26-02 【新たな出会い】 Ⅱ
―大衆食堂【うちより安い店はねぇ!】
いつもなら賑わいながら楽しむリザルトだが、今日は少しばかり空気が重い。訳は簡単で、今回のアタックで僕とフィル君が戦闘不能になったからだ。やはり熊は強かったというのと、あいつの特殊行動が凄まじく厄介だったともいう。
「まさかあそこでフィルがクリティカルヒット食らうとはな。ヤスオの防御魔法があったとはいえよく生きてたぜ」
「私後列にいるじゃん、いるのになんで熊私狙ってくるのよ。ヤスオ、あんた本当に大丈夫なの? すごい勢いで吹っ飛んだでしょ…?」
フィル君が倒れた後、これ以上の探索は無理と言う事で撤退しようとした矢先に熊に奇襲されたのだ。そして更に前衛を無視してミキ向かって突っ込んできた熊から彼女を守るために飛び出しモロの攻撃を受けて吹き飛ばされた、回復魔法を使おうにもその一撃で意識が完全に落ち、目が覚めたら涙目のミキが目の前に居て驚いたよ。
熊自体は団長さんとマリーちゃん、そしてカノンで倒してくれた。フィル君が戦闘不能になっていたので前衛は団長さんしか居らず、彼もさっきまでかなり怪我をしていたのだ。回復魔法を使うだけのMPは余裕であったので何とか回復している。
「防御魔法があったお陰で気絶しただけで済んでたから平気さ。なんてーかミキってモンスターに狙われやすいなぁ、ヘイトでもあるのか?」
こう、シーフだし元スリだから…?
「その大怪我で気絶だけで済んだだなんて言うなっ! つーか……そんなの知らないわよ。それより本当に平気なの? 私のせいで再起不能とかやめてよね…まじで」
以外に心配性な所があるんだな、やっぱり根っからの悪人じゃないよお前はさ。
「畜生、俺じゃまだまだ熊はきついのかよ。前回上手く行き過ぎたせいで気が緩んでたか…俺!! ヤスオッ! 次は絶対不甲斐ない姿はさらさねぇ! 次も連れて行ってくれ! やられっぱなしじゃいられねぇ!」
悔しそうな…いや、あれは自分を責めてる感じの表情だな。前衛を一緒に頑張ってたからな…彼は負けず嫌いな所があるし、これが悪い方に行かなきゃいいが。それとなく釘を刺しておくことにする。
「あぁ、勿論さ。でもちゃんと身体を休めて完治してからだ、それとアタックは早くても週に1回って決めたんだし、それまではゆっくり治してほしい」
「任せておいてくれ!」
「最後の方かなり混乱しちゃって…もう少ししゃんと出来てたらヤスオさんに向かってた熊の足止め出来たかもなのになぁ…最後の方は団長とカノンさんだけで戦ってましたよ…カノンさん居なかったらどうなってたことか」
落ち込み度が半端ないマリーちゃん、器用に椅子の上で三角座りしてた。何とかフォローを、と思った所でカノンが皆に対してフォローを入れてくれた。
「全てが全て上手く行くわけじゃないわ、今回は私にも不手際があった、それでも運良く全員生きてる。うだうだ言わないで次に活かしましょう? それが建設的よ。貴方達もこれで辞めるつもりはないんでしょう? 貴方達が諦めないのなら、私はそれに着いて行くだけよ」
「よく言ったぜカノン! 俺もこの程度で諦めるわきゃねぇさ! お前等もそうだろ! フィル、マリー!!」
カノンの言葉に乗って強く激励する団長さん。その言葉に吹っ切れたのだろう、二人共表情が明るくなったのが分かる。
「おおっ! 俺もやられっぱなしじゃ居られねぇ!! 次は確実に避けてみせるぜっ!!」
「勿論です! お父さんの娘として不甲斐ないままでなんていられませんからっ! ヤスオさん、次も良ければ誘ってくださいね。私全力で頑張りますから!」
「店の中で暑苦しい奴ら…何事も全部上手く行くわけない、か。でもまぁ…恩を返さなきゃ行けないしね、ヤスオがやるんなら手伝うわよ。でも熊は勘弁な」
やれやれといった表情でため息をつきつつ僕に告げるミキ。
「締まらねぇなぁ…ミキらしいけどさ。僕も次は耐えれる様に体鍛えないとなぁ。カノンが居なかったら全滅だったんだし」
そう、今回はもう取り戻せないが僕達はどうにかこうにか生きて戻れたんだ、それを次回に活かして行けばいい。そう勢いつけた所で遠慮がちな声が聞こえてきた。
「あ、あのー…お久しぶりです、あの時はどうも」
「お…? あ。貴方はあの時の。お元気そうで何よりです。えー…と?」
