4 私 会いに来ましたわ!
私は父親の肩に載せられユートの家に向かっていた。初めて行くけど遠くない!?なんで「よし、ちょっくら行ってくるわ」なんて余裕顔で言ったの?ルートって名前好きだったけれど、頭のネジ外れてる人のことをこれから「まじルートだわ」って言ってやろうかしら?まぁチキンな私には到底無理な話だろうけれど。
どのくらい遠いかと言うと、えーっと近くに小学生が遠足に行くような、頂上は風が吹き荒れてて目も開けられないなんてくらいの山があるじゃない?私は貴方達の周りにあるって信じてるわ。それを3つほど超えたくらいよ。距離で言いたいけど、斜面って感じだから距離換算は、なんか不適切な気がしたのよね。
同じ村の住民でもこんなに離れているのだもの、そりゃ私が生まれた初日以外誰も見かけないわけよね。それに母親がそれぞれの家の中間地点の森でママ友の会をする理由が分かった気がするわ。
まぁこの父親がとっても速いお陰で、高校の頃の私の登校時間よりも早かったわ。体感で言うと20分かかってないわね。しかも森に入ると胸の前で抱えてくれたから、すごい安全だったのよ。だからと言って、そんな超スピードで森を突き抜けられたら、恐怖で体が震えるわ!赤ん坊にジェットコースター以上の恐怖を与えるのは良くないと思うのだ!
とかなんとか思っているうちにたどり着いたユートの家。なんて言うか頑丈でデカイ!というのが初見の感想ね。作りは至ってシンプルでありふれたデザインなのだが、なんかこう、威圧感が半端無い。扉には取っ手がなく、どうやってあげるのだろうと思っていると、我が父親がその扉を蹴りつけた。不法侵入!と心で叫んでしまった私は悪く無いはずだ。
バンッと激しい音がしたかと思うと、ギギィとなんとも重厚感あふれる重々しい音を立てながらゆっくりと扉が開いた。
「よぉ、ジェニー元気してたか?」
我が父親こと、ルートは扉を開けた広い空間の隅で何やらナイフらしきものを研いでいる男性に話しかけた。男性は、色彩はルートよりも少し濃いめの茶髪だ。落ち着いた雰囲気がなんとも言えない魅力である。顔はやはり美形なのだが、うちの親がアイドルにいそうなワンコ系爽やかイケメンだとすると、ジェニーは、貴族にいそうなしっかり者の厳しそうなクール系イケメンなのだ。
でもここは『あの村』である。見た目に騙されてはいけません!コイツも漏れなく脳筋なのです。ルートと何故か仲が良い(失礼である)ジェニーは、たまに獲物をうちに持ってくる。だから私も知っていたのだが、獲物を肩に担いでくるコイツのギラギラとした目と言ったらもう、殺人狂を思い出したね。
完全にイっちゃってるやばい奴でしたよ。それに口数が少ないから、怖さ倍増。私は思わず泣き出しました。何事か分からない彼は近づいて来て宥めようとしてくれたが、まずは肩のゲテモノを下すことを推奨する。
「あぁ、お前が来るまでは元気だったぞ。」
などと軽口を叩くくらいには、我が父親と仲良しなのである。私は男性の友情はよく分からないけれど、なんかこういう関係っていいなぁと素直に思う。「女性でも分からないだろ」という声が今にも聞こえて来そうだけれど、失礼だわ。でも事実っ!泣きたい…
「ところで、一体朝から何しに来たんだ?」
とジェニーがルートに尋ねた。そりゃ当然だ。いきなり扉を蹴飛ばして入って来たんだから。しかも私を肩に載せながら。でもこの反応を見る限り、扉を蹴飛ばすのは、この扉がそういう仕様だからであると推測される。
「あぁ、うちのこのヴィネアがお宅のユートに会いたいと仰りましてね。どこにいるんだ?」
「奥にいると思うぞ。」
「どーも」
そして、こちらは取っ手がある扉を開けて奥へと入っていった。その奥は廊下になっていたようで、通路の両端に等間隔で新たな扉が陳列していた。ルートは、迷うことなく一番奥の右の扉を開けて中に入っていった。
そこはキッチンでユートはその扉側にある赤ちゃん用の簡易ベットに寝かされていた。目の前にはお馴染みのイノシシドラゴン(ヴィネア命名)の丸焼きが堂々と鎮座していた。わぁぉ、既視感。
『やぁ、ヴィネア。もしかして俺に会いに来てくれたの?』
「まぁ、ルート。どうしたのこんな時間に。今日何かあった?」
さすが親子。見事に話すタイミングが被っている。でも私達はそうはならない。何故ならば私は全く話さないからだ。まぁ事実として、ユートに会いに来たのであるが、そう聞かれると否定したくなるあたりが、人間って複雑だなぁと私は思うのだ。
「いや、うちの子がユートに会いたそうだったから連れて来たんだ。邪魔だったら帰るぞ。そこまで俺も気遣いがない訳じゃない。」
否定したかったんだけど、父があっさり言ってしまった。まぁ事実なんだけど、こう、なんか複雑なわけですよ。っと待て待て、声をかけずに扉を蹴破って人の家に入る奴を私の常識では、気遣いのない人に分類されるんだけど。
『やっぱ会いたかったのかぁ。そうかそうか。』
あのね。貴方のおかげっちゃ、そうなんだけれどね。私、結構言葉理解出来るようになったのよね。以前みたいに失礼なこと言ったら気づくからね。そして傷つくからね。
『そうなんだね。成長したね。凄いなぁ!』
今日は素直かよ!でもありがとう。ところでユート。私もそろそろ心読まれるの嫌なのよっ。だから、その魔法私にも教えてくれないかしら?
