26-01 【新たな出会い】 Ⅰ
―ダンジョン【ざわめく死者の通り道】
「あーもう、うざったいっ! 喰らえ【流星】!! ちっ! 全然止められないんだけどっ!」
―ミキの攻撃! 【流星】発動!!
―ゾンビAに中ダメージ! ………捕縛失敗!!
「いやっ! ナイスだミキ! こいつでしまいだあああああああっ!!」
―ファッツの攻撃! 【断割】発動!!
―ゾンビAに致命的なダメージ!!
―ゾンビAの防御力1段階低下!
―ゾンビAを倒した!!
ミキが放った矢の一撃がゾンビの頭部に突き刺さりその動きを鈍らせる。捕縛こそ出来なかったが、その隙を逃す団長さんではない。自分の身長程もある巨大なグレートソードを振りかぶり力任せに【剛剣術】と共に振り下ろした―!!
薪割りの様な感じで頭部から真っ二つに両断されるゾンビ、赤黒い血が飛沫となって溢れていた。
これで雑魚はほとんど片付いた、残りは…前方のブラウンベアー2体!!
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
気圧されるような咆哮と共に巨大な手をフィル君向かって叩きつけようとするが、それよりも僕の魔法の方が速い!
「フィル君っ! 持ちこたえるんだっ! 【土壁】!!」
―【割り込み】!! ヤスオは【土壁】を唱えた!!
地面から突如土色の壁が発生する!! 土属性防御魔法【土壁】だ、その防御力は【風壁】よりも高くかなりのダメージを防いでく……
強固なレンガを沢山並べたようなクラスの頑丈さを誇る土壁があっさりと壊され、それでもなお勢いの緩まない爪の一撃が槍を構えていたフィル君にたたきつけられる。
―フィルに甚大なダメージ!! 残り4割
体重の軽いフィル君はその衝撃で吹き飛ばされ木に衝突してしまう。
恐ろしい事に叩きつけられた木が折れてしまっていた。防御魔法で火力を押させているというのにあの威力…正面から受けるのはやはり厳しすぎる!
「ぐはっ!? す、すまねぇヤスオ、助かった!!」
槍を杖代わりにして起き上がり、すかさず熊向かって突撃するフィル君。浅くないダメージを受けているというのに、そんなこと意に返さず突き進むその姿はまさに戦士だ。
「お返しだっ! 食らいやがれええええっ!? 【螺巻撃】!!」
―フィルの攻撃!! 火属性を帯びている!!
―【螺巻撃】を閃いた!!
槍の穂先を中心として空気のようなものが螺旋状に渦巻いている。あれは…見たことが無い!? 今閃いたのか!!
「しゃあああああああああああっ!!」
「ごぎゃああああああああ!?」
―ブラウンベアーBに中ダメージ! 【スタン】!!
胴体に突き刺さる槍と、ワンテンポ遅れて叩きつけられる衝撃波によってあの巨体の熊が数メートルも吹き飛ばされた!! なんて威力なんだ。
そしてこれで2体とも隙が出来た! すかさず手を目の前に突きつけて魔法を唱える―!
「すげぇっ! あれなら隙だらけだっ! 纏めて吹き飛ばすっ! 【爆裂】!!」
―ヤスオは【爆裂】を唱えた!!
轟音と共にモンスターの目の前で爆発が発生する!!
―ブラウンベアーAに中ダメージ!!
―ブラウンベアーBに中ダメージ!!
―弱点!! ゾンビBに致命的なダメージ
スタンして動けていなかった熊は爆発の衝撃と熱波をモロに受けてそのまま倒れこむ、ゾンビは元々脆い上に火が弱点なので今にも燃え尽きそうになっていた、もう一体のブラウンベアーにも浅くは無いダメージを与えられている。武器を使ってダメージを与えるよりも何倍も強いのだから魔法ってのは本当に強い…
「す、凄い……追撃しますっ! 【流星】!! よしっ! 熊を止めました!!」
―マリーの攻撃! 【流星】発動!
―ブラウンベアーAに小ダメージ! 【捕縛】!!
マリーちゃんが放った矢が突き刺さると同時に矢から放たれたオーラの様な物が熊の周りに渦巻く、あの強大なモンスターがその渦を破ることが出来ずにいた。これが捕縛効果か…!
これで倒れているヤツと捕縛されている熊、そして死にかけのゾンビが居るだけ、そうなれば後は―
「纏めて薙ぎ払うわ。【黒淵弾】」
魔道書を開き集中した後右手を前方に突き出し魔法を唱えるカノン。
同時に手の先から魔法陣が展開され、真っ黒な弾が凄まじい勢いでモンスター達に突き刺さっていく、その様子はさながら機関銃の弾丸の様だ。
―カノンは【黒淵弾】を唱えた!!
―漆黒の塊が無数の弾丸になりモンスターに襲いかかる!!
―ブラウンベアーAに絶大なダメージ! 攻撃力1段階低下!
―ブラウンベアーBは絶大なダメージ! 攻撃力1段階低下!
―ブラウンベアーBを倒した!!
―ゾンビBに即死ダメージ! 攻撃力1段階低下!