其処に居たのは初回のアタックの時にダンジョン内で出会ったパーティの男性だった。あの時は防具などを着けていかにも冒険者と行った出で立ちだったが、今の彼は、その…まるで僕の様に、どこにでも居る一般人のようにしか見えない。僕等二人で町を歩いてたら100人中100人冒険者とは気づかないと思うほど特徴がなかった。考えてて自分にもダメージががが…
「あ、僕はカトルと言います。まだまだ駆け出しですかファイターやってます。皆さん今回は大変だったみたいですね…もしかして熊相手でしたか?」
「へー…俺はフィル。同じくファイターだ、宜しくな。一応あのダンジョン潜ってるな、まだまだ俺じゃきついけど。適正なのは団長とヤスオとカノン。後は今日は居ないけどメイジのアリア位なんだよな、まだ」
「あれ? あんた五人パーティじゃなかったの? もしかしてハブられた?」
やめろ、その言葉は僕にも襲い掛かってくる。
「い、いえ流石に知り合いとは言え4人の女性の中に混ざるのはきついんで、探索時とか用事がなければ個人で行動してます。あ、仲は悪く無いですよ?」
あー、分かるよ。女性と一緒にいるとこう…いたたまれない気持ちになるんだよね。アリアちゃんとかセレナちゃんとかだったら大丈夫、一応そこのミキも平気だな、見た目女だけど、なんか違うし。
「あんた今失礼な事考えなかった?」
「いえ別に」
「実は貴方達を探していたんです! お願いがあります! 臨時でも良いので次回のダンジョンアタック時に僕等も誘ってもらえないでしょうか! これでも一応熊以外なら倒せる実力はあります! レベル申請が必要なら、問題なく教えますので!!」
学校の体育会系みたいな元気の良さで声を張り上げるカトル君。臨時パーティを組んで欲しい…か。僕は構わないんだけど…皆にも聞いておかないとな。
「貴方達を…ですか? 僕は別に構いませんが…皆はどうかな?」
「いい目をしてる。よく居る寄生目的って訳じゃなさそうだな。俺等は自警団だし、その辺はヤスオ、お前に任せるぜ? 俺個人としては別に良いと思うがな。んで、俺はレベル9だ、礼儀として先に伝えておくぜ。あんたのレベルを聞いていいかい?」
「あ、ありがとうございます!! レベル9…かなりの高レベルじゃないですか…!! 恥ずかしながら、自分はまだレベル6で……メイン武器はナックルです。手数タイプで下級技が数種と、とっておきがあります。タフなのが持ち味で、HP上昇が中級なのが唯一の自慢です」
そういえばあの時も武器は持っていなかったが…まさかの肉弾戦タイプとは…一応技の種別に【拳闘術】ってのがあって素手でも戦えると聞いた事はある……でも小手や爪をつけてるとはいえ素手でゾンビや熊を殴るのは勇気が要りそうだな……
そしてレベル6ならフィル君と同レベルだ、一緒にフィールドで戦ってもいいし、ダンジョンに行くのもいい。彼らも熊から撤退してたとは言え、それ以外は倒してたそうだから、問題なく戦えると思う。
「……………………………ふむ。このパーティのリーダーはヤスオさん、貴方よ。貴方が許可するなら私は反対する理由はないわ。そこそこの実力もありそうだし、貴方に任せるわね」
【―のーないかのん― ……………………………はっ!? あ、あまりの事で一瞬気絶してたわ…ぱねぇ…ぱねぇわヤスオさん! まさかたった一度の邂逅で相手からパーティに誘って欲しいって言われるなんて…私ヤスオさんをまだ把握してなかったようね・・・もしかして彼はコミュマスター!? ぼっち救済の星なのっ!? そうなのねっ! 私着いて行くわどこまでもっ!】
「僕の方も反対する理由はないですね。色々な戦い方も考えてみたいし、そちらこそ良ければお願いします」
常に一緒のメンバーで、と言うのは生きている人間である以上無理がある。フィル君達は自警団員だから、毎回お願いする訳にも行かない…フィル君は別だが。カノンやアリアちゃんは生活の為に違う依頼を受けている時があるし、女性である以上どうしても無理な日も出てくる。沢山の臨時で組める相手がいれば探索やステータス上げも捗るし、断る理由はなかった。
「ありがとうございます! パーティ名【パニッシュスター】リーダー、カトル。以下5名! これからいつでもお誘いください!!」
こうして僕達は新たな知り合いを得たのだった―