『念話の事?いいよ全然。ってか俺の方からヴィネアに教えようと思ってたくらいだもん。ヴィネアのゼンセ?は魔法なさそうだから、基礎的なことから教えることになるけどオッケー?』
ええ、良いわよ。あ、でも難しい言葉はまだ分からないから、簡単な言葉で話してくれるとありがたいです。
『了解〜。人の体には魔力ってものが循環してる。まずはこれを今日の場合は頭の方に集めたい。だからまず、自分の中にあって自分自身のものじゃないものを感じ取って、感じたらそれを頭に行けーって念じてみて。』
自分の中にあって、自分の物じゃない?とりあえず集中して見よう。体の中を流れてるって言ったわよね。ん?なんか違和感。多分これだわ、うん。これを頭に行けーって念ずる。お?行ってる気がする。
『ユート、どうかしら?』
おー!出た!自分でビックリ。でも実はまだ発音とかよく分からないし、理解出来るようになっただけで、こっちの言葉はまだ話せないので、日本語のまま話しているのだ。
『え?早くない。次のステップ教えてないんだけど。まぁいいや。そうだよ魔法って言うのはイメージが大切なんだ。すご〜くリアルに想像して、それを魔力で形作るだけ。』
多分ユートもそれを理解してくれているから何も言わずにいてくれてるのだと思う。それに、絶対魔法で翻訳してるから、割と問題ないと思う。
『へぇ、そうだったのね。呪文とか唱えたり、複雑な魔法式立てたりするものだと思ってたわ。』
私は前世の魔法の知識を答えた。厨二病の方が学校で急に叫び出すような、かっこいいけど、それを口に出すのは恥かし死にするやつを、私は思い浮かべた。あれは何度か見たことあるけれど、黒歴史になると思う。冗談じゃなく。
『そう言うのも、勿論あるよ。でもそれを使うのは自分の中にある魔力以外を使う時にしか使用しないんだよ。大魔法と呼ばれるものは、大体それだね。』
『空気中にも魔力が溢れてるってこと?』
なんかこの念話ってやつは、お話していると言うより、メールに近いと思う。言語を組み立てて、やっぱやめたりして、伝えたいものだけを行けーって念じるのだ。だから私も、コミュ症発動してないのかな?なんて思っていたりした。
『そうだね。空気中には結構濃い濃度の魔力があるんだ。だけど、それは人間の体に取り込めないんだよ。だからそれを使いたい時なんかは、自分の魔力で空気中の魔力に干渉して、呪文でこんな事がしたいんだよーって命令して、魔法を使うって訳。』
『なるほどなるほど。勝手があまりよろしくないのね。とりあえずは、今からでも魔法が使える事に私は喜んでいるわ。ところでもう、心読んでないわよね?』
『うん、やめたよ。ちょっと聞き取りにくいけど、慣れれば大丈夫だと思うし。君が嫌がる事はしないよ。』
『自分の魔力って増やす事出来るのかしら?ほら、赤ちゃんの頃からやれば結構増える気がするじゃない?』
『結果的に言うと出来るよ。それに、12歳以内の人は、それ以上の人に比べると魔力の伸びが2倍から3倍になるんだ。』
?以内の人って言ったわよね。ここでくるのは年齢のはずだ。
『まって、良い事聞いたけれど待って。まず年齢ってこの世界にあるのかしら?』
『あぁ年齢ね。今はあるか分からないけれど…。俺は使ってるよ。日が沈んだら1日として、それが40回来たら、1ヶ月。それが10回来たら、1年だと数えて…
『いやさっきから、何言ってるか全く分からないわ。でも今は分からないって貴方何歳よ。』
私はユートが年齢について教えてくれるだろう言葉を遮った。だって何言ってるか分からないのだもの。このまま聞いたって仕様がないでしょう?