―ゾンビBを倒した!!
すでに死にかけて居たゾンビとダメージを与えまくった倒れている熊はその一撃で倒される。中級魔法は僕が使う下級魔法とは威力からして違う。流石は後列での砲台と言われる火力職だ。
後残っているのは死にかけてもなお捕縛され続けている熊1体のみ。
「しぶといのね……後は任せます」
「おぉっ任せろ!! 【断割】!!」
―ファッツの攻撃! 【断割】発動!!
―ブラウンベアーAに大ダメージ!!
―ブラウンベアーAの防御力1段階低下!
―ブラウンベアーAを倒した!!
―ヤスオを除く全員に経験値配布!
―ヤスオは【器】【知】【魔】【精】【運】が1上がった!!
―………条件クリア、スキルが開放されました。
―ヤスオは【トランスブースト:未熟】を覚えた!!
―【トランスブースト:未熟】アクティブスキル
―1週間に1回のみ使用可能、意思の鎧を身に纏う。
―他の装備との弊害は起きない
―自身の攻撃ランクと防御ランクが1ランク上昇
―【力/速/魔/器:+50%】
―【火属性耐性】【風属性耐性】
―但し現状心も力も未熟な為使用後から3ターンの間しか持続せず、
―発動終了後HPとMPが1割になる。
豪快な一撃で熊を叩き潰し、最後のモンスターは消えていった。隣ではミキがなんとも言えない表情で叫んでいる。
「しんどかった…超しんどかった…!! よく生きてるよね私等っ!?熊二匹に挟み撃ちされるなんてどんだけ運が悪いのよ!?」
そう、実はこの戦い前方で熊1体と戦ってた時に後ろから応援に来られた形になって戦っていたのだ。ミキが奇襲に気づいてくれなかったら後列から崩されていたと思う…そうなれば防御の硬いカノンはともかく、ミキやマリーちゃんは死んでいた。ホントミキのお陰で助かったよ。
そして運が悪いってのは同意だ。ステータスの運は幸運には関係してないのかなぁ…それとも全員の合計…とか? 運は曖昧なステータスだからよくわからないんだよなぁ…一応高いとスキル使用回数が上昇したりするが。
「私何気に初めて熊倒したんですけど…ヤスオさんとカノンさんが凄いです。そして何気にフィル君が強いのがびっくりだよ」
「あはは。よし、回復するから動かないでくれよフィル君。……【治癒】!」
―ヤスオは【治癒】を唱えた! フィルのHPが回復 残り7割
―ヤスオは【治癒】を唱えた! フィルのHPが回復 残り10割
「さんきゅーヤスオ。て、ひでぇなマリー? 俺だって成長するっての。これでダンジョンアタックは二回目だし、モンスター大発生の時も戦ってたんだからな?」
「はっはっはっ! もう少しで俺とレベルも並ばれそうだしな、さっきも中級技閃いたじゃねぇか。流石、家のモンだぜ!」
高笑いしてフィル君の背中をバンバンと叩いて激励する団長さん。ハウルさんとは対照的に明るいタイプの人なのだ、細かいことはスルーしちゃう時もあるって聞いたが、見た目からして良い兄貴分なのが分かる。僕も結構お世話になってるし。
「熊2体にゾンビ2体…逃げ切れなかったから戦ったけど辛かったなぁ。熊もそうだけど、ゾンビが気持ち悪い…ゾンビハウンドも結構来たけど…」
食べたものが逆流しそうなほどゾンビが気持ち悪かった。生理的嫌悪ってのが一番にあるとして…単純に全身が腐り果てて臭いがひどくて、気持ち悪い。人からのゾンビだろうとモンスターとしてのゾンビだろうと、これに慣れるのはかなり厳しい。
「不思議なことにあんだけ強い癖にその辺のメンタル弱いわよね。何? ギャップ萌えでも狙ってるの? あんたじゃ受けないわよ?」
誰もそんなもの狙ってないです。
「何にせよ、前衛の疲労が多いわ、少し休憩することにしましょう。私とシーフ。比較的疲労が少なくて探知も出来る二人で見張るわよ。」
【―のーないかのん― フィル君もそうだけど団長さんもかなり疲れてるし休ませてあげないと。後ねシーフ? ヤスオさん結構可愛いじゃない! こうもちもちとしてそうで、小さな身体に大きなパワーが宿ってるのよ! あれはきっとコミュパワー! コミュ障である者たちを導き、共に歩むことでパワーアップしてるのかもしれない! さすがね…流石過ぎるわ…!!】
「私だって疲れてるんですけどぉ?」
「なら次は貴女が前衛に立つ?」
「ちくしょ、ああ言えばこう言う」
「あっ! 私も手伝います! こういうのは慣れてますしっ!」
ミキ達が色々と楽しそうに話している中、僕は一人思考の海に潜っていた……やはりと言うか強い敵を相手にするとステータスがかなり上がりやすい様だ。勿論上がらない時も多い、さっきは熊一体も倒して上がらなかったから。それでも普通にハウンドをちまちま倒しているよりステータス上昇の可能性は高い。このまま成長を続けて【知】と【魔】が上がればカノンやアリアちゃん達が使える中級魔法にも手が届きそうだ、そうすりゃ戦いの為の手段は更に広がる。
