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草笛

 ぴーっ。

 ぴーっ。


 銀髪の小さな子が、しきりに草笛を吹いている。

 風吹きぬける谷の上。天突く塔が建つふもとの、緑の草地にぽてんと座って。


 ぴーっ。

 ぴぴーっ。


 ほっぺたをふくらませ、顔を真っ赤にして吹いている。


 ぴーっ。

 ぴぷっ。


 息を入れすぎてつまってしまった、その音に。


「ははっ」


 隣でくつろいで座っている金髪の男が、反応して笑った。


「あーっ、わらうのなしっ。なしだよぉー」


 紫の瞳輝く顔を向け、銀髪の子がぷううとほっぺたを膨らませる。


「これ難しいんだからね。ほんとだからね」

「そうかな。貸してごらん」


 絹のシャツを着た青年は、銀髪の子の手から草笛をとって吹いた。


 ぴるるるるるる・ぴぃーー

 

 夜鳴きうぐいすかカナリアか。

 華麗な歌い鳥のごとき音色に、銀髪の子はくりっとした紫の目をさらに大きく見開いた。

 薔薇色の頬。あどけなく開かれた、ほんのり桃色の唇。長じればきっと絶世の美女となるであろうその顔は、なんともいえずかわいらしい。


「すごい。すごぉおおい!」


 手を打ち叩いて無邪気に喜ぶその美童を、男はうっとり眺めた。


「得意なことは、実はこれだけだ。笛吹き男さ。他は何もできなくてね」

「そうなの? でもすごぉい! もういっかい吹いて。ねえ吹いて。ヴィオにきかせてぇ」


 くったくなく膝にすがられねだられるまま、男は草笛を口に当てた。


 ぴるるるるるる……


 空にかよわくも繊細な音が舞い上がる。

 あたかも、魔法使いの歌声のように。




 

「メニスの子など拾ってきて、どうなることかと思ったが」


 かつりと杖を大理石の床に打ちつけ、黒マントの老人が窓枠からわずかに身を出す。

 眼下に在る草地の光景を目に入れた老人は、満足げにすうと目を細めた。


「思いのほか、よい結果になっておるな」

「そう……でございましょうか」


 老人の背後にかしづく女は、ぎり、と唇を噛んだ。


「メニスの魔性にとらわれているとしか、みえませぬ。あの甘い芳香に」

「それでよいのだ」


 あでやかな薄裳をまとう女を振り返り、黒マントの老人は満足げにうなずく。


「いや、あれこそ理想であろう。王弟殿下はことのほか『お悦び』のようだからな」

――「さよう」


 同意の言葉を放ちながら、部屋に大神官が入ってくる。


「殿下を夢中にさせるものがあればよいのだ。他のものが目に入らぬぐらいにな」 


(それは私の役目だったのに!)


 女――甲月栄は、臍を噛む思いで部屋を辞した。

 谷間の中州に倒れていたのは、メニスの子供。さほどな傷は負っておらず、手足を少々すりむいた程度。なぜに倒れていたかときけば、あのかわいらしい声でのほほんと答えたものだ。


『なんかね、穴の中をね、すすんでたらね、おなかすいちゃってぇ。それでねむくなっちゃったのぉ』


 メニスの子供はあの谷間の近くに住んでいたらしい。

 子供をかいがいしく介抱しながら、王弟殿下がくわしく聞いてみれば。


『はっぴーもふもふランドって知ってる?』


 子供は目をきらきら輝かせ、甘い芳香をあたりにぷんぷん放ちながらのたまわった。


『ウサギさんがいーっぱいの国! あのね、ヴィオね、そこで園長さんしてたんだけどね、おともだちのぴぴちゃんがね、すーぱーはっぴーもふもふランドっていうのを作ったから、そっちの園長さんになったの!』


