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勇者の村で最弱でした  作者: イミゴ
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2 私、暇ですわ!


あー暇だ暇だ。赤ちゃんという職業はなんて暇なのだろう。いや職業じゃないけれど。とりあえず今最も大切な事は、私がやる事やできることが何一つなく、退屈であるということだ。


友達を作ろうにも、「話せない、動けない、まず相手がいない」の三拍子が揃っていては、する事など何も思い浮かばない。


生まれて数日経った私は、まさに「ほったらかし」の状態だった。少しは構ってくれるべきだと思う。でも親のどちらかは、家の中に常にいた。ここだけは前世と違い確かに愛情を感じ、私は心の中でニマニマしていた。


耳で音を聞いているだけなのだが、少しだけなら分かった事もある。まずうちの両親は『脳筋』であるという事だ。家事をしながら、体を鍛えているし、朝から豪快にお肉を食べていた。それも丸焼き。マジで信じられない。てか、そんな栄養が偏った食事からできている母乳を飲んでいる私が心配だ。


朝早く起きて、日が沈み始めると、割と早くに眠りにつく。それでも私が、まぁ感覚なんだけど三時間周期で泣くので、なかなか大変なのではないだろうか?でも嫌な表情一つ見せない私の母は流石である。また、そんな母を助けることのない脳筋な父親はマジで何度殴ってやりたいと思ったか。


父が帰ると手にはいつも死んだ獲物がある。毎日取ってきてくれるのだとは思う。流石だけど、暇があればお手製の道具で体を鍛え始めるので、何度引いたか分からない。そんなに鍛えてるのに、栗色の瞳と髪の細マッチョ系爽やかイケメンなのだから、不思議なものだ。


お前が夜中にフンフン言いながら腹筋をし出すから、私が起きちゃって、母が大変なんですよ!しかも何処からか別の村人がやってきて夜中に組手をし出すのだ。母もやり合い始めるから、止めるものがいない。しまいにはお祭り騒ぎである。しかも肉体と肉体が激しくぶつかり合って腕がなくなるくらいの。


多分「父ちゃん勝ったよー」って言ってると思われるが、腕がちょん切れた状態で私を覗き込まないでほしい。泣き出した私にあたふたして困っているが、原因はお前だ。


その後腕が生えた辺りから、私の記憶は止まっている。薄々気づいていたし、ただ目を背けていただけなのだが、どうやらこの村は普通ではないらしい。


というより、この世界がまず私の知る地球ではない事は明らかであった。


父が狩ってくる獲物は、『動物』と称するにはおぞましいものであった。イノシシのような体躯といっても3倍の大きさに、ドラゴンのような羽と尻尾が生えていた。それを丸焼きにして美味しそうに朝から食べてるのだ。私の脳みそは強制ショートした。マジで比喩じゃなく。


そんな生き物がいて、村人はちょん切れた腕を再生するのだ。これが地球であるはずがない。私は精神がマジで限界だった。


私には、好きなものができた。それは母の子守唄である。知らない言語だし、知らない曲であるけれど、妙に懐かしく、それでいてとても綺麗で落ち着く音色だった。母の腕の中でその子守唄を聞くと百発百中で私は眠りに落ちた。恐るべき威力だ。


そんな私の名前は、どうやらヴィネアらしかった。その単語で私を呼んでいるのだから、間違いないと思う。というか実際、覚えさせようと頑張っている様ですら思えた。


最近では私を抱っこしながらあっちこっちを指差して私に笑いかけながら、単語を話してくれているので、少しずつではあるが何を言っているのか理解できる様になっていた。と言っても体は赤ん坊なので発音はまだ無理ですが。


ベビーカーを使うわけでも、日本で使ってた抱っこ紐を使うわけでもないので、私は母の腕が心配になっていた。しかし、毎日楽しそうに筋トレと組手をしてるのだ。きっと大丈夫だと思う。体力だけで言えば2日くらいなら余裕で抱っこしてそうだ。


それにしても全身血だらけになりながら、組手をして笑い会うのはやめてほしい。これは村人全員に言いたい。村人全員がもれなく脳筋なのだ。私は将来的にこの村でやっていける気がしない。


前世で引きこもりだの、友達がいないだの、コミュ症だの言っていたが、そんな事は些細な事なのだと思い知った。まずはこの猛獣だらけの村でいかに生き抜くかが問題だった。私は、組手の最中に死ぬというビジョンを思い浮かべてゾッとした。そしてそれが決して笑い事ではないあたりが、マジで怖い。


そんな私には、もちろん嫌いなものもできた。それは父親が帰ると両親が抱きつきイチャイチャする事だ。仲睦まじくて、良いとは思うが、目の前でされると、たまったものじゃない。それに両親のを見せつけられるなんて、本当吐き気がする。



