無』を『有』だと信じるのは難しいですよね。ヴィネアは、人ですらなかなか信じられないのですから、余計大変なのです。

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