 すると話を一緒に聞いていた大神官が、ハッと驚きの色を顔に浮かべて。

 なんとも仰々しく子供の前にかしづいたのだった。


『なんとあなたさまは、白の盟主の御子。フラヴィオス様であられましたか』


 白の盟主。

 その名は、月栄もちらと聞いた事がある。

 永きに渡り大陸同盟を支配したメニスの王であり、密かに人間を滅ぼそうとした悪魔であると。

 世はこの悪魔によって文明を奪われ、滅びの道を歩まされていたが、ひと昔まえに英雄たちによって倒され封印された――という話が、まことしやかに大陸全土でうわさとなっている。


『白の盟主というものには、子がいたのか?』

『はい、王弟殿下』

『そうか知らなかった。兄上は私には全然なにも、教えてくださらぬから。政治のことも、民のことも』

『病のご養生にご専念あそばされますようにとの、思いやりからでございましょう。なれど殿下、お耳に入れていただきたいことが』


 大神官はそのとき、心優しい王弟殿下に耳打ちした。

 月栄にもその言葉がかすかにききとれたが、その内容は実に不穏なものだった。


『このフラヴィオスは白の盟主が人間との間にもうけました子。すなわちまこと人間を滅ぼすための魔王として生み出されましたので、実に恐ろしい力をもっております。ゆえにジャルデ陛下が、人知れずいずこへか幽閉したと聞いております……』

『なんだって? 魔王? こんなかわいい子が?』

『はい。陛下がお抱え技師に、この子供が好きなウサギがいっぱいの檻を作らせまして、そこへ入れたそうにございます』

『そんな……』


 ころころと無邪気に笑う、いとけない子供。

 その姿を見つめた殿下はうろたえて、にこやかなメニスの子に直接聞いた。

 どうしてあの中州にいたのかを。


『えっとねえ、ほら、ウサギさんってねえ、穴をほっておうちつくるでしょ? だからヴィオはねえ、そこにもぐって遊んでたの。そしたらね、お外に出たんだよぉ』

『や、やはりとじこめられていたのか?』

『んー? よくわかんないけど、上には、出口ないかなぁ。ねえ、それよりさぁ、おなかすいたのぉ。なにか、たべたーい』 

『なんと……かわいそうなことを……』


 あどけなく、甘い香りを放つかわいい子供。

 一瞬とてその子から視線を外すことなく、殿下は茫然とつぶやいた。


『信じられぬ。この子が魔王? まさか何かのまちがいでは? 危険なそぶりなどまったくないではないか。兄上はなぜに、この子を幽閉するのだ?』

『メニスだからでございましょうか。とかく他種族をきらう人間というものは、この世に少なくありません。それに……』


 ささやく大神官はそこで語気を強め、殿下に吹き込んだのだった。

 心優しいこの殿下が見せた、わずかな疑いの気持ちを増長させようと。


『いまのいままで言上するのをためらっておりましたが、もう黙ってはおけませぬ。おそれながら殿下の兄君、ジャルデ陛下は実は大変、冷酷な御方にございます。陛下はお気に入らぬものはなんでも遠ざけ、どこかに閉じ込めてしまわれるのです……』

『そ、それはどういう意味だ? モレー』

『ああ、実においたわしゅうございます、殿下』

『ま、まさか……まさか私も……兄上に遠ざけられている……のか? 何も教えられぬのはそのせいだと?』


 大神官はここぞとばかりにうなずいた。


『さようでございます、殿下』





 哀れな王子は大神官の掌中。

 教育係である大神官は、王にはしっかり王子を教育していると報告しながら、王子を無知で役立たずで、おのれに従順であるように育てあげた。

 その周到な計画がついに結実しようとしている。

 塔にはさらに二人のスメルニア派貴族がやってきている。

 国境をつなぐ橋が完成すれば、橋を渡って、スメルニア軍がこの国に入ってくる。

 大神官が育てあげた傀儡の王子はその軍の旗頭となり、名目上は幾万もの兵士を率いることになる。  

 だが実際は、ずっとこの塔に幽閉され続ける。このまま一切なにも知らされることなく、ただただメニスによって廃人にされるのだ……。

 