所でなんかアクティブスキルっぽいの覚えたけどなんだろう…未熟ってなってるし……
【トランスブースト】説明を見る限りでは意思の鎧を身に纏うとなっている。か、使ってみれば分かるかもだけど終了後に強制的にHP、MPが1割になってしまうという……やすやすと使えるもんじゃねぇなぁ
更に週に1回とかなってるしミスったら死亡する可能性がある以上、今直ぐ使うのは怖いのが本音だ……町で訓練してる時に試してみよう、一応事故があるかもだからポーションは用意して……流石にMP1割じゃ【治癒】も使えるかどうかわからないしなぁ。
「そう言えばヤスオ? そろそろレベル上がったんじゃないのか? あれだけ戦ってるしもうすぐ10になるかもな」
「あ、うん。どうやらまだみたいだね…レベル12になってステータスも整えば一応中級になれるらしいから頑張らないと」
そういや僕ってステータス的には今どれ位なんだろうか……? 近い内にティルさんに相談してまた変えないとか…レベルが無いのに嘘の申告をするのはどうにも心苦しいよ。
「【レベル9】の壁、ね。下位クラス冒険者の進退に関連する奴よ」
「私も知ってます。レベル9から10になる為の経験はかなり高くて それに挫折して辞めてしまったり、その間に死んじゃったりしちゃうんですよね。これを越えれなければ上級はおろか中級にもなれないって。お父さんも昔体験したって言ってましたから」
「ハウルがそれだな。レベル10になる前に大怪我やらかしちまって冒険者を辞めざるを得なかった。今でこそ快復してるがもうやる気はねぇらしいぜ。あいつほどの奴が辞めちまうほどだ、10になるってのはひとつの壁なんだろうさ」
あのハウルさんでもレベル10になる前にやめてしまうことがある……そう考えると目の前のカノンもアリアちゃんも、そしてアルスさん達も凄い存在何だと改めて認識させられるな。
何な人達と臨時パーティを組めるというのは本当にありがたい事だ。
「なるほ…うわっ?」
「でもなヤスオ、お前ならやれるさ。あれだけ毎日頑張ってるんだ、努力は必ずお前に答える。後は何かあれば今回みたいに俺等を頼れ。流石にこの町の外にはついて行ってやれねぇが困ったことがあれば助けてやる」
僕の背中をバンバンと叩いて笑顔で言う団長さん。あぁ、こういう人が近くにいるからこそ、あの自警団は皆いい人で和やかな雰囲気なんだろうな。そして…滅茶苦茶心苦しいのがもう…ね。まんま騙してるから心が痛いってのなんの…でもレベルが存在しないなんて言ったら大混乱しちゃうだろうし、下手すりゃ……皆なら無いと思うが…どうしても脳裏をよぎってしまう…
排斥される可能性がある……という事を。
「楽そうでいいわねあんたら、私なんかこうやって辺り注視してるのに。ミキ様を労れヤスオっ!」
「やれやれ、おめーはどこでも脳天気だよなぁ。ダンジョンアタックが終わったらいいだけ労ってやるさ。だから見張り頼むな?」
「俺はいつでもいいぜ! いつまでも女にばかり守ってもらうのは俺の性に合わねぇからな! まだまだ始まったばかりだ、気張っていこうぜ!」
「俺も回復してもらったしなそろそろ行こうぜ。ヤスオ、次は前に立つのか? お前の連携攻撃って凄く頼もしいんだよな。魔法もすげーけど、そっちはカノンがいるしな」
「勿論さっ! どの状況でも戦えるようにしないと。皆悪いけど次は回復と指示が少し鈍るかもしれないから注意してほしい。カノン。君が一番周囲を見れてるからもしもの場合は頼んでいいかい?」
いつでも冷静に周囲を把握しているカノンならもしもの時は頼りに出来る。前衛に居る団長さんは僕で遅れて出来なかった指示を代わりにやってくれるから、前衛に集中出来るのがありがたい。
「任されたわ。でも早くどちらにスイッチしても指示できるようになりましょうね。後列での指示は見事だったからこの調子で頑張って? 期待しているわ」
【―のーないかのん― 仲間として期待されてる!! 期待されてるわ私っ! 任せてヤスオさんっ! 任されたからには全力で皆を纏めてみせるわっ!皆…あぁ…私は今パーティに居て輝いているっ!】
ほんと、頼もしいよカノンは。早く肩を並べられる様にしないと…な!! 僕達はミキの先導の下、ダンジョン探索を再開した。この後も全力で行こう。
―皆全力で戦っている!!
―ゾンビを倒した!!
―ゾンビハウンドとゾンビを倒した!!
―ブラウンベアーを倒した!!
―ハウンド3体とゾンビを倒した!
―フィル戦闘不能! ブラウンベアーを倒した!
―ヤスオは【速】+1上昇!
―撤退中ゾンビハウンド3体、ブラウンベアー1体に襲われた!
―ミキを庇いヤスオ戦闘不能! 敵から逃げ出した!!
―撤退完了




