SP-05 【ヤスオ君アクティブスキル披露会(ほぼ強制)】 Ⅲ
―休憩後
疲労も回復し全員でカノンとスノゥが用意していた昼食を取っている。それぞれ楽しく談笑しながら、ヤスオの変身スキルについて語っていた。そんな中、豪快にサンドイッチを頬張りながらファッツが嬉しそうにヤスオに告げる。
「あのスキルは逆に男らしいじゃねぇか、俺は気に入ったぜ! 発動して時間内に倒せりゃお前の勝ち、時間切れになれば相手の勝ち、シンプルで分かりやすい」
「相手が勝っちゃダメでしょーが。よくわかんないけど切り札的なもんにしておけばいい。仲間が居るんだからそっちに頼って最悪の場合使うって感じにしなさいな」
模擬戦や死ぬ可能性が無い場所ならともかく、それで倒れてしまえば死ぬのだからダメだろうとナナは言うが、こういう男らしいスキルは彼の心にストライクしたらしく全く話を聞いてない。
そんな豪快すぎる団長のフォローという訳ではないがマリーが言葉に付け足していく。
「そうですね、その分は一緒になれたら私達も頑張ります!! 基本使わずにすめばいいんですけどね」
「強力だけど現状使い所が限られるわね。出来れば温存したほうがいいわ。もしもの場合はアコライトを用意して短時間での強敵相手時の戦闘に使う…と言った所かしら」
「あ、そうかアコライトがいれば直ぐ回復出来ますしね」
「えぇ、回復役と言うのはただ回復すればいい訳じゃない。仲間の状態を一早く察して必要な魔法を使う必要がある、これが思いの外難しいのよ」
【―のーないかのん― うーん、凄く強いけど不安が残るスキルね。速攻立ち直れるなら何かあった時の切り札に出来るけど、それよりもヤスオさんが倒れちゃうのが心配だわ! 大切なパーティが倒れたらこう、精神的にぃぃぃぃ!? だ、大丈夫かのん! 皆で頑張ってヤスオさんのフォローをすればいいのよ! よし! その為には更に魔法の訓練をしてあ、後はれ、れれ…連携! そう連携が必要になるわ! シーフはともかくとしてヤスオさんやフィル君にアリアちゃん、他にも他にも…なにこれぱねぇ……わ、私にこれだけの仲間が! 後、それにしても全身漆黒の鎧…格好いいわ…人形にしてみようかしら!】
既にミキを除く知り合いの分の人形は作っていたりする、戦闘時に使い物の他に、添い寝用やパーティ用、相談用と沢山あるのだ。仲間も知り合いもできなかった所為ともいう。
「使い所かぁ、やっぱり戦闘中の視野は広げないとなぁ。場所さえ間違えなければ最後の切り札になるし」
「あまり無理はしないでくださいね、それでなくてもヤスオお兄さんって結構無茶ばかりしちゃうんですから」
「う、うん大丈夫だよ。皆もいるし」
「むー…微妙に信用できません」
ジト目で怒ってますアピールをするセレナにタジタジになってしまうヤスオ。そんな和やかな様子を見てまた皆が笑っていた。
「大丈夫だって、そんときゃ俺か団長が殴ってでも止めるからさ」
「お、お手柔らかに」
苦笑しながらもヤスオは頭の中でスキルについて考えていた。
「(もともとこういうスキルなのか、それとも【未熟】と付いているからなのか…多分後者だよな? 意思の鎧…つまりは自分の心が鎧になるスキル。まだまだ僕は心が成長してない、弱いってことなんだろうな。なんか自分のダメな所再確認させられるスキルだよ)」
完璧だとは口が裂けても言えないし、自身が身も心もまだまだ弱いのは分かりきっているが、それでもスキルになってしまうほど自身の弱さが浮き彫りになってしまうのは、気の良いものではないだろう。
そんなヤスオの様子を知ってか知らずかミキとナナがジリジリと近づく。
「なんてーの、やっぱそっちの方があんたらしいわ。あれじゃ饅頭って言えないしね」
「それは同意だな。さーてヤスオ? こっちを向け」
「え…ふぁ!?」
気づいた時には既に遅く右頬をナナが左頬をミキが笑顔で引っ張り始める。
「ふはりひへ、ふねるのやへへくへはへんは?」
「何言ってるかわかんないから却下」
「あぁ、全く何言ってるかわからないな」
「あぁしてるのを見ると戦闘中縦横無尽に駆けたり魔法で敵を殲滅する奴にはとても見えねぇな」