 ぴーっ

 ぴーっ


 塔の階段を下りる月栄は、窓から聴こえる草笛の音にいらついた。

 王子の笛の音ではない。メニスの子がまた吹いている。


「嫌な音だわ……」


 傀儡の王子の「一の女」にならねばならないのに、王子は別のものにすっかり心を奪われてしまった。

 いまいましいことに大神官も黒猫卿も、さらに二人のスメルニア派貴族も、月栄よりメニスの子の方がより使える駒だとみなしている。


(みな、はじめはメニスを見て眉をひそめたくせに)


 なのに一夜明けると、申し合わせたようにみな、銀髪の子にちやほやし始めた。

 ひそかにこの塔に置き、王弟殿下のもとに侍らせることにしたのである。

 月栄の主人、斉洲荘公の思惑通りにはさせぬ――そんな深謀遠慮もあるのだろう。

 しかしなによりの理由は。


「ううっ。なんて臭いの……」


 塔の一階に降り、草地に出ようとした月栄は、品よい香りを放つ裳の袖を鼻にあてた。

 開け放たれた扉から、甘ったるい芳香が漂ってくる。

 草地にいるメニスの子供の体臭だ。


「いまいましい……メニスの魅惑がこれほどだなんて。きっと殿下だけでなく大神官たちもみな、とらえられてしまったのだわ」


 メニスの臭いは、甘露と呼ばれる。強力な魅了の作用を持ち、人の感覚を麻痺させる、非常におそろしいものだ。

 しかし幸い月栄だけは、このむせかえる媚臭の中、顔をしかめるだけで済んでいる。

 主人たる斉洲荘公から、メニスの甘露に耐える衣を与えられたからだ。

 衣に焚きしめられた香は、代々メニスを飼いならしてきた主人の家で特別調合されたもの。実は月栄自身の体内からも、ほのかに匂いたっている。


『これで何人もそなたに魅惑されようし、あの化け物にまどわされることはない』


 主人は手ずから、月栄の肢体にこの特殊な香をしみこませた。

 水珠にしたものを幾月も毎日呑ませた上に、軟膏にしたものを白い肌にすりこみ、油にしたものを髪に浸した。玉のような肌や頭を撫でてくれた主人の御手の、なんと熱くて優しかったことか……。


(この体。あの御方が触れていないところなど、ない……)


 それだけではなく。薫香の煙ゆらめく主人の褥部屋で、月栄は房中の技をも手取り足取り教え込まれた。

 主人のそばにいつも侍る第一夫人こそが、なんとその指南役であった。

 男を誘うための官能的な舞。茶や酒の酌の所作。媚薬や道具の使い方。そして肢体を駆使する愛の行為――。


『さあ、やってごらんなさい』 


 月栄は第一夫人が夫に対して為すことを見て学び、実際に主人に同じように奉仕した。


『はずかしがらずに、もっと声をお出しなさい。ご寵愛を受ける時は、必ず朝までお相手をお引き止めしないといけませぬ』

『は、はい……』


 もしや側室候補にされたのでは。

 そう思ってしまうほど、その「教育」は雅びで官能的であった。

 だがその間、月栄の秘所はついに破られず。

 任務を下されたその日、月栄はおのれが「男殺しの駒」として仕込まれたことを知った。

 主人が自ら相手となって彼女に教えたのは他でもない。絶対の忠誠をもたせるがためだった。

 しかしその時すでに月栄は、そんな事実を知らされても揺るがぬほど、海よりも深く主人を慕い崇めるようになっていた。


(父も分からぬ卑賤な生まれであったこの私が、主公さまに妻として望まれなかったのは当然。でも私は見込まれたのだ。ただ主公さまの御子を産むより、もっと高度なことができると。ああ、なのに……)