***



そんな日常を過ごして3ヶ月ほどだった頃である。私はいわゆる『ママ友』の様なものに連れていかれた。場所はもちろん脳筋らしく魔物がわんさかいる森の中だ。魔物というのは、奇妙な格好の決して動物と称したくない『あいつら』を私が勝手に魔物と言っているだけだ。


そこで優雅にお茶を飲み…ってならない事を理解しているあたり、私も侵されてきたなぁと感じている。まぁ、お茶ではなく飲んでいるのは水だし、ケーキではなく魔物の丸焼き。座るのは切り株でその切り株も自分たちで切り倒したのだそれも一発で。こちらに倒れてきても片手でどかしていたし。


本当ブレないなぁと思いつつも、母とお話ししている3人に目を向けた。今日のママ友参加者は母を入れて4人だった。それぞれ同じくらいの歳の子供を1人づつ連れている。


そのうちの1人の、私の右隣に座る女性の膝にいる子供とやたら目があった。何事かとじーっと見つめていると、突然そいつは喋り出した。


『ねぇ、何見てるの?』


ぴやぁ!こいつ喋った!喋りやがったよ、赤ちゃんのくせに。言葉はもちろん分かるわよ。3ヶ月も経てばこれくらいは当然。


『…言葉わからない。てか、君本当に赤ん坊なの?』


こっちのセリフぅぅぅぅぅ!!!!てか、腹話術ですか?全く口動いてないんだけど。それに周りも気にしてないし。何?こっちでは赤ちゃんは喋るのがデフォルメなの?


『デフォルメ…は分からないけど。君と僕は特殊だよ。赤ん坊が話せるわけないんだ。だから君が気になったんだよ。それに俺は話してないよ、これは念話。』


話しかけてないって…魔法かなんかですか?何普通に言っちゃってくれてんですかっ。それに心読まないで。お願いです、マジ恐怖。と言っても今はまだ慣れ親しんだ日本語で考えてるのに、なんで通じてるわけ?訳分からない。


『そうだよ、魔法知らないの?本当に君は不思議だね。心読まないでって無理だよ。君、念話できないじゃん。君も念話を覚えれば良いんだよ。それに君の言葉が分かるのも翻訳魔法だよ。この魔法魔族にしか使った事ないんだけどね。』


今度は3割くらいしか分からなかった。私が不思議だって言われたことしか分からなかった。さっきのも半分しか分からなかったけどね!何言ってるかこっちも分からないけど、取り敢えずこいつヤバイ奴だって事はわかった。出来るだけ関わりたくない。


『…こっちから君に翻訳魔法はかけられないのに。しかも俺が不思議って悪口言ったみたいに捕らえられたし。まぁいいや。君、名前は?』


また不思議って言ったわ、コイツ。名前って言った?私が知りたいわよ。でもそうねぇ、多分「ヴィネア」なのよね。


『へぇ、多分合ってるよ。君のママが今言ってたしね。』


知ってるなら聞くんじゃねーよ!!


『結構君、怒りっぽいな。』


コミュ症って大体頭でめっちゃ考えて考えて考えすぎて声に出さずに戸惑っていると、相手から見限られるという習性を持っているんです!それを貴方は、私の心を読んじゃうから、うるさく、怒りっぽく感じるのよ!


『よくわからないけど、そうなんだね?取り敢えず俺の名前は、「ユート」だよ。よろしくね。俺は君と友達になりたい。君はどう?』


名前がユートで、私と友達になりたいって言ったんだわ。多分。って、え?友達!?その言葉に今まで関わりたくないと思っていた心が一瞬でひっくり返った。友達…その言葉を何回も反復した。結構嬉しかったのだ。


『ふふっ、ヴィネア、チョロいって将来絶対に言われると思うよ。よろしくね。』


私の3ヶ月間の努力を馬鹿にするなよ。こいつ絶対チョロいって言った!でも今まで目標に掲げてきた友達を作るというのも達成出来たし、これからは退屈じゃなさそうで少しだけ嬉しかったのも事実だ。


こうして私は謎の少年ユートと友達になったのだ。前世合わせて初めての友達って、なんだか泣きそう。


『可哀想、ヴィネア。』


貴方は慎みってモノを知りなさい!可哀想だけど、人に言われると凄く傷つくのよ。それにやっぱり心読むんじゃないわよ!


『それは無理だよ。』


こいつ無理って言った!!!!







人見知りって人一倍考えてるんですよ。言葉にできないだけで。それを分かってやってほしいです。そして言い終わるのを待ってやって欲しいです。それだけで嬉しいモノなんです。ヴィネアの場合は、感受性豊かなんですよ、本の読みすぎで。ただ伝える相手が居なかっただけで。

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