「そうだね。ははっ、滅茶苦茶伸びてるよ」
そんなこんなでしばらくの間ヤスオは二人にいじられる事になった―
そしてそんな微笑ましい様子をカトル達が食事を取りつつ見守っている。その表情はとても明るい。
「うん、僕の眼に間違いはなかったようだ。彼となら楽しく冒険できそうだよ。コリーもスノゥも、そう思わないかい?」
「いいと思うよー。魔法戦士って来たかこりゃ面白そうだね。攻撃、魔法、回復、んでヒーロー変身と美味しい人だよ」
どこまで冗談なのかわからないがコリーがニマニマ笑ってあちらの様子を見ている。
「現状では私達のレベルが低いので逆に迷惑にならなければいいのですが。とは言え、その時は全力でお供しようと思います。今のヤスオさんを見たら、ミラさんもレティカさんも問題なくパーティとして行けると思うかもしれませんね」
「ミラりんにレテッちは冒険者の黒い所見てきちゃったからなぁ。身構えちゃうのは仕方ないよね。てーかそれが目的なんでしょジョナサン?」
「誰だよジョナサンって。実際勿体無いからね、二人とも優秀な冒険者になれる。でも、一度冒険者に騙されたせいで色々とぎこちなくなってるからさ。彼等のような人なら、きっと二人のわだかまりも溶けると思ったんだよ。残念ながら僕にはそれが出来なかったからね」
「いえ、カトルさんはリーダーとして頑張ってくれてます。あのままでしたらミラさん達も私達も冒険者に絶望していたでしょうから……全てがああいう人種ではない…それを教えるためにこの町に来た。ですよね?」
「買いかぶり過ぎだよ、僕は全然まだまださ。でも、折角一緒に頑張ってるパーティだからね、僕に出来る事をしただけさ」
カトルのパーティは目の前の二人の他にミラと言うアーチャー、そしてレティカというメイジを含めた5人PTである。5人とも同じ場所の出身でお互いにそれぞれ同じ場所で学んだ幼馴染の様な関係だった。
そんな中弓の才能のあるミラと、メイジとして優秀なレティカは町などではよく臨時パーティを組んでダンジョンアタックをしていたのだが、悪意ある冒険者によって辱められる寸前にカトルとコリーが介入し事なきを得た…だが、臨時パーティとして仲良くやってきたつもりだった人達に裏切られた事は二人の心と精神を深く傷つけてしまっていた―
今は自分たちとは会話できる位回復したが、男性…いや人間恐怖症の状態が続いている。
「ほんと…出来ることしかできてないさ…」
「ほっほっほ、まったくジョナサンはあれですなぁ。ま、ヤスオさん達も、この町の人も珍しい位好い人ばかりだからねぇ。【善人が住まう町】に偽りなしかぁ。知ってる? この町って上位クラスが結構頻繁に来るらしいよ? なんでも恩を受けたとか何かでさ、ダンジョンはあまりないのにそこそこ賑わってるのは多分そのせいだよね」
「他の場所はたまに酷い町や村もあったからね。行き成り村の人達に身ぐるみ剥がされそうになった時は焦ったよ。って、そんな場所はごく少数だけどね。大きな都市とかじゃ、お金とかのせいで悪意が多いのは仕方ないとしても」
閉鎖的な村などでは異物である冒険者やよそ者は害獣扱いする場所も多い。その分冒険者の力を借りることが出来ないので、モンスターに襲われたらひとたまりも無いのだが…
「噂では【破龍の英雄】もここを拠点にしていたとか。エルダードラゴンを撃退した逸話はまだ有名ですよね」
「あー…確か20年位前の現代の英雄譚だね。白き賢者達と一緒に戦ったってやつでしょ? 小さい頃お父さんが教えてくれたよ」
「それなら僕も知ってるよ。【破龍の英雄】【白き賢者】【剣聖】【神の癒し手】【龍殺しの弓】の5人だよね、残念ながら名前はわからないけど」
はるか昔ではなくつい最近起きた英雄譚。人間を滅ぼそうとしたエルダー・ドラゴンをたったの5人で退けた話は国を超え大陸を超え伝わっている。
「おーい、カトル君達もこっちこないか~?」
「あ、はい! 今行きます! それじゃそろそろ行こうか」
「ほいほーい」
「はい」
雑談を終えヤスオ達の会話に混ざり楽しい時間を過ごしていく。いつかアノ二人も心からの笑顔になってくれる事を願いながら―
―27話に続く