 この身に叩き込まれた、男をよろこばせる手練手管。それをもってすれば、箱入りの王子などすぐ手玉にとれるはずだったのに。

 月栄は焦った。

 ここで正気をたもてているのは、月栄ひとり。

 主人が調合したこの香がメニスに勝てないなど、そんなことはあってはならぬ。

 なによりも、大事なあの御方に役立たずと思われたくない――。


「おーい、月栄」


 塔の入り口でもんもんとする月栄の前に、絹シャツを着くずした王子が手をふりながら近づいてくる。屈託のない明るい笑顔で。


「厨房から菓子をもらってくるから、あのメニスの子を見ていてくれ」

「え? お菓子を、殿下が? とんでもございません。殿下が自らおやりになることではないですわ。召使いを呼んでやらせます」

「いや、私が手ずからあの子に持っていってやりたいんだ。あの子が喜ぶ顔がみたいんだよ」

「最高級の菓子を与えれば、それだけで喜びますわよ」

「いや、この私の手で、あの子になにかしてやりたいって思うんだ」


 実のところなんにもできないのだけれどね、と王弟殿下は弱弱しく笑った。


「兄上にはお世継ぎがない。だから私を王位継承者としているはずなのに、なんにも教えてくださらない。たぶん他に王位を継ぐ人がだれかいるのかもな。幼い時から床に臥せがちだった私など、兄上にとってはただのお荷物だったのかもしれない」


 そんなことはない、という慰めの言葉を、月栄は呑みこんだ。

 兄弟にはこれからとことん、不仲になってもらわなくてはならないのだ。


「私はこれまでいつも、兄上に守られてきた。兄上は私を月に避難させたこともあったんだよ。あのときはびっくりしたが……あれも実は、遠ざける目的でそうしたのかもしれないな」


 悲しげに語るエティアの継承者を、月栄は複雑な気持ちでみつめた。


(そう、この人はなにもできない。あの教育係の大神官にこんな風にされた、かわいそうな人。でも私なら、もっと賢くしてやれる。私はこの人を主公様に従順な下僕として教育しなければならないけれど。一日中草笛を吹かせるより、もっとましなことをさせるわ)