『今は教えられない。まぁ、自分でも分からないし。』
『マジか。』
『マジぞ。』
『まぁいいわ。どうすれば魔力が伸びるか教えてくれないかしら?』
『またこうして会いに来てくれるなら教えてあげてもいいけど?』
『約束は出来ないけど、私も貴方に会いたいと思っているから、努力はすると約束するわ。これで今回は許してくれないかしら?』
『それで十分だよ。魔力を伸ばすのは単純だよ。毎日魔力を空にするまで使えばいいんだよ。でもいざと言う時に、魔力がないと凄く困るから実践する人は居ないけどね。まぁ多分この村だと、繊細な事は苦手そうだから、魔法なんて使ってる人いないと思うけど。赤ちゃんの今はチャンスだよね。守ってもらえるんだから。』
『なるほどね。でも魔力使うって結構危険な事なんじゃない?』
『みんな頑丈だから、大丈夫だと思うけど…心配なら、魔力を垂れ流しにすれば良いよ。』
『どうやるの?』
『見ててあげるから、実践して見たら?』
そうだった、私って、疑問があったらどうしてか考えるのではなく、本やネットで調べてしまう癖があったのだ。とりあえず挑戦することが大切だって学んだばっかりなのに、なんら変わってないと気付いて割とショックだった。
『ありがとう。』
それでも見放さないユートに感謝をして、自分の中にある魔力が、体から出て空気に取り込まれるようなイメージを浮かべて、魔力を動かして見た。
『出来てるよ。』
『やったぁ!嬉しい!』
『ねぇ、ヴィネア。』
『?、何かしら?』
『君ってなんか、暴走しそうだから、俺の前以外で魔法使わないって約束してくれる?もちろん、俺が魔法教えてあげるって約束するからさ。』
『えーと、逆に良いの?凄く助かるよ!』
この後、ユートが何か言った気がするのだけれど、その前に我が父親に連れられてジェニーのいた空間に連れられてしまった。自分たちのタイミングで終われないから、赤ちゃんは嫌なのよ。前回もそうだった。ユートに質問している最中に「ではそろそろ帰るわね。」と切り上げられてしまったのだ。バイバイを会えた時なんか一度もないのだ。
「ヴィネア、随分見つめあってたじゃないか!そんな楽しかったか、そりゃ良かったぜ。ガハハ!」
まぁ人の家の妻と話すことなんてそうないもんね。そう思うと、よくやってくれたよね。結構長いこといた気がするし、まぁ今のところは満足です。てか、そっちの話全く聞いてなかったわ。でも我が父親は、何故かあの時熊の足の丸焼きの様なものを食べていた気がするので、そのおかげで長くいれたのだと思う。ナイスです!
「終わったのか?じゃあこれから狩に行かないか?丁度良いだろ。」
ジェニーが、父を誘った。遊びに行こうぜ感覚で。
「家寄ってからな。エミリーに怒られちまう。それにまだ朝ごはん食べてねーんだわ。」
まだ食うのか、コイツ!人の家で熊の足を食べておいて、飽き足らないと。まぁ、ルートらしいと言っちゃらしいかな。まぁ推測するに、この村でおやつといえば熊の足なのだろう。いや割と高確率でそうだと思う。マジで早死にするわっ!
私は、将来まず何よりも先にキッチンを作り、自分で食事を作ろうと決めた。あと、畑なども欲しい。食生活はマジで気を使おうと心に決めたのだ。
全ては健康で長生きするために!それに調味料とか見たことないから、食事絶対不味いんだわ。無理耐えられない。
朝と夜しかご飯は食べません。こっちでいうお客さんにお茶と菓子折りを出す感覚で、お酒と魔物の肉をお出しします。ヴィネアは水だと思ってるけど。でも、もちろん水もたくさん飲んでますよ。