 なんとかしなければならない。

 一刻も早く、あのメニスは排除しなければならない――。


「アルデ~♪ お菓子たべたーい」

「はは、わかったわかった」

「なんてこと。殿下を呼び捨てにするなんて」


 草地から手を振ってぶしつけにねだる子供を、月栄はぎんと睨んだ。


「よいのだ。いますぐ持ってくるよ、ヴィオ! 月栄とおとなしく待っておいで」


 王子が姿を消すと、月栄は口を引き結び、ざくざくと草を踏んで銀髪の子に近づいた。

 如実に甘ったるい芳香が濃くなっていくのがわかる。

 空気がどろりとしているような感触を、肌で感じる――。


「えへ。げつえい。笛ふける? ねえ、ふいてぇ」 

「メニス……けがらわしい化け物……」

「ねええ、げつえい~」


 草笛を差し出してくる小さな手をとらずに。

 月栄は腕を伸ばして、メニスの子の肩をつかんだ。


「ねえヴィオ。これから――」


 うまく笑顔を浮かべられたかどうか、わからない。

 月栄はわざと、甘い声で誘った。


「一緒にお空を飛びましょう」 





 ぐわんぐわんと鉄の翼をはばたかせ、細長い竜が空を飛ぶ。

 国境付近の谷間へ向かって、ぐんぐん飛ぶ。

 その鉄の頭には、白いウサギと黒い衣の男。そして剣とリュックを背負った赤毛の青年がしがみついている。


「ぺぺ、やっぱりこれさあ、ちゃんと座席作ったほうがいいって!」

「いやそれはそうだけどもさ、なんかめんどくさかったんだよ~」


 黒い衣の男は手を伸ばしてウサギをつかまえようとするが、ウサギは舌を出し、赤毛の青年のリュックの中にもぐりこんだ。


「あ! ぺぺこら!」

「このサイズってべんりだよなぁ。小回り効くよね」


 器用にリュックからひょこりと頭を出すウサギに、青年がきく。


「あのぅ、なんでおじさんの方は、ピピさんをぺぺって呼ぶんですか?」

「ああ、ぺぺの方が俺の本名だよ。ピピは技師名なんだ。聞くも涙語るも涙の大冒険物語の末に、俺はこのおじさんの弟子から第一級レベルの技師に華麗に転身したんだよ」

「こらぺぺ! おまえはいまでも俺の弟子だぞ! それにおじさん言うな!」

「言われたくなかったら奥さんに戻れよぉ!」

「やーだね!」


 黒髪黒衣のおじさんは、金属の竜頭にしがみつきながら手を伸ばしてくる。

 ウサギ入りリュックをひったくられそうになったのをサッとかわした青年は、ハッとその視線を空に向けた。 


「あれ? なんだあれ……」

「んんん? どうしたおばちゃん代理」

「いやなんか今、きらっと」


 たしかに流れ星のようなものが見えた。

 ごくごく近く。近づく谷間の上空あたりで。この竜より長くはないが、それと同じようなものが、空を飛んでいたような気がする……。


「うーん、気のせい?」

「よっしゃあ! ぺぺリュックげっとおおお!」

「あっ!」


 ウサギリュックがずるりと黒い衣のおじさんにはぎとられる。

 おじさんはなんと浮遊している。どうやら韻律を使ったらしい。


「ぐあああああ!」


 実に平和なことに。

 おじさんに抱きしめられるリュックウサギの叫びが、蒼い空に響き渡った。


「反則だぁ!」

「ふへへへ。そうそう、ぺぺよ、そういえばここらへんにあれがあるだろ? スーパーハッピーモフモフランド。このへんの谷間の奥に設置してるよな?」

「え? 」

「なあ、帰りにちょっと寄ってやろうぜ。いくらウサギだらけとはいえ、あそこの園長、独りでさみしがってるだろうからさ」

「ああ、そういやここらへんにそんなもの作ってたな、うん」


 おじさんに抱きしめられるウサギは、複雑な顔をしてぼりりとほっぺたをかいた。


「まあたしかに……ウサギだらけのワンダーランドだけどさ……たしかに……」





 びゅおう、と谷間を吹きぬける風に、銀の髪がゆれる。 

 ふんふんと、無邪気に鼻歌を歌いながら、小さな子供が谷間の中州の岸にしゃがみこむ。

 流れる川に、その子は小さな手をひたした。


「笛~笛~ぴっぴっ笛~♪」


 小さな手先からゆらゆらと、赤い液体が水の中に溶け出していく。


「えへ。お手手よごれちゃったぁ~♪」


 もう片方の手で、その子は口に草笛を当てた。

 ぴーっ。

 ぴぴーっ。

 ぴぷっ。


「ああん、つまっちゃう。でもヴィオは、げつえいよりは、吹くのうまいよね」


 銀の髪の子供はたちあがり、うしろをふりかえってにっこりした。

 そこに着陸している鉄の蟷螂の足元に、銀の飛行服を着た女が倒れている。


「だってげつえいは、吹いてみてさえしないんだもん? そんなのだめだよぉ?」


 ころころと、メニスの子は無邪気に笑った。

 女はあおむけになっており、微動だにしない。銀の服をまとったその体から、真っ赤なものがどくどくと染み出している。


「だから、お・し・お・き・だよ~♪ きゃははははは!」


 女の豊満な胸のまんなかには――えぐりとられたような、大きな穴がぼっかり開いていた。

 その穴の部分に本来あるべき臓器は、みあたらない。

 女は、カッと目を見開いてこときれていた。

 なにかこの世ならぬものでも見たかのように、その目にはすさまじい色が浮かんでいた。


 恐怖、という名の色合いが。



 

――草笛・了――





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